3話
じっと何かを考えていたむつは、少しだけ唇を噛んでいた。何か言いたい事があるようだが、それが言えないでいる。そんな感じだった。
「…分かった。もし、もしね…あたしらが動くってなった時…」
「俺の邪魔はするなよ」
「約束は出来ないかな…?」
「だろうな。それでいい…むつは、むつが思った通りに動いてくれれば。それでいい」
「ん…」
「コート、着ていけ。俺ももう行く…長居すると誰に見られるか分からないからな」
「素顔だもんね」
久しぶりにちゃんと顔が見れた。と、むつが呟くと、ちかげはあっと声を上げて手で口元を隠した。だが、今更遅い。
「襲われてるのがむつ様だって分かったから、顔を隠す暇もなく飛び出して行きましたから」
「…そうなんだ?ありがとう。本当に」
「ちかげ様は意外と抜けてますから…私がしっかりしないといけないのです」
大変ですよ、とネロは言った。だが、その言い方はどことなく楽しそうであった。どんな酷い扱いをされようと、仲間が殺されようとも、そこに居ると言ったネロの気持ち。むつには何となく分かっていた。
「余計な事ばかり言うな…行くぞ」
ちかげはネロを抱き上げると、女が倒れていた方に歩き出した。追わないと言っていたのに、とむつは思った。だが、何も言えずにむつも山上が待つ方。ちかげとは反対の方向に歩き出した。だが少しだけ、気になって後ろを振り向いたが、もうそこには誰も居なかった。