2-3.それぞれの戦場と決意
気まぐれトーカ!
冒険者ギルド内では、現在混乱が巻き起こっていた。
なんでも、あと数時間後にはこの街に数万を超える魔物の軍勢が襲ってくるらしい。
これは、南門の魔力探知を専門に行う衛兵からの正式な連絡で、代官より冒険者ギルドにメルキド防衛の戦力を提供してほしい、との連絡が届いたため現在、冒険者ギルド内はパニック寸前に陥っているらしい。
街を放棄して逃走すべし、と唱える者。
撃って出るしかない、と唱える者。
メルキドの城塞壁で立てこもろう、と唱える者。
様々な意見が現在、冒険者ギルドの上役たちによって会議されているが、まだ結論は出ていないため、冒険者たちは準備を整え待機を命じられているそうだ。
ちなみに、この事態は『緊急依頼』に分類され、他の依頼は全て受けられなくなる。そのため、Dランク以下の冒険者は任意での参加、Cランク以上の冒険者は強制参加となる。
「かつてないほどの脅威が今、このメルキドを迫りつつあるのよ…」
ミーアさんが至極丁寧に説明してくれた。どうやら過去にも何度か魔物暴走がメルキドに襲い掛かってきたことがあったが、すべて撃退している。しかし、今回のような大規模な魔物暴走は初の事態であり、どう対処すべきか、上は決断しかねているそうだ。
「…このままだと、どうなりますかね?」
「おそらく、メルキドで籠城作戦かな? 街の住人にはリルクヴィスト領にある都市キースに避難するように馬車が手配されると思う」
まぁ、妥当な作戦かな。
護り切れる保証がない今、速やかに住民を逃がすことには賛成だ。それに時間を稼ぐには、籠城作戦が一番効果的だ。運がいいことに、ほとんどの魔物が南門にある魔の森に集結しているため、北側の門側には魔物の数が減っている可能性が高い。
「仕方がない。俺が殲滅するか」
心の中で思っていた言葉がつい、言葉に出てしまった。それをミーアさんが一瞬驚いた表情をして、頭をぶんぶんを振り回している。
「…あれ?私の耳おかしくなったのかな? も、もう一度いってもらえるかしら?」
某会議で県議会議員がやったみたいに、カウンターに肘をついて耳に手を当て「もう一度お願いします!」の姿勢をとって聞いてきた。おぉ、そっくりだぁ!とは、声には出さないでおく。
「俺が魔物を殲滅する」
「あれれ~? 私の耳ほんとぉーっに!おかしくなっちゃったかな?あははははは」
丁重に言い直してあげると、ミーアさんは現実逃避を始めてしまった。過度なストレスによる、一時的思考の退行か、思考放棄か。まぁなんにせよ、これでは会話は無理だな。
「…とりあえず、ギルドカードの復活とあとコレ、鑑定お願いしますね!」
俺は思考放棄しているミーアさんの前にドンッと大きな袋を三つ異空間収納から取り出して置いた。
ついでにギルドカードも渡しておく。五年前から一切カード更新を行っていないため、Dランクの表示と、『現在機能停止中』の文字が浮かんでいる。
冒険者カードは死亡が確認された場合のみ、登録が抹消される。行方不明や生死不明な場合は今回のようにギルドカードが機能停止するだけだ。三年間ギルドカードの更新がないと、機能停止させられるのだ。
「あははは…? あれ…? こんなところに大きな袋が三つ… あったかな?」
ミーアさんが首を傾げながら、袋の中身をチェックする。
ちなみに中身は大中小の魔石だ。小さな小鬼クラスの魔石からSランクのドラゴンクラスの魔石まである。
3センチ級から50センチ級の魔石が大量に入った袋だ。これは魔界で修行中に倒した魔物から採取した魔石で、人間界では魔道具の作成などに使われるモノだ。
魔石は“魔物”なら必ず持っている命の源である。純度の高い魔石ほど高価なシロモノとなる。また大きさも魔物によって違うため、大きい魔石は基本的に市場には出回らない貴重なシロモノだ。
「…!? これ中身…全部魔石!? これどこで手に入れたの?ってスゴッ!重たい!」
ミーアさんの思考が回復したようだ。追加で二袋出してカウンターに置く。最後のトドメとばかりに80センチクラスの魔石をドンッ!、とカウンターに置く。
「え?え?ええぇぇぇええええええ!?」
「じゃ!これ鑑定お願いしますね!代金はいつも通りギルドカードに振り込みでお願いします!あとギルドカードの更新お願いしますね!」
俺は急いでギルドホールから出ようと、後ろを振り向いて進もうとする。
ちなみに俺はDランク冒険者なので、今回の緊急依頼は任意参加となる。ここで逃げ出しても誰にも文句には言われないビギナークラスの冒険者なのだ。
「アレクくん! ちょっとまって!」
ミーアさんに呼び止められる。
「アレクくん。さっき『魔物を殲滅する』って言ってたけど… 本気なの?相手は数万に上る魔物暴走なのよ!この街中の戦力をかき集めたとしても勝てる保証のない戦いなのよ!」
ミーアさんの眼から俺に対する不安の色が見て取れる。きっと心配してくれているんだろう。だが、俺は止まるわけにはいかない。男に二言はないのだから!
