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3話
「…むつ、少し厄介な事になると思うぞ。最後まで、見届ける気があればこのままここに居ろ。そうじゃなきゃ、このまま帰れ」
「居る」
「だろうな。なら、正体くらいは見ておけ」
ちかげはそう言うと、強く鈴を振った。一段と大きくなった音は、周囲のビルを使ってか、反響していつまでも聞こえている。だが、ちかげの手元の鈴はもう鳴っていない。凄い、と思いながらむつは、視線を反らさずに真っ直ぐに、前だけを見ていた。
「雪が晴れるぞ」
反響していた鈴の音が、段々と小さくなっていく。それに合わせるかのように風は止み、舞い上がっていていた雪も落ち着いていく。
いつの間にか、空から降ってきていた雪も止み、辺りは何の音もない静寂に包まれていた。むつは、はぁと寒そうに息を吐いた。真っ白な息は、空へとのぼっていきながら消えていく。