3話
「あ、おい‼むつ‼」
通りを抜けたむつは、車はどこかときょろきょろしていると、聞きなれた声がした。むつは、そっちを振り向くと、ほっとしたように駆け出した。
「社長っ‼遅くなって…ごめ…」
「そんな事は、いい。大丈夫だったか?どうしても、湯野ちゃんを1人にしておけなくて…悪かったな。大丈夫か?」
寒いというのに、車から降りてむつが戻るのを待っていたのだろう。山上の鼻先が、寒さで赤くなっている。
「大丈夫。待っててくれてありがと」
「…お前、このコートどうした?」
むつが意外と大丈夫そうなのに安心した山上だったが、車を降りた時には持っていなかった黒いコートを見て、目を細めていく。怒られるような事をしたわけでもないが、何となく言いにくくむつは視線を泳がせた。
「誰のだ?お前のコートは湯野ちゃんにかけてやってただろ?誰と会ったんだ?」
「…あ、あの人に助けられた」
「あの人?あれか?むつを拐った奴らの仲間だって男か?そうだな?」
「う、うん…」
がしっとむつの肩に手を置いた山上は、盛大な溜め息を漏らした。そして、追いたてるようにしてむつを車の助手席に押し込んだ。