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2-8.「いってきますっ!」

気まぐれトーカ。

タイトル変えました。

旧タイトル:俺はもう、後悔したくない。

新タイトル:後悔した人生を歩んだ俺は、異世界に転生して後悔しない道を選択をする~俺はもう、後悔したくない~

魔族の遺体は【氷葬死花】の効果により粉々に散り、自然に吹く風により空へと消えた。

かつて魔物だった残骸はバラバラの状態や四角の肉片状態になってその場に生々しく転がっている。

この状態だと牙や毛皮といった素材に期待は持てない。せいぜい魔石が残ってるかどうかの状態だ。


放置していても、この状態だとアンデットになる心配もない。なので、後始末は街の冒険者たちに(一方的に)任せて置いて、俺は東の外壁に向かう。


向かう途中、どうしても気になることがあってそのことばかり考えてしまう。


思い出すは先ほどまで情報交換を行っていた魔族の男の言葉だった。その魔族の男はいくつか気になることを言っていた。


賢者の封印についてだ。


魔族の男はこう言っていた。

「勇者の封印よりも強固で、劣化することもない」

「その封印を解くためには負の感情が沁み込んだ魂が必要」


勇者はいうなれば万能型だ。

一人で何でもできる、まさに勇者だろう。



対する賢者とは何か?

魔法の専門家か、封印の専門家。

どちらにしろ何か勇者をも超える能力に特化した者であることに違いない。


考えても考えても分からない… 

このままだとハゲてしまいそうだ。



そうこう思考を巡らせている間に、アレクが飛び越え出てきた東側の外壁前までついた。


当然ながら周りには人影どころか、生物の魔力反応もない。壁の内側も同様だ。

アレクは魔力を脚に集め、脚力強化を発動する。そして一気に外壁を飛び越え内側に入る。

そこは脇道であり、普段誰も通らない壁と建物の影を通っている歩道だ。


そこに降り立ち、中央通り方面に歩き出す。

どうやら中央通りはまだパニック状態のようだ。冒険者や騎士たちがてんやわんやとしている。

俺はその混乱に乗じて冒険者ギルドに走っていくことにした。





◇◇◇



冒険者ギルドに着く。ギィギィ五月蠅い扉を開けて中に入る。

どうやら既に冒険者の姿はなく、数人の職員と戦力にならない受付嬢しか残っていなかった。


左端の定位置にミーアさんが作業していた。

いつも通り、真面目に仕事をしている姿は綺麗だし、絵になる景色だ。



「…ただいま!ミーアさん」


俺はいつもの軽いノリでミーアさんに話しかける。


「…ッ!! ア、アレクくん……」


仕事に集中していたミーアさんが勢いよくこっちに振り向く。

その眼にはうっすらと涙が見える。ちょ、泣かしてしまったかな?俺まだ何もしてないんだけど。


しかし、その顔を急いで下に向け、眼をゴシゴシと袖でこすって涙を拭きとる。

そしてわざとらしく咳をついてから、満面の笑みを浮かべながら「おかえりなさい」と声をかけてくれた。その声に吊られて俺もまた「ただいまミーアさん」と言ってしまう。なんかちょっと嬉しい気分になった。



「無事で帰ってきてくれて良かった… だって五年も姿を消して、突然帰ってきたと思ったら変なこと押し付けて、魔物討伐してくるって!すぐ出かけちゃうんだもん!本当に… 本当に心配したんだから!」


泣きそうになるのを堪えながら必死に訴えてくる。本当に心配かけてしまったようだ。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


しばらくしてからようやくミーアさんが泣き止んだ。

涙を浮かべてた眼を服の袖で拭う。


「そういえば、あの後どこに行ってきたの…?本当に魔物暴走止めに行ったの?」


「あ、はい。ちゃんと殲滅してきました!」


少し呆気に取られて反応が遅れてしまった。


「……ん? もう一度聞くけど… 本当に魔物暴走(スタンピート)を… あの大規模な魔物たちを殲滅してきたの…?」


ミーアさんが先程の涙目とは打って変わって、疑いの眼を向けて聞いてくる。


「えぇ、きっちりと殲滅してきましたよ!」


ミーアさんはその返事を聞いて「ほんとかな?」と疑っているようだが、とりあえずは信じてくれた。


まだ疑いを目をしたまま「本当に無事で帰ってきてくれて良かった。メルキドを救ってくれてありがとう」と口先だけの棒読みで言ってくる。


心なしかさっきの感動の涙はなんだったのか、と思うほど感情のこもってない棒読みで言われた。


いや、ほんとに殲滅したんだからね!



俺が抗議の眼を向けるとミーアさんはあらぬ方向を向いて口笛を吹き始めた。おい。と、思ったら何か思い出したよう机の下をゴソゴソとしはじめた。



「あ、そういえばアレクくんが頼んでいったギルドカード!ちゃんと復活させておいたよ!」


お!それは助かる!これで身分証を改めてゲットだ!


