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3話
「来た…騒ぐなよ?」
しばらく、じっと待っていたちかはそう言うと、ぱっと手を伸ばして何かを掴んだ。ころころと転がってきたようなそれを手に、素早く街路樹の影に隠れた。
ちかが何を掴んだのかと、むつは興味津々の様子でその手を見ていた。手にあるのは、茶色くふかふかとした物だ。
「…ネロ、どうだった?」
「はい、やはり向こうの道はここ程の、吹雪ではありませんね。何か狙いがあって…」
腕の中にすっぽりとおさまっていた茶色くふかふかとした物は、はきはきと喋っていたが、ふっと何かに気付いたように言葉を詰まらせた。そして、ゆっくりとむつの方を向いた。
「…ひっ、人が…」
じたばたと逃げようとするそれを、ちかは大丈夫だと言って落ち着かせると、抱き上げてむつの方に押し付けた。
「あ、狐さん!!」
「むつ様‼」
ちかが掴んだ物の正体が分かると、むつはぱっと笑みを浮かべて、顔を押し付けてぎゅうぎゅうと抱き締めた。
「んーっ‼ちか、ちかげ様っ‼むつ様、むつ様!!い、息が、息が、詰まります!!」
するっとむつの手から逃れた狐は、ぶるぶるっと身を振るわせた。