1話
本当に、全くする事のない3人は、しばらくは無言でコーヒーをすすっていた。だが、むつと祐斗の視線はちらちらと颯介に向けられていた。
2人の視線に気付いていない颯介は、相変わらずぼんやりとしている。普段であれば、する事が無ければネットサーフィンをしたりしているというのに、今日に限っては何もしていない。何もする気になれないのかもしれないが、どことなく様子がおかしい。
「うーん…お尻痛くなってきた」
マグカップを置いたむつは、沈黙に耐えられなくなったのか、ゆっくり立ち上がると伸びをして、腰をひねっていた。ばき、ばきっと腰を鳴らすと、冷めたコーヒーを一口飲んで、ふうと息をついていた。
「颯介さん、体調悪かったら無理して居なくても大丈夫よ?どうせ、依頼なんか無いんだしさ。帰ってゆっくり休む?ここよりは…暖かく過ごせるんじゃない?」
事務所の中では寒すぎるとむつが言うと、祐斗も頷いていた。そして、祐斗はエアコンのリモコンを取ると、設定温度を確認していた。
「本当に30℃になってますね…それでも、全然効いてる気がしませんね」
祐斗は諦めたようにリモコンを置くと、むつが使っていたブランケットを自分の膝の上に置いた。