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3話
シャワーだけのつもりだったが、むつは湯船に勢いよくお湯を入れ始めた。ゆっくり温まれるのはやはり湯船でだ。
雪で濡れた服を脱いで、むつは頭から熱いお湯をかぶった。ゆっくりと身体が暖まっていくと、むつは今日の短い間に色々な事があったな、と息をついていた。妖の出現より、颯介の事が気になって仕方ない。西原から聞いた話からすると、颯介の家はむつの家よりも複雑で、悩む事が多いのかもしれない。
家庭の事情っていうのは、当事者とならなければ分からない。端から見れば、そんな事かと思っても、意外と悩むのだ。悩みとはきっとそんな物だ。むつは、もこもことさせた泡で全身を包みこんだ。
風呂場がお気に入りの香りで満たされてくると、心地よさにむつは気持ちが落ち着いてくる気がした。だが、やはり色々な事が気になって仕方ない。
「…一緒に居ても問題にはならないのに」
お湯が溜まってくるとシャワーで、泡を流した。そして、置いてある入浴剤を入れてお湯の温度を確認すると。そろそろと入っていった。