2-55.停学明け
気まぐれトーカ!
二週間の停学処分を終えたトールは教室にいつも通り登校する。
トールは寮謹慎になる予定であったが、先のアレクとの件で一緒に寮生活を送ることはできないと言い、寮へと運ばせる予定であった自身の家具一切を早々に王都の屋敷に撤退させていた。
トールは王都にある屋敷から登校しているため、いつも授業開始十分前に登校している。
寮謹慎をしているアイツも当然の様に登校しているだろう。
アクアリア殿下からアイツを遠ざけねば、と義務にも似た正義感に燃えるトールは勢いよく教室へ入る。
教室に入って一番右端の窓席あたりを見る。
そこはアイツを含めたアイリスやランバートがいつもたむろっている場所だ。
しかし、そこには誰も居なかった。
(……当然だな)
普段アイツとつるんでいるアイリスもランバートは、僕やミルベリアと同じくアイツが行った卑劣な行為をアイツの口から直接聞いた。アイツの実力は認めるが、アイツの行いは認められるはずがない。いや、認めてはいけない。アイツは敬愛するアクアリア殿下を酷く侮辱し、卑劣の限りを尽くした挙句、殺した罪人だ。それが例え過ぎ去った世界のことであっても赦される行いではない。
肝心のアイリスとランバートは少し離れた場所で二人で話し合っていた。
俺はそれを横目で確かめながら、自分の席へと向かう。
その途中にミルベリアと敬愛するアクアリア殿下がそばに寄ってくる。
「トール おかえりなさい!」
「トールくん おかえり! あ、これ!停学中の授業内容を記したノートだよ!一応読んでおいてね!」
「私の為にわざわざノートを取っておいていただき、ありがとうございます。おかげで何とか授業に追いつけそうです」
優しいアクアリア殿下が僕の為にわざわざ停学中の授業内容を記したノートを取っておいてくれたようだ。こんなにも気が利いて、優しくしてくれるこのお方を…アイツは…‼ 絶対に赦せるわけがない。
「トールさんは遅刻せずにこれたようですね! 二週間も生活リズムが変わってしまうと、朝の授業に間に合わなくなると思ってたんですが、杞憂でしたね!」
トールさんは、という部分に違和感を覚えた。どういうことだ?
「…いや、同じ停学を受けたアレクさんがまだ登校してませんので…少し気になりましてね…」
乾いた笑い声と心配そうにアイツのことを思うその姿にトールは憤りを感じた。殿下はアイツに誑かしている!アイツは殿下を騙しているんだ!アイツは殿下を…前世の卑劣な男なんだ!と、叫びたくなるが、グッと堪える。
ミルベリアも同じく憤りを感じているようで、リアからアイツの事から話題を変えるように話を変えていく。そしてそこに、朝のホームルームを告げる鐘が鳴り響いて、ジョナ先生が入ってくる。
「みんなおはよう!さぁ席に着けー 朝の出席確認を取った後、魔草学の為移動教室だ。 ……停学明けのトールもちゃんと居るな。」
「アクアリア…出席 停学明けのトールも出席…と ミルベリア…出席————————」ジョナ先生が自分の席に座っている生徒たちを確認しながら、持っている出席名簿に出欠を記入しているようだった。どうやら停学中の間に出欠確認の方法が点呼ではなく、記録に変わったようだ。
「えぇっと…ディップも出席…っと… 次はトールと同じ停学明けのアレク…アレク…あれ? アレクの奴は停学明け早々遅刻か… なかなかいい御身分のようだな…‼ まぁいい… アイリス出席にグレル、ランバート出席…っと。 よし、アレク以外は出席だな。じゃ、本日の予定を伝える―――――――――」
出欠記録を取り終わったジョナ先生がいつものように今日の予定を伝えて終了かと思いきや…
「———————じゃ、最後に… トール!」
「は、はい!」
突然、名前を呼ばれたことにビクッとなりながらも急いで返事を返して、その場で立ち上がる。
「せっかくだから… 停学明けのトールには反省の言葉を聞かせてもらおうか!」
「…分かりました」と言ってジョナ先生が示す教壇の上へと上がるトール
「模擬戦監督者の静止を振り切り試合を続行し停学になりましたトールです。まず、多大なご迷惑とご心配をおかけしてしまったことをここに謝罪させていただきます。僕はこの二週間という停学期間を、自分を見つめなおす時間と考え、自分がどのような存在になりたいのかと改めて考えることが出来た大切な時間にすることが出来ました。他にも――――――――――――」
トールの言葉は前半は謝罪の言葉から入り、最後はこの先の学園生活の有意義に過ごすかを決意する内容で締めくくられた。
「————————改めて、クラスの皆さんい多大なご迷惑とご心配をおかけしてしまったことを深くお詫び申し上げます。今後は序列二位として、学園を代表する生徒会に所属する身として精一杯、学園で学び、尽くしていきたいと思います。 以上で反省の言葉とさせていただきます」
