第4話
やっとブックマークもらえた・・・感動です。
まだ1人だけど。ありがとうございます。
嬉しくて仕事もせず書きました。
明日はスーパー残業タイムですね。もちサービスです。ワラ
第4章 秘密
季節は春とは言えまだ少し寒く、夕暮れが近づくにつれてそれは厳しさを増す。あたりのオレンジには夜の黒が滲み始めている。稀に吹く風が木々をざわめかせるがそれ以外に耳に届くものはない。
今ここで私から言葉を発するのは何か違う気がする。何かを言おうとして黙り込んだ彼の表情は少し暗くなったような気がした。
彼からの言葉を待つ。私に出来るのはそれだけだった。
-数時間前-
緊張のあまり気絶してしまった私は、目覚めてから保健室のベッドの中であれこれと思案していた。
先輩だったのかアイツ。敬語使った方がいいのかな。でも啓はそういうの嫌がりそうだな。知らなかったことにして今まで通りに接するというのはどうだろうか。
かつて私はこんなにも他人に対して思い悩んだことはなかった。そもそも誰かと深くかかわることがなかったのだ。「変わらなきゃ」と言う思いを心の奥底に押しやり詭弁とも呼べない稚拙な言い訳を上塗りし、現状を良しとしていた。
自分の生活は自分だけで完結していると思い込んでいた。それが悪循環を生んでいたのだ。そこに「誰か」が加わることでこんなにも自分の生活は、自分は、変わるのだとわかった。
入学式の日ですらギリギリまで寝ようと考えていた私だが、最近では朝は早く起き、きちんと髪を梳き、鏡で自分の姿を確認して学校へと向かうようになった。制服の胸ポケットには小さな手鏡すら装備されている。余談だが、中学に入学するまで私は、鏡というのは朝、寝癖の状態をチラッと確認する程度のものという認識だった。私はこのことを墓場まで他言しないように最近心に誓った。
どう見られているか。どう思われているか。誰もが意識せずとも気をつけているそんな当たり前のことすら私はできていなかったのだと実感した。啓と出会うことで私は少しずつ変わり始めていた。
その当の本人については知らないことだらけだ。
彼のことをもっと知りたいと思った。
終業を告げるチャイムが響く。これからが本番だ。
学年が違うことが分かり、学校での接触は既に諦めていた。なんて後ろ向きなんだ私。だって他学年の階になんて恐くて近づけない。考えただけで足が震えますことよ。
急いで帰宅し川原へGO。川原に着くと既に彼はいた。
初めて会った日もこんな感じだったな。頬が熱くなり、朱に染まるような感覚が蘇る。
あ、ヤバイ。また心臓がドキドキしてる。熱がでた時のように頭がぼうっとしてくる。でもそれが心地よい。心臓はいつもより強く脈打っているような気がした。ちょっと落ち着いて!あれ、いつもどうやって呼吸してたっけ。分からなくなってきた。ダメだ。一旦離れて落ち着こう。
私は真剣な表情の彼をもっと見ていたかったがこれ以上続けると何かを発症しそうだったので一旦落ち着くことにした。ナイス判断私。上がり症と花粉症だけで手一杯なんだよ。この時期ちょっと辛いです。
土手へと上る階段に腰をかけ、自販機で買った甘めのコーヒーで一服することにした。
気持ちが落ちつき、気がつくと私はボショリと独り言を呟いてしまった。
「本当に好きになっちゃったんだなぁ。」
「そうなんやーお兄ちゃんが相談にのってあげようか。」
振り返ると啓が意地悪そうに笑っていた。
あまりの驚きに声無き叫びと共に勢い良く立ち上がり、階段だったことも忘れ啓から離れようと後ずさった。のだが、階段を踏み外し体重の乗った身体は必死に手をばたつかせたが後ろへと傾いていった。恐怖のあまり目を瞑った瞬間、強く手を引かれた。体には強い重力を感じ、その後衝撃が全身を襲った。衝撃の割りに痛みが少なかったのはアドレナリンが出ていたからという訳ではないようだ。彼は私のばたつかせた左手を右手で掴み引き起こそうとしてくれたのだ。が、時既に遅し。体重ののった身体は止まらず引き寄せられた力により階段の脇の草むらの方に倒れたようだ。その際強く引き込んでくれたおかげで地面と衝突する寸前でぐるりと私と啓は体勢が入れ替わり、私は怪我をせずに済んだ。私の下でうめく啓に私は慌てて声をかけた。
「ごめん啓。大丈夫。」
と、あたふたしているとおでこに鈍い痛みを感じた。啓が口元を押さえていたことからどうやら啓の口元に私は自慢の石頭で頭突きをお見舞いしてしまったようだ。
「イッテーけど問題ない。ちょっと唇が切れただけだ。それより俺の歯が当たったっぽい
けど葵は大丈夫か。」
そう言って私の前髪を手のひらで上げ心配そうに見てくる。少し切れて血が出ているようで啓の方があたふたしている。顔が思ったよりも近く、恥ずかしくなり私は視線を泳がせた。必死に何か言っていたがあまり耳に入ってこなかった。触れた手が温かく心地よく、私は目を閉じた。
熱が出た時に母がおでこに当てる手のように啓の手から優しさが伝わる。私はその手を握りおでこからはずし笑いかけた。
「ちょっと切れただけだから大丈夫だって。」
「だってお前女の子だし顔に傷が残ったらどうすんだよ。」
漫画やドラマでよく聞く「そんときはあんたがお嫁にもらってよ」くらいの冗談が言えれば良かったのだが恥ずかしくてとても言えなかった。
「ほんとに大丈夫だから。今日は怪我しちゃったしキャッチボールじゃなくてちょっとお
話しない?私まだ啓のこと全然知らないし。もっと知りたいの。」
