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マヤの神話と伝説  作者: 三坂淳一
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黄金のツィンバロム

マヤの神話と伝説


黄金のツィンバロム


 昔、雉と鹿で満ち溢れた地で、人々は戦争とか生贄はすっかり止めて、畠を耕し、岩山さえも花で覆い尽くすようにして幸せに暮らしておりました。

 統治者は住んでいる宮殿の周辺でその都市が大きくなっていくのを見ていました。

 統治の近くには、神秘に満ちた山があり、その中腹に、せむしの一団が住んでおりました。

また、野草の秘密を知り、月から銀を取ることの出来る魔法使いのお婆さんが住んでいる部落もありました。

 お婆さんは部落のはずれに木の葉と泥で掘っ立て小屋を作り、住んでおりました。

 そのお婆さんはずっと長いこと、息子を欲しがっておりました。

 その目的で、在る夜、せむしの山に行き、せむしたちから一つの大きな卵を貰いました。

鷲の卵よりもずっと大きな卵で、老婆は家の地面の下に埋め、孵化させました。

 その卵から一人の子供が生まれましたが、7パルモ(147cm)より大きくは成長しませんでした。

しかし、ねずみのように利発な子供でした。

 生まれるとすぐに話すことが出来、会う者全てが驚嘆するほどの智慧を持っておりました。

 お婆さんはその子を孫と言っておりました。

 お婆さんはそのおちびさんを一人で家に残し、部落の共有の井戸に水を汲むために水甕を抱えて行きました。

その子はお婆さんがいつも暖炉の三個の石に座ることに注目していました。

そして、出かける時は、それらの三個の石を注意深く覆うのです。

 その子はお婆さんがそこに何を隠しているのか知りたいと思いました。

 このために、大胆で且つ悪賢かったので、お婆さんが水汲みに外出する時、一杯に満たすことが出来ず、より時間がかかるように、水甕の底に穴を開けておきました。

 このようにして、かまどの灰を取り除く時間を持てるようにしました。

 その日、老婆が水甕に水を満たしている間、そのおちびさんは石と灰をどかせ、黄金のツィンバロムを見つけました。

そして、棒で鳴らしました。

このツィンバロムはあたかも雷鳴のような凄い音を響かせ、地面を震えさせました。

 老婆は家に走り戻り、ひどく悲しみながら、そのおちびさんに言いました。

 「この不幸ものめ、何をおしだい?」

 おちびさんは答えました。

 「僕は何もしないよ、山の中で七面鳥が鳴いただけだよ」

 既に、ツィンバロムは灰の下に素早く隠されておりました。

 しかし、お婆さんはそのこびとが何をしたのか十分に知っておりました。

地と火の下に隠された黄金のツィンバロムを見つけ出し、鳴らし

た者は近隣の部落の幸せな統治者の位を占めるということが書かれてあったのです。

そして、この知らせは大きな騒ぎの中で共同体全体に広まっていきました。

 白亜の館で休息していた年老いた支配者は目を覚まし、びっくり仰天し、大いに恐れて体を震えさせました。

 臣下を国全体に派遣し、この恐ろしい音楽を奏でる楽器を鳴らした者が誰なのか探し当てるよう命じました。

 そのおちびさんを見つけ出し、宮殿の真ん中の玉座に座って待っていた、千歳の彼の前に連れて来ました。

 大臣たちはこびとが連れて来られるのを見て、王位を剥奪するには若すぎると思い、笑いました。

そして、王に幾つか試練を与えるよう助言しました。

 その支配者はおちびさんに向かって言いました。

 「もし、お前がわしの後継者ということならば、わしより賢くなくてはならない。間違えずに答えよ:木陰をわしたちに与えてくれているこのセイバの実は何個あるのか?」

 そのこびとは実が一杯なっているその樹の枝に目をやり、答えました。

 「その実は十万の十倍と七十三の二倍ある。僕の言うことを信じないのならば、お前自身が一枚一枚数えるために樹に登るべし」

 王は当惑して、セイバから一匹の巨大な蝙蝠が飛び立つのを見詰ました。

王はこびとに囁きました。

 「このチビめ。お前の言っていることは正しい」

 しかし、敗北は認めず、二番目の試練をこのおちびさんに課しました。

 すなわち、このように言ったのです。

 「見たところ、一番目の試練には見事に成功したが、しかし、十分ではない。明日、この宮殿の中央に壇を立てるよう命じる、そしてそこで、全ての人が見ている前で、大臣がココナッツをお前の頭骨の上に載せ、石の大槌で打ち砕くこととする。ココナッツで一杯にした大袋のココナッツが一個も無くなるまで。もし、無傷で助かるのならば、お前は本当にわしに取って代わる者である」

 これを聴いて、そのおちびさんは言いました。

 「もちろん、もし僕が生き残れば、お前もその試練を受けるという条件でね」

 「わしもお前と同じ試練を受けよう」

 と、王は言った。

 「お前が来たところへ帰れ、そして明日ここでお前を待つこととしよう」

 「戻るよ」

 と、おちびさんは答えました。

 「でも、僕の家までの道は狭く、石ころだらけだ。王が通るような道ではない。僕に相応しい道にする、そして、明日その道を通ってお前に会うために戻ってくる。では、お休み」

