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Focus -鏡の道化師-【後編】  作者: 関 凛星
Ⅴ. 褪せた赤糸
7/11

ⅵ - 涙に枯れる花園

別視点⇒「悪夢の追憶(前28・最終)

「はじめまして。俺がハルの兄貴のロブ。そして、こっちが……」


「妻のソフィアです。よろしくね」


「…よろしくお願いします。ぼくがセーベル、彼がリーゼルです」


「…………」


 あいつとその妻の挨拶に、セーベルが行儀(ぎょうぎ)よく対応する。まさかあいつだなんて……。


「ごめんなさい、彼、ものすごく人見知りなので…」


「ああ、構わないよ」


 どうして。まさか、あの家がハルを引き取ったのか。


「…下がる?」


 と、こちらの異変を気にかけたセーベルが、顔を(のぞ)き込んできた。早くあいつから遠ざかりたい。ボクは首を縦に振って、彼女に手を引かれ、その場を後にした。奥の部屋でしばらくこもったのち、気付かれないように二階に上がった。









「――――っ」


 どうして…あいつが。


 あいつには、もう二度と会わないだろうと思っていたのに。ハルから話を聞いたとき、あいつだけは違うと思っていたのに。


 夕飯を黙々と食べながら、大人たちの会話を聞いていた。ハルも夫婦も童心(どうしん)にかえって無邪気に笑い合い、楽しそうに、幸せそうにしている。セーベルも時折彼らの会話に参加していたが、ボクからすれば……なんて不愉快な空間なのだ。さっさとここから抜け出したい。味も分からないままご飯を流し込んで、完食したらすぐにその場を去った。


 自室に入ろうとすると、セーベルが後を追いかけてきた。


「リーゼル…」


「…………」


「…辛いでしょう」


「――」


「一緒に、いてもいい?」


「……うん」


 ボクは彼女を部屋に入れた。ロウソクをつけ、ボクはベッド、彼女は椅子に腰掛けた。


「…………―――」


「…………―――」


 向かい合って、互いのことを見つめた。ボクの目には今、ボクとそっくりな姿をした彼女が映っている。まるで鏡のようだ。


 そして確かめるのだ。ボクはリーゼルという名の道化鏡で、彼女と対をなす存在だと。ボクたちは“双子”だ。同じときに生まれて、同じような格好をして…そう、まるで、血が繋がっているかのように――




『形が変われど、元の身体は同じものだ。血が繋がっていることに変わりはない。全てはこの家のためだ』




「――――!!」

 違う。そういう意味ではない。




『あんな役立たずよりも……巧みに人殺しをやってみせる冷血漢の方が、ずっと使える』




 そんなこと…ない。


 しかしそれは、頭の中で何度でも繰り返される。




 ボクが父親に疎まれ続けた日々が。


 ボクの身体があいつのものになる瞬間が。


 そして……父親があいつの頭を撫でたことが。




 ボクは血の(にじ)むような努力をしても、報われることがなかった。


 どれだけ頑張って、()めてほしいと願っても、叶わなかった……!









 ああ…………ああ…………


 次第に、息が荒くなってきた。とても…苦しい。


「リーゼル…!?」


 セーベルがボクの隣に来て、背中をさすってくれる。でも、止められそうにない。ボクはベッドに身を投げ出した。


「……はぁ、……ふぅ、……うぅ、――――」


 彼女はボクの過去を知っている。だから、ボクが過呼吸を起こすのがどんなときかも、分かっていた。


「大丈夫、大丈夫……」


 彼女はただただ、ボクに寄り添ってくれた。それだけが救いだった。どうしてボクだけ、こんなに惨めな思いをしなければいけないのだろうか。神様でさえも、ボクのことをいじめるのか。


 いや…これは罰なのだ。だからボクは、(あらが)ってはいけないのだ。


 でも……でも……酷いよ。


 これまで散々な目に遭ってきて、まだ痛めつけられなければいけないなんて…。


 こんなのじゃあ、ボクには……受け入れられないじゃないか。









「――ジョーもビリーもベルも、無事だったら良いんだけどな…」


「あはは……、僕の中では、うんと小さいままだからね…ベルの顔も、一度見てみたいな」


 あいつには、三人の子供がいた。大人だけで集まったときに、あいつは子供の自慢話をする。そのときのあいつの顔や声色(こわいろ)は、とりわけ明るいものだった。


「愛してるわ、あなた」


「俺も愛してるよ、ソフィア」


 あいつは絶対に、奥さんを殴ったりしない。むしろその手は優しく、宝物を抱えるように添えられていた。寝るときにいつも奥さんを部屋に連れ込むのだが、ドア越しに聞こえるのは怒号や悲鳴ではなく、楽しそうな、穏やかな笑い声だった。




