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3話
「事務所に帰るぞ」
「…颯介さん送るのは?」
「無しだ。湯野ちゃんを1人にしておくのは…よくない気がするからな」
自分の居ない間に、何があったのかとむつは後部座席を見た。そこには、颯介がぐったりとしたように横になっている。颯介の肩の上には管狐が、ちょこんっと座っているが、どことなく様子がいつもと違う。
「何があったの?」
「帰ってから話す。お前…そのコート脱げ」
「あ、うん…」
山上は機嫌が悪そうで、むつをじろりと睨み舌打ちをならしている。勝手に動いたから、期限を損ねたのかと思ったむつは、大人しく黒いコートを脱いで丸めると膝の上に置いた。
「ったく…どいつもこいつも…」
「………」
自分の事を言われているような気がしたむつは、何も言えずにただ山上の運転する車に、大人しく揺られておく事にした。