3話
山上がさっさと服を脱ぎ始めると、祐斗と西原はリビングに戻った。そこでは、むつが床に座ってタバコを吸っていた。
「…祐斗ちょっと、おいで」
リビングに戻ってきた祐斗に気付いたむつは、タバコをくわえたまま、おいでおいでと手招きしている。
「えっ?いや…その…」
山上と立ち聞きしていたのを怒られるのだと、祐斗はむつの方に行こうとはしない。だが、むつは意外にも優しげな顔をしている。祐斗には、それがかえって恐ろしい。行きたくはないが、行かないともっと恐ろしい事になる。祐斗は、そろそろとむつの横に行くと、背筋をぴんっと伸ばして正座をした。
「怒らないから。どこから聞いてたの?」
「はい、あの…西原さんが、今よりも好きになってくれって事かって聞いてた所から…」
「ん、ならいいや…でも本当に?」
「本当ですって。社長が、あいつら遅いってなって…見に行ったら、ちょうど西原さんのその声がして…それで…すみません」
「いいよ…それなら、いいの」
「…むつさん?」
怒りもせず、恥ずかしがりもせず、むつはやけに優しげな表情をしている。そしてタバコを置くと、その表情のままで祐斗の額をぴしゃりと叩いた。
「…怒らないって言ったじゃないですか」
「叩かないとは言ってない」
ふんっとむつは鼻を鳴らすと、吸いかけのタバコを唇に戻した。そして、深く吸い込んだ煙を、ゆっくり吐き出していた。