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2-4.もう一人の覚悟と決断

気まぐれトーカ!



アレクが冒険者ギルドで会話をしている同時刻

代官邸では、メルキドの代官である【ジョニー=サンタナ】と、冒険者ギルドのギルドマスターである【ジェックス】他数名のこの街最大権力者による臨時会議で行われていた。


「このままでは、この街は領民もろとも殺されてしまいます!」


駐屯騎士団の分隊長である【コニーズ=サフラン】が訴える。


「…確かに、このまま何も決断を出さなければ滅びますね」


冒険者ギルドのギルドマスターであるジェックスがその問いに素直に答える。


「しかし、なにもこんな時に魔物暴走(スタンピート)が起きなくても…」


代官であるジョニーは今回の事態、大変困っていた。

なぜなら、今この街には王族である第三王女やその侍女である子爵家の令嬢様、四大公爵の令嬢にして、この国最大戦力である近衛騎士団の紅一点『剣聖』と、こんな辺境の地では、まずお目に叶うこともできない高貴なお方がいらっしゃっているのだ。


ただでさえ、五年前、王女殿下がお越しの際に魔力暴走により、メルキド主催の貴族交流会は中止になってしまったのだ。結果、メルキドの街は危ないと民衆や貴族の評判が悪くなってしまっている。ただでさえ、領民より根無し草の冒険者の数が多いこの都市で、これ以上領民を減らすような事態は避けねばならない。


「…我々冒険者ギルドは、この街に支部を置かせていただいている立場ですから、もし戦力提供が必要とあらば、喜んで戦力提供いたしましょう。この街には冒険者がたくさんいますので、それなりの戦力となると思われます」


「おぉ、それはありがたい。是非ともそのお力をお借りしたいです」


「しかし、作戦が決まらないことには…」


確かにそうだ。

この都市は魔界と繋がる魔の森からの魔物の襲撃を人間界、ひいては我が国の最前線防衛都市である。年に一度くらいは魔物暴走がこのメルキド目掛けて襲い掛かってくるが、それを撃退するための戦力がここにはそろっている。


治安維持を行う憲兵団

国から派遣されている駐屯騎士団 

この街の冒険者を束ねる冒険者ギルドの支部


戦力は十分揃っている。しかし、今回の魔物暴走の規模が大きすぎるのだ。まず間違いなく、この街は放棄せざる得ない状況に追い込まれるだろう。


「……籠城作戦しか、ありませんね…」


全員の意見はほぼ一致していた。

城塞都市とまで言われるほど、この街は外壁によって街を囲まれている都市だ。外壁は高さ十メートルもあり、外壁の下には水を流した深さ二メートルの堀が彫られている。籠城を行うには十分な設備が揃っている。


「冒険者ギルドの戦力と駐屯騎士団で籠城作戦、憲兵団で領民を北門から非難させるしかないかと…」


「しかし、それだと戦力を分けてしまう。それに、領民たちが無事リルクヴィスト領に辿り着けるか保証もないんですよ!」


「ではどうしろと? 籠城作戦で殲滅できる見込みはないんですよ! なら、一か八か撃って出るんですか? それこそ無駄に兵を殺すだけですよ! 籠城しながら領民を逃がす!これしか作戦ないと思いますが」


「……うぐぐ…。」


大規模な作戦を実行するには、通例なら領主様の許可が必要である。しかし、ここには領主はいない。しかし、代官様がいる。この非常事態の場合は領主の名代である代官様の許可によって実行に移すのだ。


代官は恐れているのだ。

ただでさえ、この街の領民は毎年減少しつつある。これ以上減らすわけにはいかない。ましてや領民をリルクヴィスト領に逃がせばそこで居付く可能性が出る。そうなれば、この街には戻ってはこないだろう。その責任を問われれば、代官は間違いなく責任を負わされる。


「時間がないのです! 早くご決断を!」

「私もそう思います。代官様、どうか決断をお願いします」


もう、覚悟を決めるしかないのか、そう思われた時、緊急会議を行っていた部屋にコンッコンッとノックする音が響いた。「こんな非常事態に誰だ!」と怒鳴りたいところだが、次のノックを鳴らしたメイドの言葉で怒気は鎮まった。