『レイモンド、お前は幸せ者だ』




 ボクは幸せ者ではなかった。美味(おい)しいものが食べられても、いくら上等な服や装飾品でこの身を飾り立てても、高度な教育を受けられても……それでボクの心が満たされることは、なかったのだ。ボクが欲しかった幸せは……




 子供を心から愛する、仲良しな夫婦。幸福に包まれた未来。温かな家庭でさえも……あいつは。


 ボクが欲しかったモノを、あいつは全て手に入れた。


 それを(はた)から黙って見ているしかないなんて……ボクには、耐えられなかった。


 そして……それをボクにも“分けて”ほしいとも、思ってしまった。




(よく)ばりはいけないだろう?』 


 この気持ちさえも、欲ばりなのかもしれない。




 …でも。


 ボクのプライドが、あいつから“施される”ことを許さなかった。









***









 あいつの存在は、ひたすらボクを苦しめた。


「おはよう、リーゼル」


 朝一番から顔を合わせなければいけないなんて。あいつだけには、朝も夜も挨拶(あいさつ)を返さなかった。毎日のように思いっきり(にら)んでやったら、やがて何も言わなくなった。


「なあ、リーゼル……」


 すると次は、何もないときに わけもなく話しかけてくるようになった。こちらは何度無視しても、あいつはやめようとしなかった。いい加減やめてほしい。あいつの姿を目にすると、嫌でも思い出す。


 ボクの身体が、ボクのものではなくなった日のことを。


 “あの日”のことを。




『ありがとう』


 その言葉は呪いのように貼りついて、ボクの頭から離れない。




 あいつの幸せそうな笑顔が凶器となって、今まで はぐらかされていた傷口を容赦なく(えぐ)り出す。(いも)づる式に、嫌な記憶が脳裏をよぎった。




『――あの子、また発作を起こして寝込んでるわ』


『どうしてこんなことも覚えられないんだ!!』


『分かってるなら結果を出さんか、お前は!!』


『いい加減聞き分けろ、この役立たずが!』




 ああ……おかげさまで夜も眠れなくなった。目を閉じたらまた、ボクがレイモンドだったときのことを夢に見そうになるからだ。エネルギー源となるハルの魔力が強いから寝なくても身体は大丈夫なのだが、精神的な疲れは確かに溜まってきた。それでも…あいつは心配したらしく、余計にボクに関わってこようとした。


 どうしてこんなにも、あいつに心を乱されなければならないのか。ここは“楽園(Elysium)”だったはずだ。造り物のボクたちには、そんなことは関係ないのだろうか。あいつは構わず、ボクに話しかけることをやめない。だから――――




「リーゼル、何か…」


 うるさい。


「何か、悩みでもあるなら……」


 …しつこい。


「…な、良ければ俺にでも――」


 ボクに関わるな……っ!!




 その日、ついに我慢できなくなったボクは、近寄ったあいつのことを両手で突き飛ばした。


「っ!?」


 何も構えていなかったあいつは、そのままよろけて尻餅(しりもち)をついた。


「…………―――」


 ただでさえ大きな目をさらに見開いて、こちらをじっと見る。そのときのあいつの表情に、怒りはこもってなかった。むしろ…こちらが辛くなるほどに、泣きそうな顔をした。どうしてそんなに、悲しい顔をするのだろう。泣きたいのはこっちの方なのに。


立ち上がらないあいつを(ほう)って、ボクはその場から去った。逃げた先にいたセーベルに、少し気がかりな顔をされた。このとき外にいたハルとあいつの奥さんには、ボクのやったことはバレなかった。


 それをいいことに、ボクは大人二人がいない間に、あいつを拒絶し続けた。家の中に大人が自分だけになったとき、あいつは必ずボクに関わってくる。少しでもあいつがボクから遠ざかるように、あわよくば……この家から出て行くように。まるでボクの父親が、かつてのボクや母親に辛く当たったように、冷たくあしらった。


