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3話
むつと西原が何やら、こそこそと話しているのに気付いていた祐斗は、無駄に電気ポットでお湯を沸かし直したり、なるべく時間をかけてコーヒーをいれていた。キッチンからだと、西原がむつの手を握り、笑い合っている姿がよく見える。
少し前に、むつが幼馴染みの菜々と猫又という妖であるこさめと共に、バレンタイン用のチョコレートを作った際に、本命はないと言っていたというのに。2人の様子を見ていると、何故付き合わないのかが不思議でならない。よく分からないが、寄りを戻すのも難しい何かがあるのだろうか、祐斗は密かに首を傾げていた。
「あーさっぱりした」
リビングのドアが開き、がしがしと髪の毛を拭きながら山上が、2人の邪魔をするかのように入ってくると、祐斗は少しがっかりした。むつと西原の些細でも、幸せそうな時間を壊すのは、さっきも今も山上だ。祐斗はそんな事を思いつつ、むつと西原にコーヒーを持っていった。ちらっと下を見ると、手は完全には離れていない。小指を絡ませるようにして繋いでいて、祐斗は自分の事のように幸せを感じていた。