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第2話

仕事忙しくてつらいので現実逃避がてら2話です。

明日からまた一週間がんばろう!!

2章 入学2日目

 教室内は活気であふれていた。

 入学2日目。クラス内ではもうグループが決まり始めていた。私を除いて…


 私は、友達作りに失敗しつつあるのだ。

 受け入れ難い現実から目を背け、話す相手もいないのでボーっとしていると、いつの間にか昨日のことを考えていた。




 名も知らぬ彼に見蕩れてどれくらい経ったのだろうか。我に返った私は慌てて姿を隠した。何も悪いことをしている訳ではないのだが、体が動いてしまったのだから仕方がない。さて、どうしよう。このまま覗いていても警察のお世話になってしまう未来しか想像できない。ひとまず今日は帰るとしよう。心なしか少し熱っぽいし。


 何度も振り返り彼の姿を盗み見ては後ろ髪を引かれまくり家路に着いた。




 帰宅し、家族から地獄の質問タイムが始まった。嘘の上塗りが続き、いつの間にやら人気者となった私は、ボロがでる前に部屋へと逃げ込んだ。

 宿題も無く、やることも無く、電話する友達もいない。とりあえず寝るか。

 睡眠はお肌にいいって隣の子が言ってたしね。私にじゃなくて盛り上がったガールズトークの一部を盗み聞きしただけなんだけどさ…

 明日、枕が濡れてないといいな。


 入学初日の女子中学生の心情とは思えぬ気持ちでベッドにもぐりこんだ。考えていることとは逆で、真っ暗な部屋で目を閉じ眠ろうとしても瞼の裏の彼が私の体温を、心拍数を上昇させた。「瞼に焼きつく」というのはこういうことなのかと納得した。また一つ賢くなってしまったか。


 彼はきっと同じ学校の生徒だ。この近くにあるいくつかの学校の位置から考えると、あの川原にあの時間にいるということはおそらくそうだろう。まぁそれ以外の手がかりはないのだが…

 学年は同じだろうか。名前すら知らない。明日また同じ場所にいるだろうか…

 いつの間にか彼のことで頭がいっぱいになっていく。


 とは言え考えても答えは出ないことばかりだ。明日放課後にまた行ってみよう。確かめるにはそれしかない。


 

 恙無つつがなく授業は進み、誰とも話さず放課後を迎えた。ちょっとはつつがあってよ。そんな言葉あるのかしらないけどさ。学校生活への期待を早々に捨て去っていた私は現実への不満もそこそこに、川原へと向かった。

 

 いた。


 彼を視界に捉えると、心臓がトクンと大きく跳ねた。


 彼は毎日ここで練習をしているのだろうか。声、かけたいな。

 などと考えていると彼と目が合ってしまった。昨日と同様に逃げそうになる自分を何とか制した。逃げなかったことを褒め称えたい。そして今晩はケーキで逃げなかった記念日のお祝いをせざるを得ない。が、今は彼にかける最初の一声を考えなければまずい。だって逃げなかったもんだから立ち尽くすのもおかしいし彼の方に歩き出しちゃってるんですよね私。もう目の前まで来ちゃったし。

 えっと…えっと…あぁぁぁああどうしよう!!!!!!


「お前、キャッチボールできるか?」

 イカした自己紹介を考えていると思わぬ方へと話が転がっていく。


「あ、あたぼうよう。」


 空気が、凍った。

 

 私は馬鹿なんだろうか。帰りたい。


「お前変なやつだな。まぁいいや。グローブもうひとつあるから貸してやるよ。」

 あ、なんか話が進んでる。会話できてる!

「あ、ありがとう。で、どうすればいいの。」

 よく考えたら野球のボールなんて投げたことないや…

「え。できないのか。まぁ投げ方教えてやるから俺の真似してみな。まずは俺が投げる振りするからそれを見てくれ。」

 ラッキー。見ていいんだってさ。

 ゆっくりとした動作で投球フォームを見せてくれた。美しい。

 見蕩れていると変な目で見られてしまい、慌てて真似して投げる振りをしてみる。

「なんか運動してんの?初めての割りには様になってるじゃん。」

「そうかな。ありがとう。運動は結構好き。特に何かをやってたわけじゃないけど。」

「キャッチボールくらいならすぐできそうだな。」

 そんなことより普通に喋れてるんですけど。お母さん見てる?こんなに上手く人と会話できるなんてDVDにして永久保存版にした方がいいって絶対。

「とりあえず最初は近くから投げてだんだん離れていくようにするか。グローブにまず慣れてもらおうかな。5mくらいから始めようか。」


 私は筋がいいようでグローブの扱いもすぐに慣れた。投球の方も特に問題なく彼はすごく褒めてくれた。

 嬉しくて、楽しくて、幸せだった。

 そのせいか、気付くとあたりは暮れ始めていた。


「暗くなってきたし。今日はもうやめよう。」

「えー。まだ大丈夫だよ。」

 まだ一緒にいたい!こんな楽しいの初めてだもん!

「ボールが見えにくくなって危ないんだよ。怪我するぞ。お前、明日も暇なのか?」

 やさしいな。こんな私にまで優しいとは信じられん。優しくされるのって気分がいいな。もう今日はお別れっぽいし最後にちょっとからかってみようかな。

「なになに。またあたしに相手して欲しいの?どーしよーかなー。」

「お前、いい性格してんのな。」

 若干呆れている様子だが彼も楽しそうだ。それがわかったことが嬉しかった。

「明日、またここでいいの?」

「おう。」

「グローブありがと。また明日ね。」

「またな。」


 青春っぽい。青春っぽいよこれ。

 

 帰宅し、今日の出来事を家族に話すとそのぶん幸せが減りそうな気がして黙っておくことにした。なんだか独り占めしたい気分だ。私だけの秘密…なんだか大人っぽいぜ。


 興奮気味でベッドに入りふと気付いた。

 

 名前もなにも聞いて無いじゃん。


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