この険悪な空気は周りにも漏れていたらしく、他の大人に問いただされそうになったら逃げた。セーベルはボクにやめるよう忠告してくれるものの、やはりボクの味方で、大人の前では見て見ぬフリを装っていた。


「リーゼル…」


 そうしているうちに、あいつは少しずつボクに近づかなくなった。食事のときだけは顔を合わせざるを得ないので仕方がなかったが、あいつはこちらを見るのを避けるようになった。ハルや奥さんといるときもどこか(うつ)ろな目をして、笑顔も少なくなっていった。その様子はまるで――できるだけ、ボクもあいつを見ないようにした。セーベルが上手くやっているのに対し、日に日に、ボクと大人たちの間には溝が深まっていった。


あいつが関わってくるのは もとより不愉快だったが、あんな顔をされると余計に嫌気が差す。いっそ殴られて追い出される方が、ボクとしてはありがたかった。なのに……あいつはボクに対して、寂しそうな視線を注ぐばかりだった。いつになったら、嫌いになってくれるのだろう。そう思いながら、あいつに意地悪をし続けなければならなかった。


 こんな関係が、何か月も続いた。ハルと三人だけで暮らしていた年月と比べるとわずかだが、それと同じくらいの長さに感じられた。あいつと仲良くしようなんて、もってのほかだ。さっさとボクのことなど諦めて、夫婦ともどもここから出て行けばいい。ボクたちの“楽園”を荒らす奴は、許さない。


 大人たちは夕食の後、いつも居間に集まって何かしら喋っている。セーベルはときどきそこに参加するものの、二人で部屋の外から盗み聞きすることもしばしばあった。でも、その日だけはセーベルが早く寝てしまい、ボクだけが居間のドアの前にいた。


 でも…よりによって、なぜこんな日に限って――。


 そのような話を、彼らはしていたのだろうか。









「…………―――」


「…………―――」


「…………―――」


 この日はいつになく、暗い雰囲気が漂っていた。三人とも黙りこくって、一体何だろうか。


「…………なんでだろうな」


「ロブ…」


 あいつの沈みきった震え声が、沈黙を破った。やめてくれ。


「なんでだろう……やっぱり、この見た目かな」


 ……!


「もし、俺に非がないなら……」


 あいつは、ボクのことを話していた。少し勘違いしている。あいつは見た目だけじゃなくて、その魂そのものが、記憶を失った殺人鬼なのである。


「――分かってるんだぜ? 相手は子供だって。でも……」


 それ以上喋らないでほしい。あいつが今どんな顔をしているのかが、頭に浮かんでしまう。そう――




 あいつは…泣いていた。




 嗚咽(おえつ)が壁の向こうから、ボクに降り注いでくる。聞くに()えなくて、思わず耳を塞いだ。幼い頃から聞いてきたあの声と、似てもいないのに重なってしまった。それは父親が去った後に部屋に残る……。


「リーゼル…」


 うわずった声で、しゃくり上げながらボクの名を(つぶや)いた。どうしてだろう。ボクがあいつを退(しりぞ)けようといじめた結果、あいつは傷ついて泣いている。本来ならばこの状況を“ざまあみろ”と喜べばいいのかもしれないが…このとき、ボクの心の中にある、他人に触れてほしくないところがズキッと痛んだ。そのときだった。




「……ごめんな、リーゼル」




 ――――!!


 どうして…どうして、ボクに謝るのだ。ボクは謝らせるために、あいつを傷つけたわけではないのに。ああ……これ以上、泣かないでくれ。また思い出してしまうじゃないか……!


 それでもこの気持ちはあいつに届かなかった。そして、少し落ち着いたかというところで…あいつは、とどめの言葉を吐いた。




「……俺、ここにいない方が良いのかな?」




 …………―――。


 確かに、あいつに対して、ボクの視界に入らないどこかに行ってしまえばいいと、そう思っていた。でも……それを言ったときのあいつの声は、どことなくぼんやりしていて、わずかに悲しみが欠落した声だった。それはまるで――




 ああ…………頭の中で、そのときの記憶が鮮明に浮かび上がってくる。




 深夜、その日に限ってなかなか眠れなかったボクのもとに、母親が現れた。母親はボクの頭を撫でながら、優しい声で子守唄を歌い、寝かしつけてくれた。


 そう…今ではだいぶ(かす)れてしまったが、いい思い出もあったのだ。母親はかつて、ボクのことを心から愛してくれていた。そして、たくさん褒めてくれた。たくさん笑顔を見せてくれた。その愛に見返りなんてなかった。なのに……どうして。




