マヤの神話と伝説 ポポル・ブー
マヤの神話と伝説
ポポル・ブー
地球及び地球に生息する生き物の創造に関するマヤの学説は学派によって少し異なっています。
しかし、根本的なことにおいては、特に立て続けに起こった種々の段階での人間の存在に関しては類似しております。
キチェ族の「ポポル・ブー」はそのテーマに関しては他のものよりもずっと完璧なものであり、精緻な概要・要約として解釈することが出来ます。
詩的な言葉遣いの中に、これらのテキストは天の広大さを、地球の顔が未だ明らかになっていない時に、その創造に先行する「動くもの、空虚なもの、そして黙するもの」として表現しています。
そこには、全てが暗闇に包まれていた時、神々は現在私たちが見ている全てのものを創造するために集まったと書かれています。
初めは、生きているものは何もありませんでした。
全ては空っぽな状態で単独にありました。
空間は生気が無い状態で、災厄の上に無限の海が休息していました。
暗闇の静けさの中で、テペウ、グクマツ、ウラカンといった神々が徘徊していました。
彼らの名前は地球とそこに住むであろう全ての生き物と同じくらい、誕生と死の神秘を包含しておりました。
神々は真っ暗なところに着き、何をしようかと決めました。
そして、彼らは言いました:
「適合させることは海から海を分離させることだ。そこに、多産な穀物の種を撒けば、収穫された実はそこに住むものが食べるだろう」
このようにして、海は固い陸地から分離されました。
これを成し遂げてから、神々は宣言しました。
「最初の仕事はこれで終わったし、眼前に広がる光景は美しい」
すぐに、創造は続き、彼らは言いました。
「植物そして木々は単独では成長すべきではない」
そして、神々は鳥と家畜を造りました;それらの動きは鈍く、無感覚でしたので、神々はそのことを考えてから、このように宣言しました。
「家畜は警戒して眠り、四足で歩き、首を折り曲げるだろう;鳥は木々の中で暮らし、飛び、なされたことを変えずに世代を重ねていくことだろう」
家畜と鳥は言われたことに従いました;その後、神々は再び集まり、このように言いました。
「全てのものは命じられたことに従い服従して生きるだろうが、沈黙する奉仕者とはならないだろう;これは悲嘆であり、放棄であり、死である。したがって(そのため)、我々が彼らに授けた恵みをもって、また、あるがままに従って、我々の名前にかけて、声を高くして、こうしてあるように、手段を講じることにしよう」
しかし、それらの創造物は話すことが出来ませんでした。
そして、神々はこのように言われた。
「無言の馬鹿では、我々が授けた特権をもって生きることはないであろう;同類から逃げ去り、沈黙を守って、創造者としての我々を認識することもなしに、肉はむさぼり食われ、あなたがたの間でがつがつと食べられるであろう」
こう言って、立ち去りましたが、家畜は宣告された判断の重さをもって、そこに運命に任せて捨てられた状態にありました。
その後、神々は話すことが出来る他の生き物を創ることを計画され、そしてこのように言われた。
「今度の創造物が我々の名前を呼び、我々を崇めるように、何をしようか」
話し合い、湿った泥から今度の生き物を創ることに決めました。
徐々に形作られ、出来上がった時、その創造物は足で立つことも出来ない単なる泥の人形でしかなく、時と共に崩れていきました。
それでも、話すことは出来ました;でも、その言葉に自覚はありませんでした。
それを見て、神々はこのように言われた。
「沢山のSURJANの中で取って代わる者たちは生きるだろう」
そして、神々はその創造物が理解能力を身に付け、自覚を持ち、自分たちを崇め、彼らが何者なのか知るようになるためにはどうしたらよいか、自問自答しました。
稲妻の光がその新しい創造の心に輝いたのはその時でありました;今度の生き物は木で造られました。
実際、人間のように見えましたが、すぐに魂を持っていないことが分かりました;感覚を理解せず、自分が造られた意図も理解しませんでした。
