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プロローグ

 この世界はかつて平和と繁栄に満ち溢れたすばらしい世界だった。

 戦争、紛争、内乱、あらゆる争いはなく、人々は自由に満ち足りた生活を送っていた。

 至福とはこういうことをいうのだと常に感じさせてくれるような世界であった。


 夢の世界といわんばかりのこの世界を作り上げた一人の人物がいる。幾多の戦争を乗り越え、幾多の困難を乗り越え、そして世界の頂点の座をつかみとり、世界に平和をもたらした彼を世界中の人々は英雄の中の真の英雄と褒め称えた。世界に名を轟かせる諸侯はみな、彼の威厳と品格、そしてなによりも絶大なカリスマ性のもとに忠誠を誓った。ここに永遠の平和が築かれたと世界中の人々が心から喜んだ。


 その英雄の中の真の英雄とは誰か?

 俺である。

 片田舎の農家に生まれた平凡な少年だった俺を運命の歯車はどうしたかったのか。俺は前に述べたとおり、言葉では語りつくせないほどの試練を乗り越え、この世界の頂点に君臨する王になった。

 この世界では王には絶大なる力が与えられる。他の者では到底扱うことすらできない魔法の数々。そして不老不死である。王はこれらの力によって世界を常によい方向に導かなければならない。王が道を外せば、世界は混沌へと沈んでいく。

 俺は自分ができるだけの力を使い世を繁栄へと導いた。幸いなことに俺には素晴らしい仲間がいた。共に困難を乗り越えてきた勇敢で信頼できる頼もしい連中だ。世界が俺たちによって平定された時、俺の仲間たちは俺と同じように賛美された。

 まず最初に俺が旅の途中に出会った西方の森のエルフの放浪者、アリシャ。彼女はその聡明な頭脳と極限まで研ぎ澄まされたしなやかな身体能力、そして絶世といってもよい美貌の持ち主である。

 二人目は砂漠の町でコロシアムの剣闘士として戦っていたゴードン。彼ははるか北方の戦闘山岳民族レガート族出身であったが、奴隷狩りにあい、コロシアムで毎日殺し合いをさせられていたところを俺がコロシアムのオーナーに掛け合い買った。彼ほど武勇に優れたものはいない。少々寡黙なところはあるが、常に俺たち仲間を気遣うやさしさを持ち、その豪腕から繰り出される剣技は100の敵を一瞬で吹き飛ばすほどである。

 三人目はこれがまた奇な出会いをした追いはぎである。名をチャーリンという碧眼の少年は、スム族と呼ばれる猫のような獣人である。獣人といっても彼はひとなつっこい笑顔を持つ少年である。こともあろうに食い物に困り、俺たちの寝込みを襲ってきたところを捕まえて仲間にした。


 俺たち4人は世界を平定したあとも世界の頂点に君臨し、共に理想の世界を創ろうと尽力した。


 しかし、永遠かと思われたこの世界の平和も、そう長くは続かなかった。

 反乱が起きたのである。

 最初は王城内部の小さな燻りだと思っていたが、そう軽く見ていた俺たちが愚かだった。反乱因子は想像を超える勢いで増えていったのだ。俺は王として、権限と力を使い、彼らを粛清しようとした。

 しかし絶対である王の力がなぜか彼らには通用しなかった。日に日に力と人数を増し、次第に俺たちを追い詰めていった。まわりの人間を巧みに取り込み、一大勢力となった彼らは俺たちが世界を統べていることが間違いだと言い張るようになった。この平和は偽りの平和だと言いはじめた彼らは、俺を王から失脚させようとあらゆる工作をしかけてきた。

 もちろん俺たちも黙ってはいない。4人の力はおろか、世界に数多いる俺に忠誠を誓った諸侯と共に王城の一角を占領していた彼らを取り囲んだ。威嚇など通用しないと分かっていた彼らと一大決戦がはじまったのである。

