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1話
「…どうしたんだい?」
「何でもない。ありがとう」
手を伸ばしてマグカップを受け取ったむつは、ゆるゆると首を振った。そして、1つを祐斗に渡した。
「ありがとうございます」
「…それにしても、冷えるよね。暖房きいてる?フルにしたはずだけど、あっという間にコーヒーも冷えてく」
むつは、はぁぁと息を吐いてみた。白くなる事はないが、なりそうな気がしたのだろう。祐斗も真似してやってみたが、白くなっているのはマグカップから立ち上る湯気だけだった。
「暖房フルにしたって…何度に設定したんだい?」
「30℃」
当然だと言いたげなむつに颯介は、苦笑いを浮かべた。エアコンからは暖かい空気が出ているが、それだけでは到底間に合わないくらいに今日は寒い。今日はではなく、ここ最近はおかしなくらいに寒かった。
「おんぼろな事務所だから隙間風があるのかしら?ガムテープで目貼りしちゃおっかなぁ…」
ぼそっとむつが言うと、颯介と祐斗がそれだけは止めてくれと言っていた。そう言われたむつは、少し不貞腐れたように頬を膨らませている。どうやら、本気で考えていたようだ。