 そのこびとは祖母の家に戻って来ました。

 その夜、一晩の間に王の宮殿に続く道は滑らかで輝く石で造られました。

彼はその道を通って歩きました。

夜明けには、おちびさんは祖母や他の人たちと一緒に宮殿の前に着きました。

見物人を前にして、そのこびとは壇の上によじ登り、大臣はこびとの頭の上に準備されたココナッツを載せ、石の大槌をふるい一つずつ、一つ残らず全て破壊しました。

 そのこびとは動かず、大笑いをしておりました。

 祖母がこっそりと彼の髪の毛に魔法をかけて銅の板にしておいたのです。

それによって、彼は何も感じず傷付きもしなかったのでした。

 王は彼が元気で無事に起き上がったのを見て、確かに、と唇を噛み締めながら呟きました。

しかし、屈することはありませんでした、というのは、国民の上に立つ権力を持つことはそう簡単には手放せるものではなかったのです。

 それで、王はおちびさんに言いました。

 「なるほど、しかしお前はわしに取って代わる者であるから、その他の試練も通らなければならないのだ。今日はわしの白き家で眠ることにせよ、そして明日また会うことにする」

 それに対して、おちびさんは答えました。

 「お前の宮殿ではなく、この部落に留まることとする。お前の宮殿は僕のような王には相応しくないからだ。今夜、僕に相応しい大きな宮殿を建てることとし、明日はそこから僕が出かけるのをお前は見ることとなろう」

 そして、これはかなえられ、翌日には白い宮殿の前に、ずっと高く、細工が施された眩しい、磨きあげられた石で造られた宮殿が現われました。

 その扉を通って、おちびさんが現われました、そして階段の下には大勢の臣下が控えていました(山のせむしたちだった)

 そのこびとを恐れる王のいるところに着きました。

そして三番目の試練が与えられたのです。

 「我々自身の像を作って、火の中にくべよう。火が尊敬すれば、その像の主がこの地を治める者となる」

 「承知した」

 と、おちびさんは言いました。

 「お前さんから、始めなさい」

 王は木の像を作り、火にくべました。

それは、灰と炭になってしまいました。

 それを見て、おちびさんは彼に言いました。

 「お前は冗談が大好きなように見える。こんなものが欲しいなら、また別なものを作ったらどう」

 王は体を震えさせ、もっと固い石で別な像を作りましたが、火にくべた途端、溶かされて石灰の灰になってしまいました。

 「どうか、もう一度、最後の像を作らしてくれ」

 王は溜息を吐きながら、笑って見ているおちびさんに頼みました。

 そして、年老いた王は別な像を作りました。

それは金属で出来ていましたが、火にくべられた途端、あたかも蝋燭のように溶けてしまいました。

 「僕の勝ちだよ。お前が作った像がこれらのようにこんなにも簡単に燃えてしまうのであれば」

 そのこびとは微笑みました。

濡れた泥土を持ってきて、自分に似通わせた小さな像を作りました。

それを火にくべました。

その像は焼かれるにつれて、より丈夫に、上質の像になりました。

 人々はびっくり仰天し、そのおちびさんが新しい王であることに納得し、彼のためにお祭りを開きました。

しかし、そのこびとは言いました。

 「僕の年老いた祖母のための宮殿がなければ、また、僕の大臣のための住居、僕の戦士のための多くの住居、火の乙女たちのための神殿、更にはショー観覧の巨大な広場が無ければ、僕は王位につくことが出来ない。明日、これら全てが無ければならぬ。今や、本来の約束通り、年老いた王は僕が受けた数々の試練を受けなければならない」

 その老人は槌の試練を受け、最初の一撃で死んでしまいました。

 おちびさんが約束した通り、夜が明けると、人々は石の細工が施された多くの宮殿、沢山の神殿、球戯場を備えた大きな都市になっている様子を見て驚きました。(偉大なるウシュマルの誕生です)

 新しい王のために開かれた式典はおおがかりなもので、彼の栄誉を讃える華美な踊りも踊られました。

このようにして、ウシュマルはこの世の他の都市よりも繁栄しま

した。

人々は美術を愛好し、芸術を発展させました。

金属を鋳造したり、上品で繊細なものを石に彫り付けることも修得しましたし、様々な色の刺繍糸を用いて布を織り、動物の皮で飾りを作ることも学びました。

野草で治療する多くの秘法や緑と黄色の石が持つ効力。

 彼らはあたかも空中に飛ばす矢のように、言葉を詩的に話したり、言葉で遊ぶという芸術も知っていました。

音楽においても完璧でありましたし、新しい楽器も発明しました。

 その小さな王は人として60回の人生を送った後、崩御しましたが、彼はそれまでの誰よりも自国の人々をずつと幸せにしました。

 崩御した時は全ての人が泣き、繊細な土で彼の栄誉を讃える像を作り、いつまでも忘れないように輝く色で塗りました。

そして、多くの貴族階級の人がコパルの樹の花が咲く彼の墓を守ったということです。



- 完 -


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