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マヤの神話と伝説  作者: 三坂淳一
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マー・シェク

マヤの神話と伝説


マー・シェク


 昔々、コパンがマヤの都市国家の中心であった頃、輝くように美しい娘がおりました。

 緑の眼をしていて、あたかもエメラルドと見間違えるほどでした。

高い身分の貴族の娘で聖なる香炉の世話をするよう命じられておりました。

香炉の中では、樹脂で香り高いコパルが燃やされました。その煙は偉大なる太陽神であるキニク・アフを讃える宗教

儀式を崇め高めていきました。

 その魅力的な娘が近隣の都市国家の王子を愛することで、信仰奉仕に入る際、最も重要であるとされた純潔と貞潔という誓いを破ってしまったのです。

信仰の道に入った娘は触れることのできない存在となり、純潔を守らなければならなかったのです。

思考の片隅にでも性的な思いがあってはならず、心の中で不道徳な感情を抱いてもなりませんでしたし、その処女の胸に愛情の炎が燃えることも許されませんでした。

太古から延々と続いてきた法律では、選ばれた乙女の純潔を汚した者には、太陽の光ということで金色に塗られた矢を射られるという死が与えられました。

 愛を放棄した冒涜女は身分を失い、未亡人の家に閉じ込められるのです。

 その若者は儀式の大広場で行われた「新しい火」を燃やす儀式の時に彼女を見ました。

娘は青いチュニカ(服の一種)を着て、海の貝で作られた首飾りに吊り下げられた翡翠飾りをしておりました。

娘の美しい顔は太陽の光で輝いているように見えました。コパルを燃やす香炉を揺らしながら歩いていく娘を見た時

その首長の息子はあまりの美しさに茫然としておりました。

「新しい火」の儀式に参列した人々が四散していく時、彼は火がついた自分の心の燃えるような思いを告白するために彼女に近づいて行きました。

 「君を見た時から、僕の愛は狂ったように芽生えた。他の女なんかもう愛せない、君が今日から僕の人生を通して僕を満たす女だ。僕と一緒に来て欲しい。この地を離れて、どこかに新しい町を作ろう。そこで、この素晴らしい思いを永続させるために僕たちの家系を作ろう」

 娘も王子を愛しました。

聖なる役目も行動が引き起こす恐ろしい罰をも忘れました。愛ゆえに盲目となり、悲劇の鎖を解き放ってしまったので

す。

 「私もあなたを愛しています。アー・キン・マイに太陽神に対する奉仕を放棄してもよいか許しを請うことにしましょう。そうすれば、私たちは結婚できます。彼にお願いしに、二人で行きましょう」

 しかし、その願いは聞き届けられませんでした。

例外はありましたが、その聖なる香炉の役だけは別でした。

 宗教上の慣習に立ち向かうように、リオ・アマリージョ(黄色い河)の岸にある洞窟の中で二人は秘かに会いました。

 しかし、或る日、二人は発見され、捕らえられました。

 首長の息子は前述の刑を執行されました。

そして、処女を失った掟破りの娘は神々の意思に逆らった恥ずべき女として、誰一人会えないようなところに監禁されました。

 こうして、一年が過ぎました。

天文官が地が太陽の周りを新しく一周する時だと告知しました。このことは彼の計算に書きとめられることとなります。 

その日、娘は一人でおりましたが、胸に光輝く虫が止まっているのに気付きました。

手に取って、悲しそうにその虫に訊ねました。

 「マー・シェク、お前は誰なの?」

 その見慣れぬ虫は清らかな声で答えました。

 「元気かい? 怖がってはいけないよ。僕はこんな格好になって、永遠に君と一緒にいるために来たんだ。もう、誰も僕たちを引き裂くことはできないんだ。僕のことは心配しないでおくれ。僕は食べないし、飲むこともしない。このようにして、永遠に君の傍に居るよ」

 マー・シェクはそれ以降、コガネムシと呼ばれました。

色が美しく、マヤの若い娘は胸の飾りとしてペンダントのように吊り下げ、その虫を永遠の愛のシンボルとして大事にしました。

 今でも、ホンデュラスの或る地方では禁じられた愛に関する不滅の伝説のエッセンスとして語られています。

常に、マヤ民族により悪く言われてはおりますが、宗教として多くの面で計り知れない障害の話として、壊すことが出来ない話として語られております。



- 完 -


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