2-59.ニクラス合同ダンジョン演習
気まぐれトーカ!
「おはよう。今日も朝のホームルームを始めるぞ… アクアリアは出席。トール…出席っと…————」
何時ものように教室にやってきて、朝の出欠を取るジョナ先生。入学したての頃はめんどくさがりながらも、一人一人名前を呼んで出欠を取っていたのに、今ではそれすらしなくなってしまった。
「———よしっ…全員出席だな。 それじゃ本日の予定を説明するぞ。予告していた通り座学の授業は今日から無くなる。そのかわり、午前中からずっと実技だ。主にダンジョンの上層でダンジョン演習を行う」
その言葉にクラスメイトがどよどよとする。
「まぁ…みんな上級生に聞くなり察していると思うが、半期昇級試験の内容は『ダンジョン試験』だ。 それに向けての実技演習を残り一か月でお前らに仕込む予定だ。 全員しっかりと準備を整えておけ! ではダンジョン入口前に各自準備を済ませて集合! 以上解散!」
そう言い残してジョナ先生が退室する。
クラスメイトたちもジョナ先生が退室した後、それぞれ必要な準備を済整えていく。剣を携え、購買で買っておいた携帯食や必要な必需品であるランプやロープなどを詰めたポーチを装備して、それぞれ準備を済ませていく。準備を整えた者からダンジョン入口がある一棟一階に向かって歩いていく。
俺やアイリス、ランバートもクラスメイトたちと同じように準備を整え、移動を始めた。
◇◇◇
俺たちがダンジョン入口の扉前に集合すると、そこには既に先生方が揃っていた。実技兼Sクラス担当教諭のジョナ先生や魔法学・戦術学のセレナ先生、他にも数名の先生方が集まっていた。Sクラス生徒も俺たち三人組が一番最後のようだった。
しかし…
「やけに生徒の数が多くないか…?」
ダンジョン入口に集まっている生徒の数が多いのだ。
Sクラスの生徒は全員で十名のはずだが、明かにその三倍の数の生徒が集まっている。
Sクラスの生徒たちも何でこんなに生徒が居るんだ、と疑問に思っているらしく困惑していた。
全員が疑問を感じた中、初のダンジョン演習の授業が始まった。
生徒たちが整列している前に担任のジョナ先生が前に設置された即席教壇に上がる。
「あー、本日から始まるダンジョン演習の監督代表になりましたジョナ=フォン=ディオールだ。Sクラスの生徒諸君は色々と疑問に思っていることがあると思うから、説明するなー。 まず、一か月後に迫る昇級試験内容がダンジョン試験だと知っているな。ダンジョン試験はこちらが組んだパーティで挑んでもらう。 つまりお前らに決定権は無い訳だな。 それで、だ! これまで一緒に組んできた仲間となら連携もチームプレイも当たり前のように出来るだろう。しかし、それは出来て当然のことだ。 ダンジョン試験の合否判断条件は『協調性』の有無だ。 よって、即席パーティであっても一定の連携・チームプレイが出来るようにするため、ダンジョン演習はSクラスとAクラス合同演習授業になった。 以上で説明を終わる。質問のある奴は手を上げろー」
Aクラスは予め知らされていたのか、誰一人動揺することは無かったが、Sクラスの生徒は今知らされたので皆、顔に強張っていた。
Sクラス生徒はクラス内でパーティを組んで登録しており、これまでパーティの連係プレイの修練を摘んで来ていた。しかし、それが今度行われる昇級試験では役に立たないと知らされたのだ。そりゃ不安にもなるな。
演習の内容を知らされた生徒たちの中に疑問の声を上げる者はいなかった。Sクラスだけは渋った顔をしたものが多かったが、異議を申し立てる生徒は居なかったことを横目で確信したジョナ先生が説明を続ける。
「……ではそろそろ始めたいから、手っ取り早く説明をするぞ!」