「代官様、アクアリア王女殿下が入室を求めていますが、いかがしますか?」



その声に、この場に居た全員が固まった。

王女殿下が一体何用なのか? それは誰も予想することが出来なかった。



◇◇◇


「失礼します」


ガチャっと扉を開いて会議室の中へと足を踏み入れる。

中には先ほど北門であった代官のジョニー様と、駐屯騎士団の分隊長のサフラン様、それと、中年風の恰幅の良い男性の三人が一つのテーブルを囲って話し合いを進めていた。


「これはこれは、王女殿下様。このような場所へは何の御用でしょうか?」


代官のジョニー様が訪ねてくる。


「このような会議の場に入れさせていただきありがとうございますジョニー様。では、単刀直入に言わせていただきます。私に指揮を執らせていただきたい」


「な、なんと!」


三人の男性が一堂に驚いた表情をしている。それもそうだ。成人したばかりの若輩者、それも女性が突然「現場の指揮を執らせない!」と言い出したら、誰だって驚く。たとえ王女という立場であっても承認しかねる強引さだ。


「事情は既に聴いています。このメルキド目掛けて魔物暴走が起きるということも、それがかつて見ないほどの群れとなって押し寄せてくることも。だからこそ私は、打って出るべきだと思います。」


男性たちは黙り込んで、こちらの話に耳を傾けてくれている。


「この街の護りは強固ですが、とても大群を相手に戦える設備は揃っていない。あくまで籠城作戦とは最終作戦に置いておくべきものです。はじめから籠城をしていては、必ず綻びが生じる。それならいっそ、打って出るべきだと私は考えております。それも、私が打って出れば住民も逃げる必要もないでしょう」


自信満々の笑みを代官に向ける。


「し、しかし… 王女殿下をそのような危険な場所に送り出すなど、私には出来ませぬ!」


「私自身の身は私自身が責任を持ちます。その旨をこの場でにて書類に記載し、誓約書を交わしていただいても構いません。どうか、私に作戦を指揮を託してはいただけませんでしょうか?」


「話は分かりましたが、王女殿下様。まず、王女殿下が考える具体的な作戦をお聞かせ願ってもよろしいでしょうか?」


一番左端に座っていた恰幅の良い男性が話しかけてくる。

この場に居るということは、それなりの権力者なんだろうか?少なくとも私は知らない人だった。しかし、この人の言うことはごもっともだ。具体的な説明をしないまま、話を通るとは思っていない。


「では、説明させていただきます。具体的な作戦ですが、この街の冒険者や憲兵団の方々の中で魔法が使える者を選抜し、城壁部分に配置します。主な役割は遠距離魔法で援護射撃と牽制です。それと、魔法が使えない者は城門から出たところで陣を引いていただきます。これはあくまで、取りこぼしがあったと聞きのための戦力予備として配置します。その陣形が整い次第、私とマリア、それにシャーロットが魔物暴走に向かって打って出たいと思います。」


要するに、私を含めた実力者三人で魔物を殲滅するから、残りの方々は街の防衛に努めてほしい。ただこの一点だけだった。


「そ、それでは、王女殿下が大変あぶのうございます!それに、いくら『教授』や『剣聖』様がいらっしゃっても三人で魔物暴走に突っ込むのは無謀です!」


「私も代官様の意見に賛成でございます。王女殿下の腕前はこの辺境の地まで届いています。しかし、王女殿下はこの国の未来を支えていくお方、このような死地で命を危険にさらす必要はないかと思いますが」





