2-52.感情の衝突
気まぐれトーカ!
※大幅編集しました。
文章が少し変えてますが、ストーリーに変更はありません。
「…アレクさんが…アレクさんがそんな事を言わないでくださいっ‼」
ロイスが眼に涙をこらえて吐き捨てるように言う。
アレクはランバートに殴られるだろうな、とは思っていたが…まさかロイスにぶん殴られるとは考えても居なかったのだ。
アレクは呆気に取られた顔をしていると、ぶん殴ってきたロイスが泣きそうになるのを堪えながら、必死な形相でアレクに訴えかける。
「何が僕たちを利用していたですか!? 何が頼むですか!? アレクさんがそんな馬鹿な事言わないでくださいよ! アレクさんは強いじゃないですか!それも圧倒的に強いです! そんなアレクさんが俺には出来ないなんて冗談みたいなこと言わないでくださいよ‼ アレクさんらしく「今度こそ俺の手で護る!」ってどうして言ってくれないんですか! 前世がどうだったか知りませんが、今のアレクさんならきっとできます!簡単です!きっと大丈夫です! だからそんな… 諦めるなんて言葉…っ! アレクさんの口から言わないでください!! アレクさんは…僕の…っ! 僕にとってのっ! 憧れの姿なんです‼ そんなアレクさんがそんなこと言わないでくださいよ!!」
感情的になって言い放つ。
傍から見ればロイスの言動は押し付けでしかないものだ。
自分の理想としている憧れの姿をアレクに押し付けているだけに過ぎない理想論。
それは誰が見ても、言っているロイス本人からしても明白な言動なのだ。
ロイスはそんなことを理解できない奴ではない。
ロイスは臆病でありながらも冷静さをもった聡明な男性だ。
しかし、それでもアレクの弱気な発言に対して異議申すように言葉を続ける。それだけ今のアレクの姿に我慢ならなかったのであった。気が付けばロイスはアレクに掴み掛っていたのだ。
ロイスの必死の形相で訴えている姿にアイリス、ランバートは即座に理解した。
ロイスは普段、パーティメンバーでもあり、自分を鍛え導いてくれるアイリスやランバート、そして自分の憧れの姿と重ねて崇拝しているアレクに対して一歩引いた関係を築いていた。仲間であり、友達として接してくれる三人に自分も心を赦しながらも、どこか壁を作って感じていたのだ。
それは単純に自分の弱さに対する情けなさや自分は最底辺クラスで、片や三人は学年において序列十位以内に食い込む超エリート生徒。 そんな凄い人たちだけど、自分を認めてくれ、そして仲間だと扱ってくれる三人に対して申し訳ないという思いからくる薄いプライドのような壁であった。
そんなロイスは今、崇拝しているアレクに対して掴み掛っているのだ。
並大抵の想いで言っている訳じゃない。それは即座に理解できない三人ではなかった。
——————————————しかし……
「お前に…俺の何が理解るっていうんだ? ア"ァ"ッッ‼」
ありのままの感情をぶつけてくるロイスに対してアレクが突然怒った。
今まで一度も感情的に怒ったことがない、どんなにムカついた相手であったも感情的に怒るのではなく、諭すように、説教するように叱ってきた理性的なアレクが感情のままに怒ったのだ。
アレクが怒ったことにアイリスもランバート、そして怒らせた張本人であるロイスも吃驚する。
「……ロイスが俺を目標に、道標にしたり、憧れの姿と思うのはお前の勝手だから、俺はそこをとやかく言う気はねぇよ! それに、俺は出来る限りの道を示してきたつもりだ…‼ ……だけどよっ!お前の憧れの姿を俺に押し付けてんじゃねぇーぞ? それはお門違いってやつだぞっ‼」
アレクの反論にロイスは押し黙る。事実、正論だったからだ。
少々大人げない気持ちがあるが、それでも今のロイスの発言に何故か我慢ならなかったのだ。
怒気の含んだ声にロイスは少し怯むが、それでもロイスは挫けずに反論する。
