5.朱莉の行方
気まぐれにト、トーカッ!
「咲花朱莉様でしょうか? 少しお待ちください」
女神さまは一瞬驚いたような表情をしたけど、どうやら俺の願いは聞き届けてくれたようだ。
すぐに女神さまは手元に現れた半透明のウィンドを片手で操作し始めた。
死後の世界ってほんとなんでもありだな。仮想世界拡張みたいなものかな? すげぇハイテクだな。
◇◇◇
俺が女神様に頼んでから五分くらいすぎただろうか?
女神さまがさっきまで操作していた半透明のウィンドから手を放し俺の方を見てきた。
「咲花朱莉様でよろしかったでしょうか?」
女神さまは俺に確認を求め、俺が頷くと女神さまは俺の人生を語ったように話し始めた。
「花坂朱莉 花坂家の長女。
享年17歳 死因は交通事故による事故死。
咲花ミチル様とサザコ様の第一子として誕生。三人姉弟の長女として生まれる。
共働きの両親に代わり、長女として弟たちの面倒をよくしていた面倒見の良く、バイトの給料で両親とともに温泉旅行を企画するなど親孝行娘でもある。優しさも当然ながら時には悪いことをした人を叱ることのできる厳しさを持つ。地元の高校に進学後、男子からの告白を断ったさいに“いじめ”の標的とされるが持ち前の明るさを武器に元気良さをふるまっていたが、学年中から無視され始めたことにより完全に孤立。両親や弟たちに自分がいじめられていると心配されないために毎日学校に通っていたが、登校途中に不注意で信号を見ずに渡っていたところ、トラックに撥ねられ死亡。
その後、選定の場にて不幸な人生を送られた方と判断。本人の希望により“輪廻転生の輪”には入らず、記憶も持ったまま異世界『ファビニール』に転生することを決意し、無事転生が完了。現在は異世界『ファニビール』の世界にて第二の人生を送っている。
と、なっております」
朱莉は生きている――――――
選定の場とはおそらく俺が現在いる死後の世界のことをいうのだろう。
朱莉は交通事故で亡くなった後、ここに送られ記憶も感情もすべて浄化され消えてしまう輪廻転生の輪の入ることを辞めて、記憶を持ったまま異世界で生きている。
記憶をもって生きているのなら、きっと俺のことを覚えているはずだ。
会える。会えるんだ。会って話すことができる。
会って話すには俺も異世界転生を希望すればいいんだ。
幸いなことに俺は“善行を行い亡くなった”となっている。
俺の希望が通るかわからないが、聞いてみる価値はある。
「朱莉のことを教えていただきてありがとうございます。
あの、私はこの後“輪廻転生の輪”に送られることになっているんですよね?」
「はい。そうなっております」
「俺は“輪廻転生の輪”には入らず、朱莉と同じ異世界転生を希望してもいいですか?」
「え? えっと……その……よろしいので?」
女神さまはどうやら心の底から驚いたようだ。なんで?
「なにがですか?」
「あなたが過ごしていた世界……
俗にいう『地球』は凄く発展した世界であり、基本的に凄く平和な世界です。
おそらく幸樹様が希望しているのは異世界『ファビニール』のことでしょう?
あの世界には魔物だとか、化け物だとか! ドラゴンとか! 普通に世界を闊歩している世界ですよ!
地球のラノベのような『ウフフ……』な展開があるとか思ってるんですか!?」
めっちゃテンパって途中から丁寧語が消えているぞ女神様。
凄く力説してくる女神。ちょっと怖い……
「それでも行きたいです」
ラノベのような世界観。現代地球の発展した便利な世界、平和な世界で生きてきた地球人にとってはおそらく辛い世界なんだろう。それこそ命なんてあっという間に失ってしまうほどの……。
それでも俺は行きたい。
ただラノベのようなファンタジー世界に憧れているとは言う訳ではないが、
俺には「朱莉に会って話したい」という使命のような思いがある。これだけは譲れない。
そんな俺の心を読んだのか、女神さまは落ち着いたような表情をして
「本当に後悔しないのでしょうか?」と聞いてきた。当然答えはイエスのみだ。
「分かりました。雪村幸樹様のご希望通り異世界転生を行います。
転生先の異世界は朱莉様と同じ『ファビニール』でよろしいでしょうか?」
「よろしくお願いします」
女神さまはため息一つついて、「担当の者をお呼びいたしますので、少し待ちください」と
手元に放置されていた半透明のウィンドを操作しはじめた。