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3話
「あ…」
「しっ‼」
思わずといった感じで、むつが声を出してしまうと、ちかげがすぐにその口を手でふさいだ。
むつが見ている先には、人影が見える。それもほっそりとした小柄な人影だ。だが、遠すぎるからか顔までしっかりとは見えない。ただ、髪の長い女という事しか分からなかった。その女は、ふらついているようで立っているのも、ままならない様子だった。
駆け寄ろうとするむつだが、ちかげに腕を掴まれていた。ちかげは何も言わずに、ダメだと言うかのように首を振っている。何故ダメなのか。あの女が、今まで吹雪を起こしていたにせよ、倒れそうになっているのだから、とむつは言いたかった。ちかげは、そんなむつの考えを見抜いているのか、それでも行かせまいとしていた。