「————これからのトールの反省の態度と更なる成長に期待する。 じゃ、本日のホームルームを終わ「すみませんー! 遅刻しましたー! 申し訳ございませーん!」…アァ!?」
ジョナ先生が締めくくろうとしたところに間抜けた声が教室に響き渡った。
全員の視線が声を発した男性生徒に向けられる。そこにはトールと同じく停学処分を受けて二週間の寮謹慎を命じられ、今日から謹慎を解かれたアレクの姿がそこにあった。
◇◇◇
時は少し遡る。
「オォーーーーシッ‼ これで材料は全部そろえたなオォ!?」
「あぁ…疲れた… さすがに二週間ぶっとうしのガチ戦闘は応えるわ…」
「……なんで俺まで駆り出されてんだよ…‼」
疲労色濃く写る人間二人に未だ元気そうに仁王立ちして笑う魔族一人という奇妙な組み合わせのパーティが集っていた。
丸二週間もぶっとうしで続いた地獄の素材集めが終了した。
二週間…ほんとうに二週間の間、わずかな睡眠時間と不十分な食事という謎の過酷さの中で只管、襲い掛かってくる魔物と夜通し構わず戦っていたのだ。
もうすでに満身創痍、というより疲れが一周廻って三人とも変なテンションになっていた。というより、疲労感からくるイライラやハイテンションで狂いそうになっていた。
ここは魔界のある村にある一軒の武器屋の前に三人は居た。
一人元気なドワーフと魔族のハーフのガンジンに、元アスラエル王国最強の守護神と言われたヴェル、その弟子のアレクの姿がそこにあった。今は、人間界の時間帯でおそらく朝8時頃だろうか?
魔界は例え朝であっても薄暗い霧がかかっておりかなり薄暗い。昼頃になってようやく陽が差し込んで多少明るくなるのだが、魔素が極端に多いため、魔素を大量に含んだ魔霧や魔煙が発生しているため、天候は常に不安定で曇り空のような魔境なのだ。
三人の後ろには魔界に住む住民たちにも忌み嫌われ、恐れられている《厄災》ベヒーモスや《邪竜》バハムート、魔素毒の底なし沼に住まう怪獣ヒュドラバシリスクなど、どれも一癖も二癖もある魔界屈指の最強の生物たちの死骸が山となって店前に積もっていた。
「…そもそも、どうして俺がアレクの我儘に付き合わされてんだ?」
「まぁそんなこと言わないでくださいよー師匠! 弟子が困ってるときに助けてくれるのが師匠でしょ?」
「……その師匠より圧倒的に強くなってしまったバカ弟子にそんな情なんぞ沸かねぇ」
「ガーハッハッハッハ‼ そういうんじゃねぇぜヴェルゴォ!オラァ久しぶりにハッスル出来てぇ案外楽しかったぜェ!」
「…いつになったら俺の名前を憶えてくれるんだ、この酔いどれドワーフは…‼」
なんだかんだと学園では色々とあったが…せっかく二週間の停学期間が出来たので、久しぶりにアイリスの剣の修理を頼んだガンジンのところに顔を出したのだ。
しかし、それは間違いだった。
ガンジンは魔族とはいえ、半分は鍛冶精霊であるドワーフの血を引いている鍛冶師。それも重度の拘り症を拗らせに拗らせすぎてしまっている男だ。
そんなところに「剣の修理具合はどうですか?」と顔を出した結果、修理材料に使う素材集めを託されてしまったのだ。
始めはまぁ大丈夫だろうな、と軽く考えていたがそれは間違いだった。
要求してくる材料内容が恐ろしかった… バハムートの牙に鱗、バシリスクの毒牙、ベヒーモスの皮に魔鉄鋼に高純度の特大魔石…etc..
さすがに無理だ、と即座に判断し暇していた師匠と酒飲んで騒いでいた依頼主の三人で素材集めの狩りに出たのだ。
結果――まるまる二週間もかかってしまった。
「これで剣三本分くらいの材料はそろったな! あとは任せなアレク! とびっきりの目ん玉飛び出るくれぇの最高の魔剣、用意してやっからよぉ!楽しみに待ってな‼」
とのことだ。
さっそく材料を全て鍛冶場に詰め込み…(あんな狭い鍛冶場にどうやって詰め込んだのかは分からないが…)早速作業へと取り掛かったのだ。
さて後はガンジンが完成した魔剣を俺の元に物体転移の魔法で届けてくれるそうだ。これでとりあえず大丈夫だろう。性格はこんなでも、腕だけは一人前…いや神匠級だからな、ガンジンの奴は。
「…それよりもアレク お前、学院は大丈夫なのか?」
「………‼(ハッ!?)」
師匠に言われて急いで時間を確認する。時刻は既に午前9時を少し過ぎていた。授業開始前の朝の出席点呼であるホームルーム開始は午前9時の鐘の音——————やべぇ既に始まってる!?
「や、やべえええええええ!!」
疲れも一瞬で忘れ去り、急いで寮への転移扉を作って猛ダッシュで教室へと走ったのだった。




