閑話:失わされた心の欠片
気まぐれトーカ。
次回の更新で『閑話:後日談』を書いて第一章終了とする予定です。
※頼むから予定通りにいってくれぇええ(;´Д`)
人の内なる魂にある世界 《精神世界》
それは本来は絶対に入ることのできない世界であり、その人の本性を醸し出した世界である。
しかしアレクは瀕死の状態にあった時に偶然に走馬灯中に偶然迷い込んだのだ。
そこでアレクは、過去の自分の姿をした自分に遭遇する。
アレクはその過去の自分との対話する。しかし過去の自分は醜く、新しい人生を歩むアレクには邪魔なものでしかなかった。いや、そう誘導された思考に追い込まれてしまったのだ。その結果、過去を斬り裂き、現実の世界へと帰還した後の精神世界での話である。
◇◇◇
「あぁ~怖かった! まさか斬りかかってくるとは思わなかったわ… まぁでも、本来の目的は達成したから良しとするか」
アレクを怒らせて負の感情を呼び覚ます。
怒り、悲しみ、劣等感や虚無感と言った人を停滞さえてしまう要因となる負の感情。
それは過去であり、記憶であり、後悔であり、呪いだ。
『生き地獄』まさに、その言葉通りだろう。
そこから救い出すのが俺の決めた道だ。
自己中心的思考、自己肯定、自分勝手、自己正義… 言葉は腐るほど出てくる。
ただのエゴだ。
俺の勝手な思い込みかもしれない。
しかし事実、アレクは止まってしまっている。
過去に囚われてしまっている。
やっと過去の俺から解放される好機なのに、止まってしまっている。
なら原因を排除すればいい――――――
やっと新しい人生を歩み始めた俺自身には必要のない残留因子の消失、過去の呪縛からの解放。
それが俺がしてあげられる唯一の償いだ。
お前はもう雪村幸樹ではない。
アレクとして新しい生を受け、道を歩む者だ。
なら、アレクを縛り付ける雪村幸樹はいらない。
新しい人生に雪村幸樹はいらない。
ほしいのは記憶の中の知識と経験のみ。
過去の後悔といった呪縛はいらない。
なら俺がその呪縛から解放してあげよう―――――――
それが俺の『償い』
俺の脆弱な部分が生み出してしまったアレクに対するせめてもの『償い』
自分勝手なことをしてごめんよ。
せめて、アレクが幸せな人生を歩めるように…
過去の遺物は大人しく、君の奥底に消えることにする。
俺はこれから深い眠りに入るだろう。
本来は決して二つに分かれることのない魂だが、俺たちは分かれた。
脆弱なお調子者の俺、そして努力家のお前。
本来、俺は二人で一人の存在だが、俺はもう外に出る勇気がないよ。
だからお前に託す。
俺に縛られずに、お前の人生を謳歌してくれ。
俺は眠ることにする。
もう二度と目覚めることのないように魂の奥底で。
「……なぁアレクくん、いや俺の大切な弟よ」
あれが最初で最後の再会だったのに、一方的に罵ってごめんよ。
生意気にもお前を上から罵った情けない兄を許してくれ。
それに、おまえは覚えているか?
俺たちが入れ替わってしまった日のことを―――――
朱莉が事故死してしまった次の日、学校での出来事。
朱莉が死んでもなんとも思わない、誰も話題にすら出さない。
話題に出ても「あいつ死んだんだ!」「ざまぁ」「邪魔だったんだよね!」と朱莉を侮辱するあの人間のクズども…
そんな態度を取っているクラスメイトを見て俺の中で殺意が生まれた。
それは衝動的な物であり、決して自分の理性で止められることのない本能的な衝動。
初めて感じた激しい憎悪に俺は犯された。
そしてクラスメイトを殺そうとした。
しかし、寸前でお前が俺を止めてくれた。
激しい憎悪で満たされた俺の精神をお前が止めてくれた。
そしてお前が入れ替わって治めてくれた。
結果、俺は救われた。
俺にはまだ良心が残ってる。
それはお前が生まれて入れ替わってくれたおかげで救われた俺の心だ。
だから… 弟よ。いやアレクよ。
俺を忘れて生きてくれ。
例え、思い出したとしても悲しまないでくれ。
それは俺の弱さが生んだ結果だから。
お前が悲しむ必要のないものだ。
お前は自分のために生きてくれ。
自己満足と思われるような行動でもいい。
自分を大切にしてくれ。
お前はずっと過去に縛られている。
異世界に転生して尚、そのままだ。
お前の時はずっと止まったままだ。
人は過去には戻れない。それは世界の、理の、不変である絶対の法則だ。
それを侵すのは【愚者】だ。
【愚者】は俺だ。お前は【賢者】だ。
人は過去を背負ってでも進まないといけない。
お前の今行っている行動は、死んでいった朱莉に対する侮辱に等しい。
生きている者は死んでいった者の気持ちや意思は継いでも、立ち止まってはいけない。
過去を振り返るのは構わないけど、戻ってはいけない。
生きている人は、進み続けるしかないんだ。
それなのに、お前はずっと過去に止まったままだった。
お前は言ったな… 「俺の夢は過去にある。」と…
その言葉が停滞の証だよ。朱莉への侮辱だよ…
だから頼む… お前は、お前の時を動かして進んでくれ。
それが俺の願いだ―――――
そんな俺がアレクに願うなんて図々しいよな。
けどな、お前は俺を救ってくれた。
こんなどうしようもない俺を。
本当に感謝している。
それなのに、俺がお前にしてやれたのは何もない。
ただお前の人生を奪ってしまっただけだ。
本当に情けない兄でごめんよ。
せめてこの呪縛と記憶だけは俺が持っていくよ。
もう覚めることのない奥底に沈むように、雪村幸樹は沈んでいった―――――