「そ、そうだな。ホントに大丈夫なんだよなぁ。」
視線が合わないせいかまだ心配そうに私の顔を少し覗き込み問いかける啓に今度は正面から目を見て大丈夫だよと答えた。
「まぁ俺も葵のこと全然知らないし、いい機会だしそうすっか。丁度自販機でジュース買おうと思ってこっちに来たんだ。俺は先輩だからおごってやるよ。何がいい。」
そうそれ。それは昨日教えて欲しかったな。
「いいんですか。では、炭酸系の何かで。先輩にお任せします。」
「了解した。ちょっとそこで待ってなさい後輩。」
やっと安心したようで自販機へと歩いていった。背はそこまで高くはないはずなのだが姿勢が良く首が長いせいかその後姿は大きく見えた。なんだか変な感じだ。
自己紹介のようなことから始まりいろいろなことを聞いた。啓はあまり家族のことを話したがらないようだったので気になっていた昔のことについて聞いてみた。
「あのさ。昔いろいろあって中学では野球部には入っていないっていってたけどそれって
私が聞いてもいいことだったりするのかな。」
啓は少し困ったような顔をした。まずいなと思ったがもう遅かった。それに時期がずれたとしても私はそのうち同じ質問をしていただろう。
「あーなんというかなー。えーっとー。」
答えにくい質問。それが分かっただけでも収穫だ。私は別に啓を困らせたい訳ではない。
「別に嫌なら無理しなくていいよ。ごめんね。」
「いや、どっから話せばいいかと思ってさ。」
そう言ったきり彼は黙ってしまった。
啓の言葉を待つこと数分。この質問をしたことについて後悔していると、いつもより優しく、穏やかな声で啓はポツリと呟いた。
「少し、長くなるかもしれないけど聞いてくれ。」
どんな表情なのか見てはいけない気がして、私はゆっくりと流れる水面を眺め頷いた。
「簡単に言うと試合で馬鹿にされた俺の代わりにキレてくれた奴がいてさ。そいつ試合が終わった後にそのチームのやつのとこに行って俺に謝罪させようとしたらしんだ。でも実際は口より先に手が出ちゃってさ。騒ぎに気付いて喧嘩を止めに入ったチームの友達さえも殴るはで暴走しちゃって。結構大怪我したやつもいてそれから皆がそいつを恐がってチームで孤立しちゃったんだ。田舎だから噂が広まるのも早くて今でもこの地域のチームには入れてもらえないみたいなんだよね。
結果的には俺が野球を奪っちゃったみたいなもんなんだ。アイツ野球が好きだから県外の高校に行ってまた始めるらしくてさ。だから中学では俺も部活で野球はやらないようにしようと思ってる。そいつからは気にせず部活やれって今でも言われてるんだけどさ。」
今でも話したりするんだ。男の子ってよく分からないな。でも、こういう関係を親友って言うのだろうか。こっちもよく分からないな。家族以外に理解しあえる関係を築けたためしがない私には仕方の無いことだ。誰かのために怒ったり泣いたりすることが今の私には想像できなかった。でも、うらやましく思う。私がずっと求めているものだ。
「そう、だったんだ。なんか言いにくいこと聞いちゃってごめんね。私も何でも答えるから何でも聞いて。」
「まぁ昔のことだから気にしなくていいよ。じゃあ俺もさっき言ってた葵が惚れちゃった人のこと聞いちゃおうかなー。」
「それはダメです。次の質問どうぞ。ていうか先輩はどうなんですか。好きな人いないんですか。」
あ、また聞かなくてもいい事聞いてしまった。返答次第じゃ立ち直れないかも。まぁ折角だし吐くまで聞いてみるか。彼女いたらそれこそ諦めがつく。
「えー教えてくれないのかー。俺の話なんてどうでもいいじゃん。てか先輩って呼び方と敬語やめてよ。気持ち悪いなー。」
「これからは先輩と呼ばせてもらいます。まあ敬語はめんどくさいんでやめようかな。人の秘密盗み聞きしといて自分は秘密とか無いわー。男らしくないわー。」
「今度は急に馴れ馴れしいな後輩。まー今はいないかなー。」
「じゃあ昔好きだった人のことは今度聞いてあげますから今日はこのへんで帰りましょうか。暗くなる前に帰んないと親がうるさいんですよねウチ。」
よかった。昔のことは気になるが私にも可能性はあるみたいだ。
「そっか。俺はもうちょっと投げてから帰るよ。それからさっきの続きは話さないからねー。あと倒れたときに足くじいたりしてないか。一人で大丈夫か。」
こういう気遣いは私にはできない。話すのが楽しくて階段で倒れたことも忘れていたくらいだ。年上だからなのだろうか。やっぱり、いいなこの人。
「怪我は大丈夫です。ありがとうございます。一人で帰れますよ。先輩は私のお父さんですか。」
「俺はお前の先輩だよ後輩。」
「そうですか、【私の】先輩でしたか。」
いかん。頬がゆるむ。当たり前のこと言ってるのに脳が勝手に違う意味に解釈してしまう。
「やっぱお前頭打ったか。病院行くか。」
「いらんわい。」
「お、いつもの変な人が帰ってきたな。じゃあ本当に気をつけて帰れよ。またな。」
「では、失礼しまーす。」
敬礼して別れを告げ帰路につく。
独り言を聞かれたときはどうなるかと思ったがたくさん話すことができ私は夢見心地で歩いていた。そのせいで2度車に引かれかけた。私の青春は始まったばっかりなんだ。まだ死ねない。でももし死んじゃったら異世界に転生とかじゃなく先輩の守護霊になりたいな。あ、こういうのって重いって思われるんだっけ。帰ったらグーグル先生に聞いてみよう。