『レイ……、あなたは――――とても不幸な子ね』


『こんな家に生まれて…………身体もこんなにボロボロで…………』


『生まれてこなければよかったわね』




 ――そうだ。どれだけ気にかけても、最善を尽くしても、解決できないならば……誰だって、そのうち諦めるのだ。だから、あいつもどうせ、こんなボクのことを捨てるのだ。









 …“捨てられる”。









『どうせ使い物にならなくなって()てられるさ』


『生き地獄を味わえばいい』




 いつのことか、誰が言ったのかは思い出せないが、それは確かな記憶としてボクの頭に響く。


 ああ…そうだ。ボクは今、死して生き地獄を味わっている。……よく分からないことを言ってしまった。でも…こんなことになるくらいなら、ずっと死んだまま、亡霊のまま彷徨(さまよ)っていたかった。そっちの方が、ボクは永遠に“ボク”としてあり続けられたのに。


 そしてまた、捨てられる日がやって――









 ……“捨てられる”?


 捨てられ…る。









 …()()









『来ないで!!』


 あんなに温かくて優しかった母親の手さえも、あの日には…冷たく痛いものと化して、ボクのことを――


 今までの愛情は嘘だったと示すかのように、突き飛ばした。









 ああ…、それは…それは……


 “捨てられる”のは……




 それは――――嫌だ……!!









 胸のあたりから、徐々に苦しいものがこみ上げてきた。まずい。早く止めなければ…………っ!


 でも、止めようとすればするほど、それはますます酷くなっていく。手足が小刻みに震え、思わず声が出そうになった。


 これ以上、ここにいていられない。ボクは衝動に()られて、廊下を駆け抜けた。自室に戻ろうとも思わなかった。廊下の途中で、大きな窓が開いているのを見つけた。そこを飛び越えて、草むらに転がり落ちた。全力で走ったのもあって、いつも以上に激しい過呼吸に襲われた。どうか見つからないように……荒れる息に耐えながら、屋敷から遠ざかるように地面を転がった。


誰かが外に出てきた気配はない。しばらくして息が治まったが、太陽はまだ顔を出していない。さて、どこへ行こうか。誰にも捕まらない場所――そうだ。あそこしかない。まだあの絵は残っているだろうか。ボクが(かろ)うじて幸せだった頃の、ボクの…ボクと姉の理想が描かれた、あの肖像画は…。


 あいつが、あいつがボクを、心地のいい夢からたたき起こしたのだ。なんとも(もろ)い幻影だった。ここにいれば、ボクにも救いが与えられると思っていたのに。こんなところ…“楽園”なんかじゃない。どうしてあいつはこんなにも、ボクの首を()めるのだろうか。


 まさか…あいつの惨めな姿が、かつてのボク自身と重なるからか。そんな馬鹿なことはないだろう。









***









「…………―――」


 厳しい父親と、優しい母親。澄まし顔をする姉と…柔らかな表情の、“ボク”。


 楽園で初めに倒れていた場所まで行き、術を使った。今度は大成功で、ボクは地下の入り口、それも内部に直接降り立つことができた。外は雨が降っており、濡れずに済んだが…。


 結局、この絵のように家族が結束することはなかった。でも…未だに、これの前に立つと、願ってしまう。そしてその空想が、冷めきった現実を引き立ててボクを追い詰めるのだ。


 荒らされた部屋で一人、絵の中の家族に指を()わせる。この世界から目を背け、ありもしない おとぎ話にすがりつくように。ここならずっと、誰にも干渉されずに心を落ち着かせられる。もしセーベルがあの大人たちと上手くいかなくなったなら、一緒にここで――




 …セーベル?


 ――しまった。セーベルを置き去りにしてきてしまった…!




