前編「Chain」要約
「双なる悲劇が起こした奇跡。」
「それは絆か、足枷か。」
・前編「Chain」全28話(n7297dh)の大筋です。
話の流れを重視して書いたものなので、
これ単体では重要な伏線がいくつか欠けています。
・伏線はさておき手っ取り早く導入したい方は、
最低でもこの要約と「残り香」を読めば
なんとなく流れが掴めると思います。
・専門用語やキャラの抱える問題に関しては、
部分的に取り上げて補完してあります。
前編を既に読んだ方も目を通して頂ければと。
★第一章「乾いた花瓶」
1595年6月7日の早朝、どしゃ降りの雨が降る墓場で、少年は目を覚ます。自分が記憶喪失だと気付いた少年は、地面に描かれていた道しるべを頼りにして、雨をしのぐ宿を探す。
そして辿り着いたのが、クレメンス侯爵家の屋敷だった。その美貌と才知から当主アルフレッドに気に入られた少年は、“ハル”という呼び名を授けられた。“養子”として迎え入れられ、当主の長男であるロブ(=Robert)と顔を合わせる。歳が近い二人はすぐに打ち解けた。ハルはロブから、この世には魔力を持つ者と持たない者がいて、クレメンス家はその“持つ者”一族であること、そして、「“持つ者”だけが行ける天国がある」という迷信を教えてもらう。
◆ロブの悩み
ロブは自身に対する両親(実父と継母)の無関心に悩んでおり、継母の息子であるアイザックの一方に愛情が向けられることを不満に感じていた。しかも自身の見た目が 数年前に殺されたこの街の“殺人鬼”と瓜二つで、それが人から疎まれる大きな原因にもなっていた。
また、ロブも幼少期の記憶を失っている。これを共通点として見出し、また自分自身の居場所を求めて、ハルと仲良くなった。
***
★第二章「邂逅と決別」
当主から外出の許可を貰ったロブとハルは、ある日、街の中で貴族の少女ソフィア・キャロルに出逢う。ロブは彼女に一目惚れし、またソフィアも彼に対して心を開き、何度か会ううちに二人は恋人のようになった。
◆ソフィアの悩み
しかし実は、ソフィアの母親は“殺人鬼”を殺した張本人で、下級階層の娼婦である。その功績を称えられて、母娘でキャロル家に(半ば脅されて)引き取られた。しかし、母親は好色な主人から都合良く扱われ、ソフィアも勝手に婚約者を決められて、うんざりしていた。
ソフィアと口付けを交わすほど仲睦まじくなった頃、ロブはハルとともに、当主に呼び出される。ソフィアとの仲がバレたのではなく、連れてこられたのは……屋敷から秘密の通路を渡って来ることができる、隠された地下牢獄だった。そこには、みすぼらしい――あるいは変わり果てた子供が一人ずつ閉じ込められていた。当主は冷たい視線を投げかけて、「彼ら(の亡霊)を使って“道化鏡”たるものを作り、安価で取引している」と言う。当主は二人の目の前で、彼らを虐待した。
◆亡霊? 道化鏡??
強い負の感情を抱いて生を終えた魂は、“亡霊”としてこの世に残る。特に子供は大人より心が純粋な分、恵まれなかった者は亡霊として残りやすい。
◆そういうわけで
“道化鏡”とは、そんな子供の亡霊を人造の身体に閉じ込めた存在で、魔力をエネルギーとする。その魔力は自己生成できないので、“主”――すなわち、魔力を持つ者の存在が欠かせない。指輪などの装飾品(ここでは“鎖”と呼ばれる)を用いて“契約”すると、その道化鏡は主の所有物になる。道化鏡は自由に姿を変えることができるが、大抵は主の方が望んだ姿を取らせる。主の魔力だけが命を繋ぐ全てなので、逆に契約を切られない限りは、どれだけ惨く扱われても弱ったり死んだりしない(できない)。
“素材”とされる魂は主に、学識のない貧困層の孤児など(従わせやすいから)。五割は生前の記憶を失う。ほとんどの道化鏡が、奴隷のような扱い・辱めを受けている。
この有り様を目にして、また、ソフィアが婚約者のことを良く思っていないと察した二人は、駆け落ちをして(ハルは駆け落ちを手伝って)家を出て行くことを決意する。ソフィアとも打ち合わせをして、実行する。
***
★第三章「星々に照らされた十字架」
追っ手は来なかった。逃げた先の田舎町で、ハルも婿養子という形でその地域を治めるエイリー家の令嬢と結婚する。ロブにもハルにもやがて子供が生まれ、家族同士で交流を深めるなどして充実した日々が続いたが、双方の末子――ロブのところの三人目、ハルのところの二人目が生まれる数か月前に、ハルは結核で亡くなる。さらにその四年後、ソフィアも流行り風邪で命を落とす。