「そ、そんなことっ!解ってますよ! それでも…め、女々しいことばかり言うアレクさんが情けないです!幻滅です!落胆です!失望ですっ‼」
「アァ!? それを押し付けっていってんだよっ‼」
「な、情けなく弱々しいこと言って女々しいアレクさんよりはマシです! そんな情けないアレクさんの気持ちくらい理解できますっ!」
「ふざけんな!なんも理解出来てねぇだろうがぁ! お前なんかに俺の気持ちが解ってたまるか!!」
「解ります! 今の女々しいアレクさんの情けない提案くらいっ!解りますよっ‼」
アレクとロイスの言い合いがさらに白熱する。
お互いに一歩も譲れない感情のぶつかり合い。
焦燥。激情。嫌悪。悋気。
それら様々な感情を含んだ衝突であった。
そしてついに、感情的になって怒号を上げていたアレクがロイスを地面に押し倒した。
「お前に… 俺がどんな気持ちで過ごしてきたかっ‼どんな思いでこの学園に居るのか…っ‼ そんなこと理解られてたまるかッッ‼‼」
ロイスを地面に押し倒したアレクは怒りと悲しみ、そして僅かな嫉妬を含んだような感情が籠ったような言葉を吐き捨てるように言い放った。その瞳に薄っすら涙が見える。
アレクの瞳に僅かな涙が見えたロイスは一瞬唖然としたか、すぐにアレクに食って掛かる。
両者の全く引く気どころか、さらに白熱しそうな口喧嘩にさすがのアイリスとランバートもヤバい、と思い急いで止めに入る。ランバートがロイスの上に乗って胸倉を掴んで押し付けているアレクを羽交い締めにして引き離し始めた。
ランバートによって引き離されたアレクは少しだけ冷静さを取り戻していた。
自分は何でこんなに感情的になって怒っているのだろう、と。
自分で自分が解らなかった。それでも、何故か心が怒りの感情で埋め尽くされていた。そして、それと同時にロイスのことが羨ましくて、妬ましいと思っていた。
そんな感情が渦巻いていたが、アレクはこれでも精神年齢は大人だ。
即座に自分の至らぬ点があったことを認め、謝罪を口にする。
「……すまなかった 少し大人げなかった…」
短く謝罪の言葉を言う。
ロイスもアレクに押さえつけられたことによりハット我に返って初めの勢いは何処柄やらと、勢いを失い、謝罪の言葉をするアレクに毒気を抜かれたように呆けてしまった。
「あぁ… 僕も…そ、その…言いすぎました。すみませんでした…」
「……ただ、ロイスには勘違いないように言っておきたい…」
「…?」
「ロイスの姿を過去の俺を重ねている、って言っただろ… あれは俺の本心でもある。 ロイスには俺のようになってほしくないんだ…」
人間は弱い… 特に精神はあやふやで不安定なモノだ。簡単に善にも悪にも染まるし、虚も空く。ましてや心の支柱になっている『大切な何か』を失った者はほぼ間違いなく悪に染まる。
支柱を失うということは負の感情によって心を埋め尽くされるということだ。
憎悪感、嫌悪感、復讐心、嫉妬心、殺人衝動に破壊衝動… それらの感情はまるで『毒』だ。
『毒』は簡単に心身を蝕み、やがて人を別人のように変えてしまう。
―————————————まるで俺のようにな…
「だからロイスには自分で選べるだけの実力を着けてもらいたいと思っている。 アイリスとランバートも同じだ… アイリスには大切な家族が居るんだろ?ランバートも譲れない何かを持っている。それら大切な何かを護れるようになってほしいと思っている」
自分の大切な何かを護るなら自分の手で、って奴だよ。
まだお前ら三人は失ってもいないし、まだ戻れる場所に居る。俺の様に過ぎ去った過去じゃないし、呪縛でもない。まだお前らのこの先の未来は、お前らの手で、自分の手で切り拓いていくことができる… それは俺には失くて、お前らが持っている現実なんだ。
7月下旬までこの投稿頻度が続くと思います…。
最低でも週1以上は投稿できるように執筆がんばります(´▽`*)
本命の希望職場に向けての試験に向けて猛勉強中なりぃ☆彡




