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3話
そんなむつの暢気さを狙うかのように、びゅっと頬をかすめていく物があった。ちりっと頬に痛みを感じ、むつがそっと触れてみると、とろっとした物が指先に触れた。
「………」
特に急ぐでもなく街路樹の影に隠れたむつは、指先を見た。そこには、赤い血がついている。傷の深さは分からないが、すぐに手当てが必要だとは思わなかった。
それよりも、どうしたらよいか。腕を組んだむつは、険しい表情を浮かべていた。だが、それも長くは続かなかった。
「…ふっ、ふえっ、ぐじっ‼あー…」
おっさんのような低い声をあげて、ずずっと鼻をすすった。雪遊びでも冷え、コートもなしに吹雪の中立っていれば、冷えて当然だ。風邪ひくかも、と思いむつは苦笑いを浮かべた。