「それと、残念なお知らせが一つがあるんだけど…」


ざ、残念なお知らせ…? なんだろうか。


「五年前に受けた調査依頼あったじゃん… あれ結局5年間も報告しなかったでしょ? 結果、依頼失敗っていう扱いになっちゃうんだ。それで、依頼失敗するとペナルティとして罰則金を払わないといけなくなるのよ… それも五年の利子がついて…」


「…なんとなく想像がついてました…」


そりゃそうなるよな…。

結局あのまま依頼達成未達成にかかわらず依頼書提出しなければいけなかった。しかし俺はそれを放棄してそのまま修行の旅に出てしまったし、これは甘んじて受けよう。


「で… 肝心の金額は金貨2枚になります。だけど、これはアレクくんが置いていった魔石がいっぱい入った袋の鑑定価格から天引きになるんだけど、そこらへんは大丈夫かな?」


罰則金金貨二枚か… およそ20万ゴールド。意外とデカイな。まぁ依頼主が貴族だから、仕方がないのかもしれないね。


と、いうより…


「もう鑑定結果でたんですか?」


「うん!おねーさん頑張っちゃった! それとこれは個人的に気になったことなんだけど…あの魔石どこから採ってきたのか、すごぉーっく気になるんですけど… 量も量だし。純度も、大きさも、人間界最前線と言われるここいら辺(メルキド)でもめったに手に入らない極上品ばかり… というより、ほぼ十割だね。」 


さすがは魔界の魔物の素材に魔石だ!

かなり値打ちのある素材のようだ。これで何とか、罰則金とか払っても学園の入学費も払えそうだ!


そう思っていると、ミーアさんが俺のことをジッと見つめながら、核心をつく質問を投げかけてきた。




「アレクくんは、一体姿を消したこの五年間どこにいたの…?」




うん…。聞かれると思ってた。


本音を言えば話したくない。


不用意に話して情報漏洩なんてバカにならない。

どこからか情報が漏れて面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だ。それに正直に話しても信じられてもらえるような内容でもない。正気を疑われるレベルだ。


なら、ここはミーアさんの会話をなんとか流すか、誑かすしか無いかなと思うが、それは気が進まないのだ。


それに、俺はなんとなくミーアさんには知っていてもらいたいのだ。


ミーアさんには嘘はつきたくない。もちろんそれもある。ここまで俺のことを心配してくれる人なんてこの世界探してもミーアさんしかいないだろう。


仮にも魔法のレクチャーをしてくれた曲がりなりにもお師匠様だし、気兼ねなく話せる異世界に転生して初めてできた友達でもある。



俺は少し悩んだ後、結論を出した。



俺は話すことにした。

自分の心には嘘をつきたく無い、そしてミーアさんを騙したく無いから… 失いたく無いから。




「ミーアさん内緒にしてくださいね」と前置きをして話し始める。


あの日依頼を受けた日に起きた馬車襲撃事件から魔族との激戦、そして謎の私兵団ことや魔王が復活するかもしれないこと、そして師匠との提案で魔界に修行に行ったこと、これまであった出来事を全て包み隠さずミーアさんに全て話した。


ミーアさんは初めは信じられない、と言いたげな表情をしていたが、最後まで黙って聞いてくれた。


そして全て話し終えた後、ミーアさんが動いた。

カウンターに乗り出して俺の頭を撫で始めた。


流石に俺もこれは恥ずかしいと思い抵抗しようとしたが、ミーアさんの掛けてくれる声に対抗する気力をなくした。



「…本当に頑張って来たんだね…。


おねーさんにはその苦しみや大変さは理解できないけど… 


それでもアレクくんが必死になって…


頑張って、傷ついても、必死で戦って、守って…


そして生き抜いてきたのは分かる。


アレクくんは本当に優しいから…


人一倍努力家だとおねーさんは知ってるから…


本当に… 本当に良く頑張ったね…!」




ミーアさんは「よしよし、よく頑張ったね」と頭を撫でてくれる。


恥ずかしかった羞恥心が嘘のように消えていく。さっきまで恥ずかしかったのに、今はそれが凄く心地よく感じる。


頭を撫でられるのは一体いつぶりだろうか…?

自分の努力を誉められたのはいつぶりだろうか…?

 

人から褒められるって… 

こんなに嬉しい気持ちになるんだな。


長い間忘れていた感情が湧き出してくる。


本当に心地いい。

自然と涙がこぼれそうになった。


だけど、これでも中身は童貞三十路のおっさんだ。

人前で涙は見せたくない。


そんな小さなプライドが必死に涙を抑え込む。





何分くらいたっただろうか…?