 しかしここで変な事が起こった。王である俺が使う魔法には何者も抗えないはずなのに、彼らはそれを跳ね除け、次々と我々の軍勢を破ってきたのだ。理解不能なこの状況に諸侯は混乱し、俺にすがってきた。しかし予想だにしてなかったこの事態に俺もどうしていいのかわからず、ついにはわが軍は敗北し、ほとんどの兵は殺され、捕らえられ、俺たち4人は命からがら王城を脱出し、行方をくらませた。


 それから今日に至るまで、俺たちは世界を統べる者から、死んだと思われているただの放浪者になりはて、旅をしてきた。

 理想を追求し、王として精一杯の事をしてきた俺たちに突如抗い始めた彼らについての詳しいことは今もまだなにも分からない。分かるのはただ、この世界がまた元の混沌に満ちた世界に逆戻りしているということだけである。




 「焚き火の炎って、見てるとあの夜を思い出すからいやだわ」


 そうぼそっとつぶやくアリシャに俺は夜空を仰いだ。あの夜、俺たちが殺された夜を思い出す。


 「またそれかよ、アリシャ。今はどう言っても何も変わらねえ。俺たち4人が誰も命を落とすことなかった奇跡をありがたく思おうぜ」


 「チャーリン、あなたって本当に楽天的というか、単純というか……。昔からそうよね」


 毎度の喧嘩になりそうだったところを俺は手で制止した。アリシャの気持ちもチャーリンの言い分も正しい。でも今は俺たちの現状を受け止めるしかない。


 「お前らまた喧嘩か?そんなことしてっとまたゴードンに怒られるぞ。なぁゴードン」


 「あぁ……」


 短く相槌をうったゴードンは黙々と飯を食っている。


 「しっかしラーズ、これから一体どうすんだ?俺たちはあの戦いに負け、みな死んだと思われてる。追っ手がかからなかったのは好都合だが、王の力もなにもかも失っちまってどうしようもないぜ」


 ごろんと横になったチャーリンは大きくあくびをした。こんな時でもこいつのマイペースさは俺の心の支えになってくれる。


 「ねえラーズ。諸侯の中にはあいつらの力におびえて寝返った者も多いって噂だわ。このままだと私たちが戦ってきたあの時代よりももっとひどい世界になっちゃうわ……」


 「絶対の王の力を失った途端これだもんな。まぁ俺たち3人はあんたに死ぬまでついていくって決めてるけどさ、あいつらをどうにかしてとめないとまじでやばいんじゃ」


 「止めるさ。あいつらが何であれほどの力を得たのかは知らないが必ず止めて見せる。それが俺たちがやらなきゃいけないことだ」


 俺は焚き火の横にすわり、近くの干し肉をほおばった。


 「あいつらと戦った時、妙な力を感じたんだ。とりあえずあれがなんだったのかがわからないと手も足も出ない。今はあちこちを回って世界がどうなっているのかを見つつ、あの力の正体を探るしかない」


 「仰せのままに、王よ。と言いたいところだが、ラーズ、あちこち回るもなにももう一文なしだぜ俺たち。このまま毎日薄暗い森の中で野宿ってのも俺は悪くねえが、高貴なアリシャ様にとっちゃ苦痛なんじゃねーか」


 チャーリンのいたずらっ子っぽい声に少しむっとしたアリシャだが、たしかにこのまま毎日森で野宿ってわけにもいかない。ゴードンもだいぶ塞ぎこんでいるしなんとかしなければ。


 「とりあえず……、金稼ぎだ。もう王城の中の世界の英雄じゃないんだ。どうにかしてまずは金を作ろう」


 この世界がまた混沌に傾こうとしている。しかも今度は俺たちがかつて戦いに明け暮れた時代よりももっとひどく、暗い世界になる予感がする。かつて世界を平定した俺たちはそれに真っ向から立ち向かおうとしている。しかし現状は金もなく、身動きの取れない状態だ。明日からなんとかして金を稼ぐ方法を探さねばと思い、俺はごつごつした寝床に潜り込んだ。


 

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