 ああ……どうしよう。彼女一人だけでは心配だ。あの様子だったらその点では大丈夫だろうけれども…いや、でも……何かあってからでは遅い。そこだけ大いに後悔したものの、帰りたくない。


 絵の中の“ボク”は、深い青の瞳を輝かせ、幸せそうな笑みをたたえている。しかし、その立ち姿には力がなく、今にも消えてしまいそうだ。でも…決して消えやしない。“ボク”は確かに存在し、本来の身体と立場を奪われてもなお、“生きている”。


 それにしても、この肖像画は実に緻密(ちみつ)である。家族全員の全身を(おさ)めているのに、それぞれが身に着けている装飾品も一つ一つ手を抜かず描かれている。父親の左手で輝く、当主の証である大きな指輪。母親の首元で光る、繊細な作りのネックレス。姉に着けられた、紫水晶(アメジスト)の耳飾り。そして…“ボク”の胸元にあるのは、この家の紋章である黒薔薇(ばら)が刻まれたブローチだ。このブローチはとてもお気に入りで、毎日のように身に着けていた。もちろん、死んだ日にも…だ。そういえば、あいつがそれを使っているところを見たことがない。


 いつの日だったか、セーベルが言っていた。道化鏡が死んだ主の後を追って楽園までついてくるのは、世界を隔ててしまうと主の魔力が届かなくなるからだ、と。自身のエネルギーが尽きた道化鏡は、身体が硝子のように砕け散り、魂は天に昇らず消え失せる。


それが本当ならば、ボクのこの行為は、自らを死に追いやることに直接繋がっているのだろう。それでもいい。()まわしい雨の音も、あいつの姿も忘れられるこの場所から、離れたくない。他人が描いた虚像の前で、壊されない幻に微笑みながら野垂(のた)()にする方が、ずっといい。


 ボクは絵の中の母親に、唇を近づけた。まだ姉も生きていた頃、寝る前にはこうして、おやすみのキスを交わしていた。母親のしてくれるキスは、この上なく温かく、優しいものだった。


 ああ、今にもこの唇が母親に触れそうになった、そのとき――









「おい」









 ――――!


 …背後から邪魔が入った。一瞬、あいつかと思った。誰だ。


 ボクはゆっくりと振り向き、声の(ぬし)を睨みつけ…ようとした。




 しかし…ボクは視界に入ってきたその姿に、怖気(おじけ)づいてしまった。


 そこに立っていたのは――









 かつてのボクと同じ髪色をした、あいつにそっくりな青年だった。

【キャラ設定②】

前編に引き続き登場する主要キャラの、

要約に表されていないことの補完を少しだけ。

今回の話に至るまでの詳しい経緯は省略。




ロブ(Rob)ロバート(Robert)クレメンス(Clemens)

 生:1581.7.3(?)

 没:1628.1.28(ルイスによって殺害)


・他の人物との関係

 義弟:ハル

 妻:ソフィア

 長男:ジョー(下界にて生存?)

 次男:ビリー(〃)

 長女:ベル(〃)


 父親:アルフレッド(絶縁状態・故人)

 継母(〃)

 異母弟:アイザック(〃)

 従弟(いとこ):ルイス


 ??:レイモンド


 癖のある赤毛に大きな灰色の瞳といった、

 いろいろな意味で目を引く容姿の男。

 ハルとだいたい同じくらいの年格好だが、

 今までの話の通りいろいろ事情がある。


 この事情は自身も完全には分かっておらず、

 一応ソフィアとハルに分かる限りで告白している。


 実家とは一切の縁を切っているが、

 ハルやソフィア、子供との仲は極めて良い。

 心が優しいからか、少し涙もろい。

 めったにないようだが、怒ると怖いらしい。


 ほぼ全ての登場人物と何かしらの縁があり、

 本作の割と中心にいたりする。




ソフィア(Sophia)クレメンス(Clemens)

 生:1581.4.18

 没:1610.1.14(いわゆるインフル)


・他の人物との関係

 夫:ロブ

 長男:ジョー(下界にて生存?)

 次男:ビリー(〃)

 長女:ベル(〃)


 母親:オリビア(音信不通)


 おおらかで優しい、ロブの奥さん。

 夫婦仲は良く、だいたいいつも傍で寄り添っている。

 淡い金髪にオッドアイ(右が明るい茶、左が緑)、

 小柄で胸が大きい…といった見た目。

 

 駆け落ちの際に母親と生き別れ、

 今でも心の片隅で再会を願っている。

 また、ロブから成長した子供の話を聞き、

 こちらにも会いたい気持ちを募らせている。


 ロブが実験によって造られた存在だと

 本人から分かる限りのことを聞かされているが、

 ほとんど気にしていない。




***




次回:2/13(月)

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