3.多忙な日々は突然終わる。
トーカしますっ。
俺は無事、高校を卒業した。
高校の卒業式の日、俺はさっさと家に帰った。クラスメイトたちとこれ以上馴れ合いたくないからだ。
高校生活は凄く楽しかった! 三年間はあっという間だった!
クラスメイトたちは口々に声を上げて喜んでいる。みんなで高校卒業を祝ってクラスメイトで写真を撮ろう! とかみんなで卒業祝って食事会やろう! とか色々と誘われたが、俺は「ちょっとこの後進学先の用事があるから」と言って抜けてきた。
クラスメイト達は俺が都内最大の医学系大学に現役合格したことを知っていたし、そのことで高校からも称賛もされたけど、正直何も思わなかったし、うれしくもなかった。
ただ、今コイツらと一緒に居たくはなかった。
朱莉が死んでから本当に反吐が出る日々だった。
クラスメイトは『花坂朱莉』なんて人は存在しなかったように話の話題にすらならず、先生たちはそんな奴はこの高校には入学していなかったように扱っていた。卒業式ですら、名前を呼ばれることはなかったのだ。
本当にムカつく……。クラスメイトたちにも、いじめの主犯格だった山崎のヤローも。そしていなかった存在として扱った偽善者聖職者たちも……。
いや、本当に救えないクズ野郎は俺だったな……
いじめを知っていながら救おうともしなかったクズ
自分がいじめられたくないために保身に走ってビクビクしていた情けない男
アイツがどんな気持ちだったのか二年も気づかなかった間抜けな男
ハハハ…… 本当に情けない、情けなさすぎるよ俺は……。
高校からの帰り道、最後に朱莉が勇気を振り絞って話しかけてきた時のアイツの悲しそうな横顔が脳裏から離れない。思い出すたびに心が紐で引き締められるようにズキズキと痛む。この心の痛みは一生消えることがないだろうな……。
乾いた笑い声が聞こえる。
笑っているのは誰だ? あぁ…… 俺だったな。俺が笑っているんだ……。
情けない自分がいまだに許せない。そっか…… 今でも俺後悔してるんだよな。
「……アハハ…… グスッ…… ハハハ……」
誰もいない帰宅路に俺の乾いた笑い声とすすり泣く音が響いていた。
◇◇◇
「高校卒業してから…… 朱莉が死んでからもう何年たったんだろう?」
今日は市立中学校での健康安全についての無償講演会の予定だったな。
腕時計を見ると。今は11時40分頃を指している。講演会は昼の13時半からだったから、ここから中学校まではタクシーを使っても一時間ちょいかかってしまう。遅刻しては恥ずかしいので急いで勤めている病院に停止しているタクシーに乗り込み、市立中学校まで飛ばしてもらう。
急いでカ〇リーメイトを頬張って、今日の講演会の内容を頭に叩き込みながら、ふと昔のことを思い出していた。
俺は今29歳。
なんとか医学系大学を卒業して俺は無事医者になり、地元にある私立病院に若手の新人外科医として働いている。俺が医学系大学ではひたすら勉学に六年間を費やした結果、医学系大学を首席で卒業した。本当にめっちゃ辛かった大学生活だったけど、後悔はしていない。俺は六年間必死に勉学に励んだおかげで医師免許と心理学系の心理カウンセラーの資格を取得することができた。
そのために俺はいま凄く多忙な日々を送っている。
毎日のように外科医としての仕事をこなしながら、外科医としての腕を上げるための研修や手術の練習や研究、先輩医師とのコミュニケーションを大切にするための飲み会などに参加し、また非番の日には無償で病院に入院して苦しんでいる人たちの心のケアを行ったり、自殺未遂を起こした児童のカウンセリングをボランティアで行ったり、休日の日には「いじめ」を無くすための運動を起こして、「いじめ撲滅運動」の一員として教育委員会や地元の学校をめぐっては講演会を行うという忙しくも凄く充実した日々を送っていた。
本当に苦しく体調も悪くて倒れそうになった日もあったけど、その時は朱莉の顔を浮かんできて、自分が過去に犯した罪に対しての償いを行っているんだ! 休むわけにはいかない! と無理をしてでもこの日々を過ごしている。
先輩医師やボランティア仲間からは「休め!」「倒れるぞ!」と言われているが、半年先までのスケジュールはすでに埋まっている。自分から「是非やらせてください!」と言って講演会を開いてもらう手前、やっぱり無理ですとかキャンセルするわけにはいかないのだ。
今12時50分、講演会を開いてくれる市立中学校の近くにある最寄り駅にタクシーが止まった。
ここから中学校までは歩いて数分の距離だ。なんとか間に合いそうで助かった。
ホッと安心してタクシーの会計を済ませて、中学校に早歩きで向かう。
「さぁ今日もいっちょ頑張りますか!」
自分に気合を入れるためにわざわざ口に出して言う。周りの人には聞こえているのか分からないが、もし聞こえていたら少し恥ずかしいな……。けど、勇気のない自分を振るい立たせるには自分の口から「頑張る!」の言葉を出すのが一番だと自分では考えているので恥ずかしさを堪えて言っているのだ。
俺がチラッと周りのを見ると、周りの人がこっちを見て何か叫んでいるのが見えた。
「なんだろう?」と思ったのは束の間。
後ろからトラックのギギギギィイイ! とブレーキ音にブッブー! と鳴り響くクラクション。
次の瞬間「ゴシャァッ!」の効果音と自分の身体が宙に浮いている浮遊感があった。
な、なにが…… 起きた?
そのまま地面に叩きつけられる衝撃と周りから聞こえる悲鳴にも似た声。
痛みも何も感じなかった。ただ自分の身体から熱が逃げてだんだんと冷たくなっていく。
(トラックに轢かれたんだな……。アイツと同じ死因とは…… 医者のクセに情けないな俺…)
アイツの墓に行って話したいことが一杯あったのにな。
もう一度アイツと一緒に遊びたかったな。
もう一度アイツと一緒に下校したかったな。
もう一度アイツに会って謝りたいな。
もう一度アイツと…… 朱莉に会いたかったな……。
ハハッ死に寸前まで、ずっと後悔してるじゃないか。俺って本当に惨めだな。
そのまま体の感覚と意識が深く冷たい真っ暗な底に沈んでいく感覚に囚われ、プツッと思考が停止した。
人の感情を文章にするって難しいですね。
あぁ俺も片思いの相手がいるんだよねぇ!思い切って告白してみようかな~
「留年したバカはゴメンです。」って言われたら立ち直れない気がするわ…。
まぁ暇つぶし程度に読んで下さい。