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第8話

短めですが日常の1コマです。

第8章  イベント

 衣替えにはまだ早いが、今年は例年よりも気温が高いこともあり、照りつける日差しは暑く感じる。まだ寒さの残った入学式のツンと澄んだ空気が少し懐かしい。日照時間も延び、今ではとうとう私の母よりも太陽が早起きになっているそうだ。私の起床時刻はというと、遅くなることはあっても早くなることはまず無い。お母さん、お弁当いつもありがとう。


 学校へと向かう朝の時間すらも今は楽しく感じる。それは隣を歩く彼女のおかげだ。そんな彼女はというと、朝からご機嫌斜めだった。

 体育祭というものが近づいているらしい。

 私は運動が得意なので少しワクワクしているのだが相方はというとそうもいかないご様子だ。

「なんで体育祭ってあるんだろうね。ちょっと前は生徒の親が順位をつけることに反対したり、組体操が危ないからって無くなったりどんどんしょぼくなっていってたからそのうちなくなるんじゃないかと思ってたんだけどなー。今年急遽取りやめにならないかなー。」

 この子どんだけ運動嫌いなんだ。そうぼやく日向さつきは少し大げさに嫌そうな表情を作って嘆いていた。

「いや、でも流石に体育祭が無くなるとちょと寂しいけどなぁ。」

 月並みな感想を述べてみるが彼女はまだ納得していないようでいつもの笑顔は戻らぬままだ。

「それにいろんな人の普段見れない姿が見れて新たな発見もあるかもしれないよ。あとはクラスで一丸となって勝利を目指すって言うのが私は好きだけどな。」

 私もずいぶんポジティブになったもんだな。誰かを励ます日が来るとは思わなかった。

「え?葵ちゃんって運動できるの?」

「こう見えても足は結構速いんだよ。短距離も長距離もね。」

 むしろそこしかアピールポイントないんだよね。体育祭は唯一私が活躍できる行事といっても過言ではないのだ。文化祭?合唱コンクール?知りませんねぇ。

まぁ私は顔も身長も学力もおおよそ偏差値50くらいだと思うけど、自己採点って大体甘くなっちゃうよね。

「う、う・・・」

 何この子。頭抱えてうなりだしちゃった。

「う?」

「裏切りものー。」

「へ?」

 思わず気の抜けた声が出てしまった。その前にこんな大きい声出るのか。周りの人びっくりしちゃってるよ。

「あ、ご、ごめんなさい。ごめんなさい。」

 廻りに軽く謝罪を済ませ、再び私を見据える。頬はぷっくり膨らんでお怒りのようだ。何これかわいい。

「葵ちゃんは運動苦手だと思ってたのになー。お昼一緒に食べるとき私肩身が狭いなー。あ、でもうちのママ料理すごく上手なんだよ。小学校のときは張り切って作り過ぎちゃって晩御飯までお弁当の残りだったんだよ。今年は残ったら葵ちゃんが食べてよね。」

 そっか。当日のお昼休みは家族ぐるみで一緒にご飯なんだ。今年は、全部が楽しみだな。

「さつきちゃんは何人家族なの?」

「うちは4人。妹が一人いるんだ。葵ちゃんちは?」

 うちと同じ家族構成なのか。妹さんもきっとかわいいのだろうな。うちの妹と一週間くらい取り替えてもらえないかな。

 家族の話で盛り上り、気がつけば校門は目と鼻の先だ。楽しい時間はあっという間に過ぎていくのだ。


 下駄箱で上履きに履き替えていると上村礼の眠そうな顔を視界の端に捉えた。

 この前のお礼言わないとな。

「おっす。」

「え、何それ。もっと他にあるんじゃない?」

 またやっちゃった。だからどうやって声掛ければいいのよ。

 朝だからテンション低いのは分かるけどもっとはっきり喋りなさいよ。もぞもぞ聞き取りにくいなぁ。本当に啓の弟なのかなぁ。

「う、うるさいなぁ。おはよう!それとこの前はありがとう。助かりました!」

「おう。おはよー。ちゃんと前見て歩けよー。じゃあなー。」

 だからはきはき喋んなさいよ。なんかあしらわれてるようでむかつくな。

「今のって例の兄弟?」

 さつきちゃん興味津々だな。目がキラキラしてるよ。

「そ、そうだよ。弟の方。上村礼君って言うの。」

「なかなか男前ね。でもなんかだらしない感じだね。早くお兄さんも見てみたいな。」

「お、お兄さんの方はもっとシャキッとしてるよ。本当だよ。」

 必死に啓を持ち上げていると肩をトントンと叩かれた。

 振り向くと、人差し指が私の頬を貫いた。いや、貫通はしてないよ。当たっただけです。すみません。

 眠そうに半開きの目と意地悪そうに歯を見せてニヤつく啓が昔流行った人をおちょくる挨拶を披露していた。それにまんまと嵌められる私。

「おはよー後輩。こんなのに引っかかってちゃダメだぞー。じゃあなー。」

 久しぶりの再会と予想してない場所と状況に脳が置いてきぼりだ。とりあえず私の脳は幸せというものを噛み締めるのに必死なご様子だ。現に今、私は超ハッピーだ。貫かれたのはほっぺではなくハートの方だった。

「そっくりね。あとお兄さんもシャキッとしてなかったね。でもなんか、二人を見てるとキュンとしちゃった。恋する乙女じゃないですかー葵後輩。」

 からかう気満々だ。いい笑顔!これはしばらくネタにされそうだ。

「やめてー。見なかったことにしてー。」

 私はどんな顔していたのだろうか。あまり想像したくないな。

 

 それにしてもだよ。


 やっぱり兄弟だったな。


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