7.朱莉の転生先は…
気まぐれトーカッ
神出鬼没ということわざがある。出没が変幻自在なさまをいうらしい。
簡単にいえば、さっきまでそこには誰もいなかったはずなのに、いつのまにか気が付いたらそこにいる。
まさに字のごとく、神や鬼といった不思議な力を持つ者が突然いなくなったり現れたりする。
神出鬼没とはよく言ったもんだよ…。
俺は今肉体とかなく、身体が半透明に透けている霊体みたいなもので、
まわりの環境のちょっとした変化すらも何となく感じることが出来る。
目の前にいるミスラ様が下りてくる前も
なんとなくの感覚でだが「誰か来るんじゃないかな?」という感覚があった。
だけど、今俺の後ろに突然現れた白髪の老人には気づくことが出来なかった。
後ろを振り向くと、その老人からあふれ出すオーラのようなものがビンビンくるが、
言い換えれば、声を掛けられるまでまったくわからなかったのだ。
どうやらこの人が… ミスラ様が言っていた担当の者らしい。
俺は無意識に白髪老人を見て口端が上がって笑っていることに気付いていなかった。
◇◇◇
やはり俺の後ろに突然現れた白髪の老人の正体は、ミスラ様が呼んだ異世界転生の担当者だった。
白髪老人の名前は『ファビニール』と言うらしい。
俺がこれから行く予定の異世界『ファビニール』を作った創造神であるらしい。
「ほっほっほ 初めまして幸樹くん!」
「初めまして、雪村幸樹と言います。よろしくお願いします!」
「ほっほ そう畏まらなくていい。さて、我が世界への転生を希望しているそうじゃが…
ほんとによろしいのか? はっきりいって文化レベルも低く、過酷な世界じゃぞ?」
「はい!望むところです!是非お願いします!」
「ほっほっほ 即答とは漢じゃないか!まぁ幸樹君の目的は知っておるがのぉ~」
「……」
「……君が転生を希望する理由は咲花朱莉のことじゃろ?」
さすがは神様だ。俺の心を読んだのか、それともミスラ様から聞いたのかわからないが
すべてお見通しのようだ。
「……はい。おっしゃる通りです。私は人生は決して善行を行ったと胸張れるような人生ではないです。本当に苦しんでいる人を… 朱莉が苦しんでいることを知っていながら、自分の保身のために見捨てた卑怯な男です。そのあとの死ぬまでの半生もただの『朱莉のために!』と自分勝手な思いで許してもらおうとしている愚かな男です。」
神様は俺のことをじっと見つめ、それからフッと微笑んだ。
「うむ!幸樹くんの希望を聞き入れることをする!その真っすぐな心と君の持つ知識を是非我が世界への発展につなげてくれ!」
良かった。これで内定をもらったようなものだ。
これで俺は朱莉のもとへ、ファビニールの世界に行くことが出来る!
「ほっほっほ 正直に話したご褒美に幸樹くんが一番知りたかったことを教えてやろう!
咲花朱莉は我が世界『ファビニール』の世界につい七年ほど前に転生を完了しておるよ。
その肝心の転生先は… 四大大国の内の一つ“アスラエル王国”の第三王女として転生しておるぞ!」
アスラエル王国は確か種族の差別が禁止されている多種族国家だったはず。
そして四大大国の中でもっとも安全で平和な国。
そんな国の第三王女として転生したのか!きっと何不自由ない幸せな人生を送れるだろう。
俺にとっては、これほどまでに嬉しい情報はなかっただろう!創造神様には感謝しかない!
だけど……
もう朱莉の隣に立って話したり笑いあったりすることはできないだろうがな。
それでも、地球で不幸な人生を送った朱莉が今度こそ幸せと呼べる生活を送ることが出来る。
そこにわざわざ思い出したくもない記憶を思い出させる原因となる俺が入り込む余地はないだろう。
いや、きっと会いたくはないだろうし、会わない方がいいはずだ。
「ありがとうございます創造神様。朱莉が裕福なところに転生できたことを大変うれしく思います。」
嬉しいのに、嬉しいはずなのに、どこか寂しい。そんな気持ちを押し殺して
朱莉のことを教えてくれた創造神様にお礼を言って、頭を下げた。
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
暇つぶし程度に読んで下さるとうれしいです。