2-53.嫉視
キィイイイ→→マ↑グレ↓↓トォオオ↑↑カァ→↓↓
(。-`ω-)心が叫びただっているんだ☆彡
初めてお前がお隣に引っ越してきた時、俺の胸が高鳴った。
後で気づいたが、これが「初恋」で「一目惚れ」だと分かった。
お前と一緒に居るだけで楽しかった。
お前と一緒に遊べると思うだけで心が躍った。
お前と一緒に遊べた時は気持ちが華やぐようだった。
―———————だけど、今はなんとも感じない。
お前の顔を見るだけで幸せだったのに、今では何も感じない。
お前を思い浮かべるだけで、心が躍ったのに、今では何も感じない。
お前と会えると思っただけで、胸の鼓動が高鳴っていたのに、今では何も感じない。
これが今の俺……『毒』に侵され、醜くなった俺の姿。
償うべき心を失った罪に対する罰だと言うなら、それが俺の業だ。
背負った業の重みすら感じることが出来ず、ただ無情なまでの救済。
今の俺にはお前の隣に立つ資格も、笑い合う資格も、ましてや一緒に居る資格すらない。
俺には何もないが、お前らには先がある。
俺には過去しかないが、お前らには未来がある。
俺には失ったモノがあるが、お前らは何も失ってはいない。
俺の心が「醜い嫉妬」だとするなら、お前らの心は「煌びやか」だ。
―——————————これが俺と三人の違い
俺はお前たちが羨ましい…
俺が失ってしまったモノを全て持っている。
希望も、未来も、可能性も、心も…全部持っている。
俺の夢は過去にある。
過去にあるはずなのに、過去には何もない。
未来があるはずなのに、現実が消えている。
輝かしかった過去も、嬉しかった思い出も…
すべて空想となり果て、消え去った。
だからこそ、俺はお前たちが羨ましい…っ‼
「お前らはまだ失っていない… まだ失っちゃいないんだ! お前らには俺の様に失って、後悔しないでほしい。後悔はやがて「毒」となり醜く悍ましい何かと化してしまう。 …後悔しない道を選択してほしい…っ! それが俺の本音だ」
何時にもなく、真面目に話すアレクの姿が寂しそうに見えた。
本当は一番自分が救われたいと願っているのに、救いようもない後悔と自責の念が救いを断っている。そう三人は感じられた。
もうすっかり陽が沈んでおり、自主練や模擬戦をしていた生徒たちがそれぞれ切り上げ、寮や学園外の実家や別荘へと帰っていった。学園はすっかり昼間の喧騒にも似た生徒たちの声が無くなり、静けさが増していた。
そんな中、寮の屋上にいる三人の周りには異様な静けさが漂っていた。
暫くの間、その静けさは続いたが… 以外にもその静寂を破ったのはアレクだった。
「…なんか妙に話し込んじゃったな。 今日でこれで終わろうか…って俺が話し始めたのに俺が仕切って解散っておかしな話だな… まぁ…だけど、このままじゃ全員身体に良くないだろ?明日からも学園あるんだし… だから今日はここで解散しよう」
ランバートが少し遅れて返事を返す。
「……あ、あぁ…そうだな…っ! 段々肌寒くなったきたしなっ!」
ランバートの言う通り、陽が沈み気温が下がっていた。月夜の静寂が世界を包み込もうとしていた。
アレクの「解散しよう」の声で三人は頷き、それぞれ屋上を後にする。アレクと言い争いをしたロイスもまだ言いたいことや聞きたいことがあったが、今聞くべきではないと思いとどまった。それはアイリスもランバートも同じで、今聞くべきではないと思い、終始無言で屋上から去っていった。
誰も居なくなった屋上に一人残ったアレクはただ茫然と月夜を見ていた。
(…今日は満月かな? 異世界って月が二つあるのが主流だけど、この世界は地球と同じ月は一つだったんだな…)
