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3話
「よろず屋の奴ら近くに居るなら、むつだけでも逃がすか。いや、逃がしてやりたいけど…無理だな」
ちかは何やら考えていたようだった。ちかが何をするのか、それが気になって仕方ないという顔のむつは、じっとちかを見ている。
「…俺の顔に何かついてるか?」
「ううん…何しでかすか分かんないから」
「お前と一緒にするな」
ふっと呆れたように笑ったちかは、むつに着せた上着の前を合わせさせると、下からジッパーを上げた。
「いっ‼」
「あ…」
「お肉挟んだ…」
「すまん…悪気はないんだ」
「あったら、怒ってるわよ‼ばかっ」
「どっちにしても怒ってるじゃないか」
ジッパーから手を放したちかは、挟んだ辺り、むつの顎の下をかくように撫でてやっていた。むつは、鬱陶しいと言わんばかりに手を振り払って、自分でジッパーを上げた。