96.勇者の人生
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ホタル達が獣人の領地へ侵入した頃、帝国の外では、2人の男女が歩いていた。そう、勇者のアルドとその幼馴染みのリムである。
街から充分に離れたのを確認し、手頃な岩に座り込む。
「あと1時間ってとこだな」
「敵は危険度SSランクの竜と聞いたけど、勝てるの?」
「まぁ、あそこのボスはSSランクだと聞いたし、勝てたから大丈夫じゃね?」
アルドは既にSSランクの魔物を倒したことがある。ただ、前に倒した魔物とイングランドラゴンで違う所を言えば、知性があるかないかの差だ。
イングランドラゴンは人の言葉を理解する知性があり、知性なきの魔物と同じだと考えていたら、敗北を知るのはアルドの方だろう。だが、アルドは軽い口調で答えながらも、警戒を怠ってはいなかった。常に『千里眼』でイングランドラゴンの位置を確認していた。
「よし、お前は陣の準備でもしていな。1人でも魔量が高く、時間があれば出来るんだったよな?」
「うん。1時間もあれば、2つは準備が出来るよ~」
リムは母親に陣のことを習っており、才能の故に複数で術式を構成する所を1人で出来てしまうのだ。元々、陣は複数の人が協力して、1人では出せない強力な効果や威力を出すためにあるのだ。決しては、1人でやることでは無い。陣を使うためには、大量な魔量を求められているのもあり、普段なら複数の術師が均等に使うが、リムは1人でそれだけの魔量を使う陣を2回も作ろうとしている。
つまり、リムの魔量は常人以上と言っているような物だ。
リムが陣の準備を始めようと動く中、アルドは自分の手をジッと見つめていた。手は変哲もない自分の手だが、確かな力がある。
それを為したのは、あの女との出会いがあってのことだ。
チッ、気に入らねぇな。感謝はしているが、気に入らねぇーーーー
アルドは思い出す。初めて、この世界に生まれてから地に顔を舐めさせてくれた者の顔を。修行で母に何回もやられたこともあるが、それはそれとして、敵だと認識した相手にやられたのは、あの時が初めてだ。
そう、学園に入ってから3ヶ月の先のことーーーー
アルドとリムは授業を受けていた時、お城の者から招待があった。
その話は、2人が学園で上位に入り、学園で一番強い生徒をアルドが圧倒していた後に、教師から聞かされたこと。
アルドは強い者にはこの国の兵士や魔術師として働かせる誘いが城から来るのは知っていた。だが、アルドは冒険者になりたかったので、話は断ろうと思っていた。
だが、すぐに断ると対面が悪くなる可能性があるので、話を聞いてから面に向かって断るのが筋だと思い、2人で城に向かうことになったのだ。
そう思えば、ここが人生の分岐点だったわけだ。
第二皇女様と会うことになったが、アルドは全く興味は湧かず、早く終わらせたいなと思いつつ、馬車に揺られて城へ向かっていた。隣に座っていたリムは緊張していたが、何故、そこまで緊張するのかはアルドには理解できていなかった。
芸能人と会うような物かと納得しつつ、リムがそこまで緊張していたのかは、皇女様が待つ部屋に近付くまではわかっていなかった。
そして、アルドも理解するようになった。リムがそこまで緊張していたのか、身に知ることになったのだ。
その原因が声を掛けてくる。
「ようこそ、未来の輝き可能性を持つ者よ。私が第二皇女のティリア・ダ・カエサル。肩の力を抜くが良い」
化け物だった。アルドがその力を察知出来る範囲に入るまでは、わからなかったが、今なら理解出来る。
格が違うとーーーー
リムは皇女様に会うことに緊張もあったが、魔力感知に優れているため、その力を馬車にいた頃から触れていたのだ。圧倒的な力を持っている化け物がいると。
2人は無意識に跪き、汗をだらだらと流していて、顔を見れていなかった。
「ふむ、威圧を受けても気絶しないだけでもマシか? こういう若者に出会うのは久々だな」
「い、いあつ……?」
「あぁ。恒例でな、どれくらい耐えれるか試したくてな」
この威圧はティリアにしたら、遊びのようなものだと言う。それに付き合わされる者には堪らないことだろう。
威圧が弱まり、アルドはホッと息を吐くが、リムは気絶していた。
アルドはそれに気を掛ける余裕もなく、顔を上げようとした。ティリアはどんな人なのか、見てみたかった。
そして、その顔が眼に入るとーーーー
「き、貴様は!? あの時の女!?」
さっきまで威圧されていたのを忘れて、走り出していた。
王座に座っていたティリアは眼を見開いて驚いていたが、アルドはティリアの元へ届くことはなかった。
「ぐぁっ!?」
「行かせないよ~?」
ティリアの側にいた老人がアルドを組み締めて、地に顔を舐めさせていた。老人は顎を擦りながら、ティリアに聞いていた。
「あの時の女とか言っていたけど、知り合い?」
「むぅ、私は初めて会ったんだが?」
「お、俺は忘れてねぇぞ! 召喚し、この世界へ呼んだことを!! その顔は、若くなっているみたいだが、俺は忘れてねぇぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「召喚だと?」
少し考えて、アルドがあの時に召喚した者の1人だとわかった時は少し驚愕したがーーーー
「ふ、はははっ!! まさか、記憶を持って転生したのか! このケースは初めてじゃないか!?」
「ん、もしかして。あの時の?」
組み締めている老人もティリアが言っていることを理解しているようだ。何せ、この老人も転生して長年も生きているのだ。
「漆黒の魂とは違うか…………。まぁいい。ステータスを見せて貰うぞーーーーーーーーーー成る程。『勇者』か」
「『勇者』ですと!?」
『勇者』と聞いて、驚いたのは老人だけではなく、周りにいた者もだ。
勇者の称号を持つ人間が現れたのは、久々のことであり、この世界では他に勇者がいるが、それは他の種族でのこと。
人間の勇者は、二百年前に死んでからずっと生まれてはなかった。だが、たった今にその勇者が目の前にいるのだ。
「面白い。記憶を持つ転生者よ、力は欲しくないか?」
「あぁん? お前をやれるならな? 俺が転生していることは、お前が殺したのは間違いねえ!!」
前世の記憶は、召喚されてから途切れている。つまり、ティリアか他の者が自分を殺したことは理解していた。
「ククッ、問題はない。私を殺せるなら、やってみろ。この帝国では、力が全てだーーーー」
この後は、力をすぐに手に入れるならティリアの元にいた方が早いとわかったアルドは、ティリアの元で働くことになった。詳しく言わずとも、リムも城に勤めることに決めた。いつでもアルドといられるようにと…………
「チッ、この力があってもアイツにはまだ届かんか」
手に入れた力はあったが、まだティリアには勝てないと理解しているアルドは、まだティリアの元で働いている。長い間も考え事をしていたのか、イングランドラゴンとの距離はあと僅かになっていた。
「来いよ。『双魔銃』ーーーー」
アルドは立ち上がり、自分の能力を発現した。2つの白と黒の銃がアルドの手に握られる。
これが、アルドの継承スキル『双魔銃』である。
ここから、勇者と竜の戦いが始まるのだったーーーー