心の支えとなっていた二人の死を前に、ロブは悲しみに暮れる。それでも残された三人の子供を心から愛し、男手一つで大切に育てた。長男ジョー(=Joseph)は彫刻家に、次男ビリー(=William)は薬学の道へ、末っ子のベル(=Isabelle)は貴族の家に嫁いだ。ジョーの結婚が間近になったとき、ロブはジョーからある指摘を受ける。
さかのぼって、ハルが死んだ一か月後、ロブは24歳の誕生日に、原因不明の酷い頭痛に襲われた。実はそのときから、ロブは身体の老化が止まっていたのだ。ジョーは“気にしない”と言うものの、周りからの目を気にしたロブは泣く泣く町を出て行く。
目立たないようにしながら旅を続け、自分が生まれ育ったあの街にたまたま滞在しているときに、クレメンス家の屋敷が、ロブの従弟であるルイスによって襲撃され、燃やされた。これによって、ロブの父親一家の全員が犠牲になった。
◆親世代の軋轢
ルイスの父親とロブの父親はそれぞれ兄と弟だったが、かつて家督を巡って熾烈な争いを繰り広げていた。成果主義のこの家で勝ちを制したのは弟の方だったが、兄はそれを憎み、分家として独立してからも弟から権力を奪おうと、ありとあらゆる手を尽くした。その過程で、以前にも同様の襲撃事件を起こしているが、そのときは失敗に終わったので、今回は息子であるルイスがリベンジに出たものと考えられる。
父親を失い、かすかな悲しみを感じたロブだったが、ルイスによってなぜか指名手配され、さらに追い立てられることとなる。それから数年後、有名な研究機関に所属していた“神童”ビリーが、ルイスと“共同研究”をすることが新聞で取り上げられていた。これを見て“ビリーの命が危ない”と勘づいたロブは、ルイスの屋敷へと急ぐ。
ロブが駆けつけると、ビリーだけでなくジョーも囚われの身となり、ともに傷だらけになっていた。ルイスはロブが来ると同時に二人を解放するが、息子たちをかばったロブは“被験者”として、ルイスに腹を抉られて死んだ。死ぬ間際、ロブはルイスから“お前は人間ではなく、その身体もお前のものではない”、“クレメンス家の最高傑作だ”、“お前は、レイモンド(殺人鬼に殺された、ロブの父親の長男)の代わりだ”などと告げられる。
***
★第四章「箱庭の中で眠る」
ハルが目を覚ますと、そこは大きな屋敷だった。そして、ここが“楽園”――かつてロブが教えてくれた、魔力を持つ者だけが来ることができる天国だと悟る。ハルは深い森に囲まれたその場所で一人、書斎の本を読んだり、花を摘んだりしながら、孤独をもて余す。
そんなある日、ハルは玄関にて、衰弱した少年少女が倒れているのを見つける。彼らが道化鏡だと分かったハルは、指輪を用いて彼らと至急“契約”を結ぶ。やがて元気になった二人に、ハルは“名前も姿も自由に決めていい”と言う。二人は麗しい双子の姿を取り、少年は“リーゼル”、少女は“セーベル”と名乗った。やがてハルは彼らと打ち解け、三人で穏やかな生活を送る。
時は過ぎて、そんなハルに一通の手紙が届く。差出人は、ロブだった。ロブはソフィアと思いがけない再会を果たし、それから再び夫婦で暮らしていた。ハルの居場所を突き止めたロブは、“皆で一緒に暮らさないか”とハルに提案するために手紙を出した。ハルは“兄夫婦”が来てもいいかリーゼルとセーベルに訊ね、合意を得た上でロブたちを迎え入れた。
しかし、合意したにも関わらず、リーゼルはロブに対して非常に冷たい態度を取り、その挙げ句、家を出て行ってしまう。ハルたちは手分けして、リーゼルを探しに行く。
一方、家出したリーゼルは、とある場所で“自分の唯一の存在証明”である絵画にすがりつく。
***
★幕間「FULL MOON」
深夜、どしゃ降りの雨の中、娘は恋人と待ち合わせた場所へと駆けていく。鍵を用いてそこに入ったものの、かなり早い時間に来てしまった。そんな娘の前に、不思議な少年少女が現れる。二人は“昔話”をしながら、娘と“探検”をする。
“昔話”は200年前、ある少年がここにあった屋敷に迷い込んだことから始まる。
前編までのあらすじは以上です。
興味を持ってくれた方がいれば幸いです。
後編は毎週月曜日に1話ずつ連載。
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前編 Nコード:n7297dh