4.死後の世界
気まぐれトーカッ!
編集して所々変えました。
「初めまして。私は死後の世界へ送られてきた魂を輪廻の輪に乗せる仕事をしている者です」
目が覚めると、辺り一面真っ白な世界だった。
ここはどこだろうか? と思い、目の前に広がる真っ白な世界をキョロキョロと見渡していると、突然目の前に一筋の光がさしてきた。その光の中から信じられないくらい美しい、まさに美女という言葉が似合う人物が現れる。俺がその姿に見とれていると、その光の中の美女がニコッと微笑み、第一声が今の言葉だ。
あ、そうだ。俺、交通事後で死んじゃったのか……。
ぼんやりとしていた頭が徐々に覚醒してくる。ゆっくりとだが自分の身に何が起きたのか分かってきた。
俺は確か私立中学校にボランティアで講演会をさせていただきに行っている途中にトラックに撥ねられたんだったな……。
「思い出したようですね。 あなた様は講演会に向かう途中、トラックに撥ねられました。その後、病院へと搬送されますが出血多量により死亡してしまいました」
光とともに降りてきた神様らしき人が、地面に降り立つと同時にどこからか椅子が現れその椅子に腰かけ、俺の心を読んだのか、俺の考えを肯定する。
病院に搬送されたが出血多量によるショック死か……。
まぁトラックに撥ねられ、吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられのトリプルコンボ食らったのなら助からなくても仕方ないか……。
よく見ると俺の身体は半透明だった。
死後の世界あるあるの霊体みたいなもんかな?
自分の現在の状況整理としていると、座っている美女の目の前に一枚の紙が現れた。あれはなんだ?
「雪村幸樹 雪村家の一人息子。
享年二十九歳 死因は交通事故による出血死。
若くして医師免許を取得後、実家の近くにある大学病院に勤務。医者としてたくさんの命を救いつつ、院内に運ばれてくる心に傷を負った自殺未遂を犯した少年に対してカウンセリングを無償で担当。それをきっかけに老若男女問わず、院内にいる患者さん一人一人の心に寄り添い、心の支えとなる。
また、青年期に幼馴染を失った罪悪感と贖罪の意思から学校のいじめ問題を解決するためのボランティア団体を創設。その創設者として数々の小中学校に『命の大切さ』を題目とした講演会を行い数々のこれからの未来を生きる若者に少なからず影響を与える」
美女の手元にある紙はどうやら、俺のたどってきた人生を書かれている資料のようだ。あの紙にどんなことまで書いてあるのかな……? わ、悪いことはしてないはず……。飲んだペットボトルとか噛んだガムとか路上や草むらに捨てたことあるけど……
あれ大丈夫だよね? ね?
「まさに聖職者の鏡のような人物像であり、その人生は波瀾万丈と言える人生ですね。そのような方が、こんな若くして亡くなってしまったことを大変心苦しく思います」
美女が手元の資料から目を離して俺の目をまっすぐ見つめながら首を垂れる。反射的に「あ、ありがとうございます」と答えてしまった。どうやら俺の人生は良かったのかもしれない。
「雪村幸樹様。あなた様は前世では大変数々の善行を行い、さまざまな人の心を救ってくださりました。その雪村幸樹様には“輪廻転生の輪”にこのまま送らせていただきますが、その前に何が現世での未練ごとや雪村幸樹様自身の悩みなどあれば、この場で不肖ながらわたくしめがご相談に乗らせていただきます」
ニコッと笑顔を浮かべて微笑んでくれている……。
その顔に一瞬ドキッとしてしまったのは俺だって男だから仕方がないことだ。反則級だぞ……あの笑みは。
「あ、わたくしは“輪廻転生”の司る女神ミスラと申します。お気軽にミスラとお呼びください」
名乗るのをうっかり忘れていた! というような表情で俺に自己紹介をしてくれた。どうやら目の前の美女は女神様で、俗にいう転生輪廻に入る前の魂を審査をする女神様のようだ。
ミスラ様っていうのか……。あの微笑みは反則級やで……。
さて、冗談は置いといて現状確認させていただこう。
俺はとりあえず、この後どうなるのか再確認の意味を込めてミスラ様に尋ねることにした。
「えっと……ミスラ様。俺はこのまま輪廻転生の輪? というものに入るのですか?」
「はい。雪村幸樹様は善行を行い亡くなられておりますので、このまま輪廻転生の輪に入ります。輪廻転生の輪に入るとその魂は浄化され、浄化の際に記憶や概念などの転生に不要な物は消え、まっさらな状態となり無事に現世の新しい人間の肉体へと転生していきます」
「やっぱり記憶が消えるのか……」
予想していたことだが、やはり記憶が消えることに若干の不安がある。
「はい。現世で殺人などの重い罪を犯しますと、強い浄化が必要となり畜生などの下等生物にしか転生できなくなりますが、雪村幸樹様は善行を遂げた人生だったと判断されたので畜生等に転生することはございませんので、ご安心ください」
「ただ、このまま未練を残したままきれいさっぱりすべてを消されてしまうことに対して不安感があると思われますので、納得して輪廻転生の輪に入れるように
わたくしミスラがご相談に乗りますので、未練が残らないように今のうちに全てを吐き出していって下さい」
正直、現世に未練はない。
やりたいことはやった。
親に堂々と宣言しておいた医者にもなったし、朱莉へのせめてもの罪滅ぼしのために、できる限りの「いじめ問題」を解決する団体を作り奔走してきたはずだ。
やれることはやった。 未練なんかない。
あるはずがない。
そのはずだ。
そのはずなんだ。
そのはずなのに……
頭から離れないあの日の朱莉の横顔。
これが未練だというのなら……
俺よりも早く17という若さで交通事故で亡くなってしまった朱莉に……
もう一度、朱莉に会いたい。
会って謝りたい。
きっと許してくれないだろう。きっと死ぬ直前まで俺と含めたクラスメイトを恨んでいただろう。
それでも……それでも! 俺は会いたいな。
たとえ憎まれ口を叩かれ、罵られても……
もう一度あの声を聴きたいな……。
「……あの、ミスラ様」
「はい。なんでしょうか?」
「朱莉に……
咲花朱莉に会うことは……できませんか?」
すべて消えてしまう前に、
どうしても朱莉ともう一度でもいいから話をしたい。
もしかしたら、もうすでに輪廻転生の輪に入り浄化とやらで全て消されているかもしれない。
たとえ話せなくても、どうなったかは知りたい……。朱莉がどう思って亡くなったのか……。
きっと俺のことやクラスメイトの奴らを恨んでいるだろう。俺があの時、見捨ててしまったことを恨んでいるだろう。どうして助けてくれなかったのか? と……
恨まれているかもしれない。
それでも……恨まれても俺は、朱莉が好きなんだ。
だから、知りたい。
できるならもう一度でもいいから会いたい。
俺はそんな思いを抱きながら目の前のミスラ様に懇願した。
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