「大丈夫ですよ!俺は強くなりましたから!」
「…確かにアレクくんから魔力が漲っているのがわかるけど、これは一人でどうにかできるような事態じゃないの!今度こそ本当に死んじゃうんだよ…?」
どうやら、俺が五年前、馬車を救うために魔物暴走に飛び込んだことを知っているようだ。
それを踏まえて「生きてて本当によかった!」と言い、そしてまた死地に飛び込もうとする俺を必死に止めようとしているんだ。ミーアさんは本当に優しい人だな、と改めて思う。
俺はそんな心配してくれるミーアさんの為にも生き残らないといけないな、と覚悟を決める。
そして最大限安心できるように、一声かけてからギルドホールを出るようにしよう。
「大丈夫です!俺が姿を消した五年間は、全てを護り抜くための時間だったんですから。 だから安心して待っていてください!」
そして最後に「俺は絶対に死にませんし、負けません! 俺は最強になったんですから!」と付け加え、ギルドホールを飛び出す。
そう、俺が五年間と長き日々を、魔界という人が生きていくことのできない環境で生き抜き、そして自分自身を鍛え上げた。それも死にかけるような思いを何度もしたし、何度も死にかけた。
しかし俺は生き抜いた!
そして耐え抜いてきた!
それは俺のたった一つの信念を貫くために!
全て護る為の五年間なんだから!
俺はもう、誰にも負けない————————————
※※※
アレクがギルドホールを出ていった後、ミーアは初めて会ったころの彼を思い出していた。
あんなに頼もしくない小さな背中だったアレクの背中が、今では凄く大きく、頼もしく見える。
言葉の一つ一つに重みを感じる。
虚言ではない、ましては死ぬつもりも微塵もない。
必ず殲滅して生きて帰るから!、そう確約された未来を約束する言葉に思えた。
「本当に五年間、何をしてたんだろう…?」
(けど、本当に頼もしくなって、生きて帰ってきてくれたんだ。)
今の彼なら、任せられる!きっと、この街を救ってくれる! そんな根拠のない信頼を賭けられる、いや、賭けてみたくなる。 そんな頼もしい存在にまで成長したんだね。
どこか、心の中で諦めていた「絶対に助からない」「この街はもう終わりだ」と、勝手に決めつけて諦めていた固定概念を見事をぶっ飛ばして、希望を言う明かりをつけてくれたようだ。
「アレクくん… どうかこの街をお願いします」
私はそう願って、自分の仕事を全うするために、ギルド内であたふたしている冒険者たちに喝を飛ばす!
「全員!準備は出来ましたか! 我々は冒険者だ! メルキドの冒険者だ! この街を護るのは衛兵だけか! この街は私たち冒険者の街でしょう! なら、我々冒険者が救うのが筋ってものでしょうが! ここで逃げ出して明日喰う飯がうまいか! 一日一日全力で生き抜いて、まだ見ぬ場所を冒険して、魔物から街や人を護るのが冒険者でしょう! 全員冒険者としての誇りを、信念を! 今一度覚悟せよ!」
これでも私は、五年間でギルド受付嬢兼チーフマネージャーまで昇格したんだから!こんな時こそ、みんなをまとめなきゃ!強くなって帰ってきたアレクくんに申し訳がたたないじゃない!
口下手なりに頑張って訴えた。あとは冒険者たちの反応を見るだけだ。
突然大声で叫んだ私を見て、冒険者たちが固まっている。だが、さっきまで慌てふためいていた冒険者たちではない。その眼には何かを決意した炎が宿っているような気がした。
「そうだ… 俺たちがこの街を護るんだ!」
「そうだ、俺たちは冒険者だ」
「や、やってやろうじゃねぇーか!」
「俺、この戦い生き抜いたら彼女と結婚するわ」
「俺も好きだった奴に告白するわ…」
「へへ… ミーアちゃんに言われちぁ冒険者の名俺だな」
「だな… あのミーアちゃんにあそこまで言われて黙ってるなんざ、男じゃねぇ」
「冒険者でもねぇーな!」
「「「「「やってやろうじゃねぇかぁああああ!」」」」」
「「「「「おぉおおおおおおおおお!!!!!」」」」
冒険者たちが口々に勝気を声に出す。中には死亡フラグを立てているバカ者もいるけど。
こっちは、こっちの戦場をなんとかしないとね!
私は冒険者たちを最大限サポートする!だからそっちは任せたよ!アレクくん!
うん!やっぱり小説って書くの難しいね! と再認識させられる。
人の想いの変動を文章に起こす、本当に小説を書いているみなさんの凄さを改めて実感しました。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
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暇つぶし程度に読んで下さると、大変うれしいです!
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