「その心配ならございませんよ」




部屋に新たな声が響き渡る。今度はノックもなく、ガチャッと部屋の扉が開く。

そこには金髪の髪を後ろで束ねた騎士鎧姿の女性と、動きやすい皮鎧に身を包んだ女性の二人が入ってきた。紛れもない『剣聖』シャーロット様と『教授』マリア様であった。



「王女殿下のお命は私は責任もって御守りします」


『剣聖』に『教授』、二人とも武勇では有名な人である。

『剣聖』はかの王国最強の守護神と言われた『剣豪』の弟子であり、『教授』は腕前もさることながら、何より人を教え、導くのが得意なお方で有名な人だ。


「王女殿下とわたくしは、前回メルキドに向かう途中にて魔物暴走に襲われました。十分、その恐怖も恐ろしさも知っております。」


「な、なら… 尚更安全な場所にご避難なされるべきです!」


「しかし、わたくしたちは決めましたのです。もう決して逃げないと、今度こそ護る側に立つ!、と」


それはこの場に居た者たちは全員思い当たる節があった。

本来なら、王女殿下たちは魔物たちに襲われていたであろう五年ほど前の魔物暴走事件。

しかし、そうはならず、無事逃げ切ることが出来た。それは勇敢にも魔物暴走に立ち向かい、王女殿下をご無事に逃がしきるために戦った一人の冒険者の少年のことを言っているのだろう。


「…もう駄目だと思われた時に颯爽と現れ、わたくしたちを逃がすために戦ってくれた少年が居ました。 その少年のように勇ましく戦う、護り抜くために戦う、とわたくしたちは決めております。」


その勇敢な冒険者の少年は亡くなった、とされている。


実際、遺体は見つかってはいない。

もしかしたら生き延びているのではと考えられているが、現場では夥しいほどの血痕が見つかっており、この出血量では絶対に助からない。たとえ運よく殲滅して逃げていても血の臭いによって魔物たちは集まってくる。決して逃げ切ることはできないだろう、と考えられている。


それに、少年の名前すら判明していないのだ。分かっているのは外見的特徴である『白髪の駆け出し風の少年』と言うことだけだ。このメルキドには冒険者がたくさんいる。それも中堅クラスがほとんどだ。新人冒険者もそれなりにたくさんいる。『白髪の駆け出し風の少年』だけでは名前まで絞り込むことが出来なかったのだ。


「……アクアリア王女殿下様と、マリア嬢にお聞きしたい。」


恰幅の良い男性がこれが最後の質問とばかりに投げかけてくる。


「あなた方の戦う覚悟は分かりました。しかし、どうしても分からないことがあります。かつて、あなた方は少年に助けられたおかげで、今ここに生きているのです。その少年の犠牲の上にあなた方は生きているのです。しかし、今王女殿下らがおっしゃることは、その救われたお命をお捨てになるような行為だと私は思いまするが、なぜ戦うのでしょうか?」


私たちは“生かされている”と言われている。

少年という一人の人間の犠牲により、助かったのだ。

その命を粗末にするのはどうか?と、この人は問うているのだ。


確かに、今からやることは自殺行為だ。

魔物暴走に突っ込むなど、正気の沙汰じゃない、自殺志願者くらいなものだ。もしくは戦闘中毒者。それくらい分かっている。しかし、私たちは戦わなければならないのだ。


私はもう護られるだけの存在ではない。

今度はこちらが『護る側に立つ』その意思だ。

それに私は準備してきた。いずれくるであろう、この事態に。


それに私はもうしたくないのだ、もうあんな悲しい思いをしたくないのだ。

していればよかった、なんてもう思いたくも考えたくもないのだ。


だから、男性の質問にはこう返した。




「もう二度と、後悔しない為です―――――」






「……分かりました。 代官様、私は王女殿下に賭けてみたいと思いまする」

「私も同意見でございます。王女殿下は文武両道に優れ、何よりこの先の国の未来を担って進むお方、是非任せてみてはどうでしょうか?」


恰幅の良い男性は少し悩んだ後、私の案に乗ることを表明してくれた。それに続いて駐屯騎士団の部隊長も賛同してくれた。


二人が代官を説得しようとする。


「…分かりました。アクアリア王女殿下様、どうかこのメルキドの街をお救いください。そしてシャーロット様、ならびにマリア様、どうかアクアリア王女殿下を御守りください」


ついに代官様は折れ、私に全指揮が託された。


私はシャーロットとマリアを連れて「失礼しました」と部屋を出る。


さぁここからが私の本当の覚悟。


今度こそ、すべて護る!

もう、あんな思いは二度としないために、今ここで全てを守り通して証明する!

私の覚悟は本物だということを!


