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97.狼の獣人

はい、どうぞ!

 


 先に進もうとしていた、ホタル達は脚を止めて1人の獣人と対面していた。


 その獣人は木の上から此方を観察するように見ている。

 獣人の外見は人間に動物の耳と尻尾が付いただけの姿で、耳と尻尾を隠したら人間にしか見えないだろう。

 少し厳つい顔をしていて、身体は結構作り込んでいるように見えた。その獣人から話しかけてきた。


「どんな奴が国境を越えてきたかと思えば……、どいつもまだガキじゃないか。しかも、魔人やエルフ、少しだが、人間の匂いも混じっているな。どんなパーティだよ?」

「どうして、わかった? 国境を越えたのを知った方法に、俺達の種族を?」


 獣人は鼻を鳴らし、ホタルの質問に答えてやる。


「国境は飛んで越えていただろ? 眼がいい奴は離れていようが、見えるものは見えてしまうんだよ。俺みたいな狼の獣人にはな。あと、種族に関しては、匂いでわかる」


 狼の獣人は眼、鼻、耳が格段に高い性能を持っており、魔物の狼型も普通よりは高いが、獣人はその比ではない。


「俺は、警備員の1人なんだが、お前らは獣人の街に攻めてきたようには見えねぇな。何が目的で、獣人の領地へ無断侵入をする?」

「いや? 目的は無いに等しいな。ただ獣人の領地を見回りたかっただけだし」

「…………やはり、本当のことを言わないか。なら、無理矢理に吐かせるだけだ!!」


 ホタルは本心を話したのに、信じてくれなかった。妙な種族の組み合わせに、他の領地へ無断侵入をしたのだから、怪しいと思われても仕方がないだろう。

 またエルフの時と同じように、警備員と戦うことになるのかぁと構えるのだったがーーーー




「ッガァ!?」




 ホタルは腹へ衝撃を受け、吹き飛ばされてしまう。ホタルが腹を殴られたことに気付く同時に、いつの間に獣人が懐まで入っていたことを知る。

 アルエルとエルメスもたった今に、気付いたように驚きの表情で狼の獣人へ振り向いていた。


「ホタル様!?」

「なんだ、このガキが主だったのか? 見た目に反して、硬えな」

「おにーちゃんを殴ったなー!!」


 エルメスが『煉闘気』を発動して、獣人へ殴りかかるが、空を切ってしまう。


「え?」

「エルフの癖に、肉弾戦かよ。嫌いじゃねぇが、相手が悪かったな!!」

「うきゃっ!?」


 エルメスは避けられただけではなく、服を掴まれて上空へ投げられてしまう。


「貴様!! 死ねぇぇぇ!!」

「おい、ここで炎を使うんじゃねぇよ」


 ここは森の中であり、炎を使ったらどうなるかわからないことではないが、アルエルは怒りでそのことは頭の中から抜け落ちていた。ただ、自分の力で、一番高い威力を持ったスキルが、火魔法だったからそれで殺そうとしていただけだった。




 しかし、火魔法は使われることもなかった。




「うっ……!」

「暫くは寝ていろ」


 アルエルの腹には拳がめり込んでいた。その威力に耐え切れず、アルエルは気絶をしてしまう。


「呆気ないな…………む!?」


 獣人は後ろから気配を感じ、この場から離れる。そこに、『黒死点』が打ち込まれていた。


「ゲホッ、よくもやりやがったな」

「ありゃ、それで気絶しないとか頑丈だな? まさか、ゴーレム系の魔人だったとか? それに、危険そうな気配がする黒い奴は何だよ?」

「答える必要はねぇな。エルメス!!」

「はーい!」


 エルメスは木をクッションにするように落ちたようで、細かい傷ができていたが、それはすぐに回復するので、戦うには問題はなかった。


「ん? ただのエルフじゃねぇな……」


 獣人も2人の異様さに気付いたようで、眉を潜める。


「エルメス、アルエルを連れて離れてろ!」

「えー、私も一緒に戦う!」

「ダメだ。俺は本気で戦うから、巻き込まれたら戦いにくいだろ?」

「う~、わかったよぅ」


 不老不死のエルメスでも、黒死点を食らえば死ななくても回復に時間が掛かってしまい、すぐに動き出せなくなるだろう。


「お前だけで戦うつもりか?」

「あぁ、そうだ。お前の動きが何なのか、少しは分かってきたからな。俺の空間認識でも捉えられなかったということは、魔力も煉気を使ってない。単なる高い身体能力だけで、ここまで動けるとか、早過ぎるだろ」

「あー、確かに魔力と煉気は使ってないな。これが、獣人の身体能力だ。まぁ、俺が特別に早過ぎるのもあるが」


 狼の獣人はスピードも優れているが、目の前にいる獣人は更に早い。

 話している内に、獣人がホタルのことが気になったのか、自己紹介をし始めた。


「面白い奴だな。教えてやろう、俺の名はダルグエア・トムソン。ただの警備員さ」

「街には、あんたみたいな奴がゴロゴロといるとかは考えたくないな。俺はホタル。サイバー系の魔人だが、覚えなくてもいい。どうせ、お前は死ぬからな!!」

「笑わせるな! スピードに追いつけるか、やってみやがれ!!」


 ダルグエアは、魔力や煉気を使ったスキルを使うこともなく、圧倒的に高い身体能力だけで、ホタルへ肉薄する。

 ホタルは真・空間認識で気配を探ろうと思っても、探れなかった。おそらく、高いレベルの気配操作を持っているからだと思う。

 ホタルは、反応出来ないなら黒死点を守りに回せばいいというように、ホタルの周りを渦巻いていく。


「む、ずるいぞ!? 俺は遠距離からの攻撃は持ってねえぞ!!」

「知るかよ! って、遠距離攻撃を持ってないのを、あっさりとバラすとか馬鹿かよ?」


 ダルグエアの表情から、本気で言っているとわかる。嘘を付けない奴だと思いながら、黒死点は守りが有効だとわかり、周りを渦巻くのを止めない。これでは、ダルグエアはホタルに近付けず、周りを凄さ増しいスピードで動き回るしか出来ていなかった。いや、石や岩を投げつけるなど工夫もしてきたが、黒死点に弾かれるだけ。







「埒あかねえな! お前は一対一で戦うには、相性が悪いな。なら、ここは撤退させて貰うぜ」

「はぁ? そっちから攻撃してきて、もう逃げるのかよ!?」

「逃げるのではない、戦略上の撤退と言う。お前と戦い続けるのは少しリスクがありそうだからな」


 ダルグエアは数手を交わしただけで、あっさりと撤退を決めていた。ホタルは逃すまいと、黒死点を攻撃を回すが…………




「『部分獣化』!!」




 ダルグエアは脚を獣化させて、脚力を上げて逃げ出していた。黒死点は全く追いつけず、その姿はすぐに見えなくなっていた。望遠を使うが、すぐに見失ってしまう。




 それ程にダルグエアは早かった。




「なんだよ! 襲ってきたと思えば、すぐに逃げやがって!! 次に会ったら覚えとけよぉぉぉぉぉ!!」


 ホタルは殴られた一発も返せず、モヤっとした戦いになったことに怒りが湧き出る。

 次に会ったら、絶対に一発は返すと思いながら、消え去った先を睨むのだった…………








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