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3話
むつは足早に、山上と待ち合わせに決めていた場所へと向かっていった。走ると転びそうで怖い。だが、急がないわけにはいかない。山上は、この通りを抜けた先で車を停めて待っているはずだ。むつは、ぎゅっぎゅっと雪を踏み締めながら、転ばないように歩いていく。
「…はぁ…寒い。何か…ちか…前はあんなに心配性じゃなかったのに…お節介っていうか…前の、つんってしてる方がかっこ良かったのに…イメージが…あぁ…普通過ぎた…何か残念だよ。本当。知らない方がいい事って、意外といっぱいあるのかも…」
助けて貰い、少なからずとも教えて貰えた事があるというのに、むつはぶつぶつと文句を言いながら、でも…とくすっと笑った。仕事を離れた時、一緒に生活をしたほんの少しの間の事を思い出して、今日会ったちかげは根の方だなと感じていた。少し抜けてて、お節介で腰が低くて気弱そうな。そんな面があったのを、思い出したいたむつは、借りているコートの襟元を会わせて、どことなく幸せそうな顔をして、そして少し悲しそうに笑っていた。