私は急いで迎撃の準備を行うために、南門へと馬車を走らせた。

















◇◇◇


ここはアレクとその師匠ヴェルが五年間修行した魔界の地よりもさらに奥深く場所にある魔王城。

今から五百年ほど前、この地で勇者と魔王の最終戦が行われ、そして魔王が敗れ封印された地である。


魔王城の一室にて二人の魔族が話し合っていた。

一人はベットで療養している額に角を生やした魔族、それに話しかける紫色の髪に棘付きの肩当てに甲冑鎧(フルプレート・メイル)を着込んだ豚顔の魔族だった。


「…それにしても、ローズの兄貴がここまでやられるなんて、信じられねぇーっすわ」


豚顔の魔族の男性がベットで療養している魔族の男に話しかける。


「俺だって信じたくねぇーよ。しかしこれは事実だ、俺は負けておめおめと逃げてきたんだよ」


「だって十歳かそこらの人族のガキに負けたなんて… 少し無理あると思いまっけど?」


豚顔の魔族は、このベットで療養している魔族の本当の実力を知っている。

魔力抜きとは言え、人族に… ましてや子供に敗北するようなお人ではないと心から信じているのだ。しかし、その信じていた男が人族に、ましてや十歳も年もいってないガキに躰を両断されて転移して逃げてきたというのだ。ますます持って、信じがたい。


「…それよりも、お前はどうなんだ? 確か俺と同じメルキドに攻め込む準備を進みているみてぇだが」


「準備も何も!既に完了してまっせ! もうすでに魔物どもをけしかけてメルキドに襲わせておりますわ! あと数十分もすれば落ちるんとちゃいますかなぁ!あはははははは!!」


数万もの魔物を集めた、と聞いていたが… もうすでに魔物たちをメルキドに向かわせているとは思わなかった。


確かに数万もの魔物を集めたとなれば、メルキドくらいの薄い外壁程度では防ぎきれないだろう。この豚顔魔族が言う通り、すぐに攻め落とせるはずだ。しかし、俺はそうは思えなかった。


なぜなら、メルキドには俺の躰を両断したガキがいる。成長発展の十のガキが住んでいる街だ。しかも、あれから五年も立っている。どれだけ強くなったのか分からない、あの成長速度で成長していれば完全な未知数の領域だ。


「ほいじゃ!おらは、そろそろメルキドに転移するわ!ローズの兄貴と違って、こっちは魔力ギンギンに回復しましたさかい!」


「そうか… 頑張れよ!魔王復活のために精々働くこったぁな!」


せめて嫌味を言っておこう、と口に出す。

しかしあの俺の躰を両断したガキが気になる。そこで俺は豚魔族に忠告しておくことにいた。


「白髪のガキには注意することだな…」


「ローズの兄貴を両断したっていうガキでやろ? 大丈夫っすよ!俺が負けるわけないでしょう!人族のガキが俺に勝てるわけないっすわ!」


あはははははっと、高笑いをしながら転移していった。おそらくメルキドに向かったのだろう。


「あの白髪のガキに合わなければいいんだがな…」


ただでさえ未知の力を秘めたガキだった。潜在能力は認めるが、なにより脅威だったのがガキの成長速度だ。なにがあって、一瞬で俺を凌駕するほどの力を手に入れたのか、それは分からない。しかし、事実俺は負けて、躰を両断されて、転移の《スクロール》を使って逃げるほどまで追い詰められた。


(あれから五年、一体どれだけ強くなってるかなんて予想もつかねぇ。なにより、あの豚野郎が俺の忠告を聞くとも思えねぇーしな。)


そう思ったので一旦、この考えは頭の片隅に置いておくことにした。今は躰を両断された傷を癒すための療養と魔力回復に努めることにする。


ベットに横になって、瞼を閉じる。

ゆっくりと眠るように意識を眠りの奥底へと沈めていった。





ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

分からない点や聞きたいことなどありましたら、お気軽にご感想下さい!気付き次第、返信させていだたきます( ^∀^)


これからも暇潰しに程度にお読み下さると嬉しいです!頑張って執筆していきますので、よろしくお願いします!

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