今回のダンジョン演習はダンジョン上層の第三層のどこかに居るセレナ先生を見つけ、セレナ先生から渡される物をダンジョン入口にいるジョナ先生まで届けることが今回の演習の目標だ。制限時間は一時間と設定されており、時間的にはゆとりがある。
ダンジョンは下層、下に降りていくほど広くなっていく。上層である三層はそこまで広くはなく、道順を覚えていれば二十分もあれば三層まで到達することが可能だ。それに、Sクラス生徒は当然に、Aクラスの生徒たちもダンジョンに既に挑戦している生徒が多々居り、上層程度なら既に攻略したと言っている生徒がほとんどだ。
ちなみにだが、現在のSクラス生徒の最高到達階層は十一層でアクアリアのパーティが打ち出している。
入学案内で言っていたジョナ先生の「一年生で十層まで行ければ凄いもんだ」と言われていた。それをアクアリアのパーティは僅か半年足らずで超えているのだから、かなり優秀だと分かる。俺のパーティでさえも、まだ七層までしか攻略できていないのだ。
「では班決めをするぞ。名前呼ばれたものから並んで作戦会議を始めろ。 十分後、第一陣が出発。一時間後に第二陣が出発予定だ。 では名前呼ばれたものから前にでろ~!」
Sクラス生徒10名、Aクラス生徒30名の総勢四十人の生徒で作られるパーティ。パーティは全部で八チーム作られ、一チーム五人の即席パーティが完成する。基本的にSクラス生徒は各チーム一人づつだが、チームの戦力比によって二人組み込まれる計算だ。
そんなこんなでチームが決まっていった。
◇◇◇
「Aクラス主席のクラウス・マッケリーニだ。『鬼教官』と有名なアレクさんとご一緒にパーティに慣れて光栄です!」
「同じくAクラスのキルシェ・ロンドバートです! 序列は27位です! 同じく鬼教官さんと同じパーティに慣れて嬉しいです!」
「Aクラスのポルトですっ! 平民出身ですっ! 鬼教官のファンですっ! よろしくお願いしますっ!」
「ランバート・セグウェイだ! よろしく!」
「平民のアレクだ。 よろしく頼む」
赤色の髪の毛を短くカットした少年を筆頭に挨拶をしてくる。この三人プラス俺とランバートの五名が今回の演習で同じパーティメンバーになったチームだ。それよりも…『鬼教官』ってなんだ?
「俺たちは確か第一陣で出発だから…とりあえず作戦会議と打ち合わせを始めようか。 俺とランバートは同じパーティ登録をしている。ダンジョンも七層まで攻略済みだ。 クラウスたちはどうだ?」
「俺のパーティは五層まで到達している! 道のりも熟知しているぜ!」
クラウスが元気よく答える。さすがはAクラス主席という所か…五層まで四層まで攻略済みの五層到達とは凄いもんだ。
「僕のパーティはまだ三層攻略途中ですので… そこまで力になれないと思います。」
「あ、僕のところも似たようなものです… 力に慣れず申し訳ないです…」
どうやら戦力的にも問題ないチームだ。全員がダンジョン経験者というのはありがたい。まだ一度もダンジョンに入ったことがないという生徒もいるようだから、このチームはかなり恵まれているようだ。
「よし! 全員、とりあえずダンジョンに入ったことがあるなら十分だ。次は隊列を考えようか。それぞれ得意なポジションと技術を教えてくれ。 俺は前衛後衛どちらも行ける。剣も魔法も盗賊も出来る万能型だ」
「俺は前衛オンリーだが、魔法もある程度できる。強いて言えば剣が得意だから、前衛希望で頼むわ」
ランバートが答え終わり、みんなそれぞれ得意分野とポジションを答えていく。
全員の特技とポジションを聞き終わったところで、俺が即席に隊列を考えたところでジョナ先生から声がかかった。さぁ第一回ダンジョン演習の始まりだ!