話しましたが、その言葉はとても空っぽで、とても動きが鈍く、自分を創ってくれた万物の主である創造者のことも認識出来ませんでした。
また、呪われた邪悪な生き物もおりましたので、神々は灰の洪水を起こしてそれらの生き物を滅ぼしました。
神々は失望して、陸地に洪水を起こして全ての生き物を根絶させることとしました;そして、それは実行されました。
長期間、全ては水浸しとなりました。
そのあとで、神々はまた別な生き物を創りました。
泥沼に生えている植物から人間の男を創りました。
そして、小さな湖の岸辺に生えている穂から女を創りました。
しかし、神々が期待したようにはなりませんでした。
シェコトゥコバ鳥は人間たちの眼を目掛けて激突しましたし、肉はコツァバラム・ジャガーによって噛み砕かれました。
幾人かは洞窟とか木々に逃げ込み、ついには猿となってしまいました;そんなわけで、猿はキチェの土地の古代の生き物としての面を持っているのです。
もう一度、神々は集まり、肉と骨から成り、且つ心と知性を具備した創造物の創造を協議しました。
夜明け前になって、それらの生き物の食物となるものを祝福しました。
さまざまなところから、猫、狐、オウム、カラスが到着しました;
そのものたちは黄色いトウモロコシの新しい穂を運んで来ました。
その穂は背が高く成熟しておりました。
穂から実が取られ、穀物と共に雨水の中に置かれ、この新しい生き物の生命を長らえる食べ物となりました。
このような自然から形作られ、中に葦が入れられ、すぐに自覚の質が示されました。
最初は四人でした。
バラム・キチェ即ち「甘い微笑みの虎」;バラム・アカブ即ち「夜の虎」;マウクタ即ち「上品な名前」、そして最後は、イクイ・バラム又は「月の虎」。
両手から湧き出させて、神々は四人の内で最初のものに尋ねました。
「お前自身のその口で我々とお前以外の者に話しなさい、《お前とお前の兄弟を取り囲む世界というものに対して、どのような意識を持っているのか?》」
この言葉を聞いて、これらの新しい生き物は自分たちの感覚が完全であることに気付き、感謝の意を表したいと思いました。
バラム・キチェは言いました。
「あなたがたのおかげで私たちは生きております。そして、私たちの心は私たちが何者であるのか知っております。このようにして、大きいものは何で、小さいものは何なのか、私たちは理解しています。私たちが拠って立つところを、あちこちで私たちを取り囲んでいるものが限られているという基本的な点を私たちは把握しております」
しかし、神々はこの宣言を聞いて喜びませんでした。
過度に意識が勝っていると思われたのです。
再び、集まって討議しました。
「彼らは同一であること、異なっていることが何をよりどころとするのか理解している、と言っていた。そのような明晰さは時と共に悪くなってしまう恐れがある。それゆえ、彼らの意識の到達範囲には制限を設けておいたほうが宜しかろう。全てを知る必要はないのだ。そうすれば、災厄の決まりが持つ秘密に対して不貞を働くであろう。これならば、彼の者の傲慢は退き、彼の者の存在はある程度固定されたものとして存続することになるだろう」
そして、新しい生き物が自分たちにあまり似ないように、眼に雲を吹きかけました。
こうして、あまり見え過ぎないようにと、彼の者の視覚は減じられたのです。
神々は彼らに伴侶を与えることとしました。
そして、カキサ即ち「輝く水」、ツヌニア即ち「水の家」、チョイマ即ち「美しい水」、カハパルマ即ち「水の落下」という女たちを創られたのです。
神々が女たちを創っている間、人間の男たちは眠っていましたが、神々に起こされ、目が覚めて見ると、本当に彼女たちは美しかったのです。
彼女たちがとてもほっそりとしていて、柔らかな肌を持ち、とても快い香りがしているのを見て、喜んで妻として迎えたということです。
そして、この出来事以降、オリエント地域の土地から分散しながらも同じ血統を有する全てのキチェ・マヤ族がやって来たということです。
- 完 -