もうすでにすっかりと陽が沈み、闇夜には月が輝かしい光を放っている。
地球と同じ月は一つだけど、月の紋様は日本でいう「餅つきうさぎ」ではなく、よくわからないモヤモヤした雲のような紋様だった。
月を見ていると、過去を振り返るとよく人は言う。
昔はよかったなぁ、や昔はもっときれいやったのに、などと人は何故か過去を蒸し返すように見るものだ。それはアレクにも例外ではなく、昔を思い出していた。
懐かしむように過去の雪村幸樹だったころの楽しい思い出を思い返す。
引越してきた頃、初めて会った時のこと。
緊張しすぎてお互いによそよそしい感じだったこと。
それでも毎日のように二人で遊んでいたこと。
ふっと、先ほどのロイスとの言い合いを思い出す。
昔はよく意見の食い違いで朱莉と言いあってたものだ、と昔を懐かしむように思い出したのはいいが…やはりというべきか、俺の心は乱れるどころか、平穏そのものだ。心には何の変化も訪れない。
締め付けるような痛みも、失ってしまった後悔も、自分を赦せなかった自責の念すら何も感じない。
本格的に自分は壊れてしまったのか、自分の心は鋼鉄にでもなってしまったのか、と錯覚させられるくらい何も感じない。
昔を思い出しても、何も感じなかった俺が…!? なぜかさっきのロイスの言い分に我慢ならない怒りを覚えた。いや、鉄と化した心の底から湧き上がってきたのだ。
今思い返せば、なぜ自分はあんなに怒ったのだろうか?
もう、それすら分からない。
考えても、思い出しても、分からないものは分からない。
分からないことだらけの自分だけど…
それでも、アレクの信念だけは今も昔も変わってはいない。
「……結局、俺のやることは一つだけだったな… 何を迷うことがあるんだ…! どんな手段を用いてもアイツの幸せを護る…! それが俺の贖罪、償うべき業だ…‼」
◇◇◇
屋上を後にしたアイリスは、自分の部屋へと戻る。
アイリスの部屋はアレクの部屋とそう大差はないくらいの殺風景ぶりだが、それでも必要最低限の家具やアレクと王都を探索したとき買ってもらったプレゼントなどを飾ってはあった。
部屋へと入ったアイリスはそのままベットへとバタンッと倒れ込む。
思い返すはアレクの話、そしてアレクの学園に入る時にはぐらかされた目的。
自分の人生を犠牲にしてでも、かつての幼馴染に侵してしまった罪に対して償いとするというアレクの決意。
―———————まるで獣。
それも、まるで復讐の炎に身を焦がす獣。
本能のままに暴れ、目的のためなら犠牲を厭わない…
それこそ自分の命すらも賭けの対象に入れる。
アイリスはアレクに対してそう感じた。
『—————気づかないうちに、復讐心を抱いた人は醜い存在へと変わってしまう』
「…復讐心は『毒』のようなもの。抱いた人の人格や精神を蝕む強い『毒』。 気づかないうちに、復讐心を抱き、復讐心に飲まれ蝕まれてしまった人は醜い獣へと成り下がる… ……だったよね、お母さん」
昔、奴隷から解放された時にお母さんから聞かされた話。
昔はまったく意味が解らなかったし、理解も出来なかった。
だけど… 今ならその意味が解る。
この学園で一番近くに居て、一番長い時間を過ごしてきたアレク。
そのアレクが… 『毒』に蝕まれている…
アレクは強い後悔から、自分を見失っている。
自分に対して復讐心にも似た強い想いを知らず知らずのうちに抱いてしまっている。
そんな彼の一番近くに居たのに…
近くに居たのに気付いてあげれなかった…
私は… 与えられてばかりだった…
「わたし… どうすればいいの…?」
ぼ、僕ってそんなに性格悪いのかな…!?
まぁ… いいか( ̄▽ ̄)