どのくらいの時間、頭を撫でられただろうか?


それは分からないが、ふつふつと羞恥心がぶり返してきた。思い出すたびに恥ずかしくなってきたので急いで話題を変えることにした。


とっさに思いついた話題は、俺が王都の学園に入学することだった。


言う前に「これ、話す必要ないんじゃね」と思ったが、ミーアさんには話しておこうと思い、話した。




「俺… これから王都に行きます!」



それを聞いて、ミーアさんは驚いた顔をした。


今日は本当にミーアさん驚いてばかりだね、と心の中で言っておく。決して口には出さない。口は禍のもとになるから。



「……アレクくんは確か十五歳になったんだね。成人おめでとう! 王都に行くってことは学園に入学するためかな?」


「はい。学園に入って、大切なものを見つけたいと思います」


「そっか… それじゃ引き留めるのは悪いね…。 

よしっ!思いっきり頑張って来い!そして学園卒業したらまた戻ってきてね!このメルキドに!」


「もちろんですよ!必ず戻ってきます!」


なんかすごく悲しくなってきた。

最後の別れじゃないのに…。

それはミーアさんも同じようでうっすらを涙目になっていた。


ミーアさんはカウンターに一枚のカードを置いた。

それはどうやら俺のギルドカードのようだ。『機能停止』の文字が消えており、ちゃんと復活しているようだ。


「…これギルドカードね!一応魔石の価格から罰則金天引きしてるから、確認してね!」


俺はそのギルドカードを手に取って魔力を流す。

文字が浮かび上がってくる。懐かしい感じだ。昔を思い出しながらギルドカードを操作して口座残金を見ると… そこには恐ろしい金額がぶち込まれていた。


「ちなみに魔石の買取価格が470,000,000ゴールドになります!白金貨470枚から金貨二枚を差し引いて、469,800,000ゴールドが入金されてると思います!」


ぱ、パネェ…。 こんな金額見たことねぇ。4億6,980万ゴールドかよ。

確か日本人サラリーマンが一生に稼ぐ金額が大体二億円だろ。軽く二倍は稼いだぞ。



さらに、とミーアさんが続ける。


「それとは別に、この大きすぎる80センチの魔石なんだけど… これメルキド支部(うち)じゃ取引できないの…」


オイオイ… その魔石抜きでこの価格かよ…。

正直、その魔石込みでこの値段なら少し納得できたんだけど。っていうか込みであっても信じられない金額だよ!メルキド支部の金融事情大丈夫かな?って心配になってくるよ!


「これ王都にある冒険者ギルド本部で買取をお願いするか、オークションに出すことを進めるよ」


「オークション? それって何?」


「オークションっていうのは一年に一度開かれる貴族たちやお金持ちの豪商らが集まって開催されるモノだよ。出される品物は希少な物から古代遺跡から発掘された魔道具とか、普通の市場には決して出回らない希少なものが高額で取引、競られる場所ところなの」


ネットオークションの劣化版みたいなものかな?

現地でいってその場で札持って「買います!」とか「10万出す!」とかいう奴かな?


「分かりました!王都に言ったら、とりあえずギルド本部に顔出しますね!」


そう言って魔石を異空間収納にしまう。

これですべての要件が済んだので、俺はミーアさんに御礼を言ってギルドホールを出ようとすると、うしろから大きな声で名前を呼ばれた。



「アレクくーーーん!!!」



その声に振り向くとそこにはカウンターから乗り出したミーアさんが手を振っている。



「メルキドの街を救ってくれてありがとう! 学園がんばってねー!アレクくんならきっと、大丈夫だから!思いっきり頑張ってこーーい!!」



俺のお袋か!そうとも取れる応援っぷりだ。

見ていてコチラが恥ずかしくなる!



だけど、最高の応援(エール)だ。

勇気をもらえた気がするよ。本当にありがとう!




それとは別に… 俺とミーアさんのほかにまだ四名ほど職員いるんだが、恥ずかしくはないのかな?


まぁ大丈夫か。ミーアさんだし。


そういえば、ミーアさんに俺が話したことを口止めしておこうと思ってたけど言うの忘れてた。


まぁ、ミーアさんなら大丈夫だ、きっと喋らないだろう。すべての事情を話し、そして察してくれた。あの心優しいミーアさんが俺の不利になるかもしれないことは決して喋らない、そう信じられる。


いまさら秘密にしてね、なんてミーアさんに対する侮辱に等しい。信頼してるからこそ話せることだったし。


だけど、最後にこれだけはやっておこうかな。


俺はギルドの扉をくぐる前に、後ろを振り向いてミーアさんを見つめる!そして腕を思いっきり上に挙げ…




「いってきまぁああああっす!!」




と大声で叫んでギルドホールを飛び出した。

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