71.駐屯地
はい。続きです!
「そういえば、エルフの領地には王国か帝国みたいな大きい国はあるの?」
「名前だけは知っていますが、それはエルフ本人の方が詳しいかと」
前を歩いて案内しているセリアとエリーはアルエルの言葉に仕方がないと言うように説明してくれる。
セリアとエリーはまだホタル達に恐れを抱いており、言葉に張りがなかった。
「私達の国はディア・シーラと言い、一人の女王様が纏めておられて、その女王様の名前を国の名前と付けられているわ」
「ふむ。女王様の名前もディア・シーラと言うんだな。まぁ、会うことはないだろうけど。もぐもぐ」
「そうね、城から余り出ないから見る機会はないわね」
何故、ソフリャ森林が立ち入り禁止になっているのか? と聞いてみたら、想像していた通りだった。
SSランクのイングランドラゴンがいるバイルドム山へ向かう通り道になっているからだ。イングランドラゴンを刺激させないようにと、立ち入り禁止と決められていた。
だが、ホタル達は帝国の領地側で襲われて、山を越えたのでエルフが定めた規則に当てはまらないのだ。まさか、危険地を越えて立ち入り禁止のソフリャ森林へ入ってくるなんて、予測出来ないからだ。
「まず、私達が所属している警備隊がいる駐屯地へ向かうわ。貴方達のことを説明しなければならないし」
「面倒な……もぐもぐ」
ホタルにしたら、大人しく2人に着いていく必要はないが、更に問題を起こして、街に入れなくなるのは困る。ホタルは街に入りたいのか、その理由はーーーー
調味料のためにッ!!
ホタル達が街に入りたいのは、調味料が欲しいからだ。手持ちが少なくなって、何処かで手に入れて置きたいのだ。
セリアの話から聞くには、エルフはあの2人だけではなく、駐屯地にいる者にもソフリャ森林に誰かが入ったことは伝わっているみたいだな。
どうやってかわからんが、可能性が高いのは魔道具か?
まぁ、駐屯地に着けば、何かわかるだろうな。
と、そこにエリーから初めて声を掛けてきた。
「あ、あの。それは…………大丈夫なんですか?」
「む? 何が?」
「無視しようと思っていたけど…………なんで、バッファウルの生肉を食べているのよ!? 普通は魔物の生肉を食う人なんて居ないわよ!?」
「いるじゃん。ここに、もぐもぐ」
ホタルはエルフと戦う前に倒した、バッファウルの生肉を手に持って食べていた。初めはギョッと驚いていたが、さっきまで敵対していたのでなかなか聞けず仕舞いだった。
今は質問と応答を繰り返した後だから、言えたが…………
「貴方は色々とおかしいわよ!? 矢が刺さらないし、パンチをしただけで木が折れるし、生肉を食べているし!!」
「別にいいだろ。生肉を食べるのは、腹減ったからだよ。焼肉にしようと思っても、森の中じゃ火を使えないし」
「だったら、駐屯地に着いたら焼けばいいじゃない……。魔物の生肉を食べると、【病苦】になりやすいんだから、やめた方がいいわよ」
「大丈夫大丈夫」
ホタルは病苦を無効出来るので、生肉でも問題なく食べれるのだ。味は焼いたよりも味が落ちるけど、火を使えないので仕方がない。
生肉を食べ続けていたら、岩で作られた砦が見えてきた。
「アレが私達の駐屯地になります」
へぇー。エルフの領地だから、木の上に作られたログハウスとか想像していたが、それだと守りが弱いもんな。
駐屯地は守りのために砦で構えるのが普通だと聞いたことがあるなー。
よく作られた砦に、横へ伸びる長い壁。おそらく、立ち入り禁止であるソフリャ森林へ入れないようにするための壁だろう。
「む、捕まえたか? あの2人がソフリャ森林へ入った馬鹿か?」
「あ! 隊長!!」
セリアとエリーは隊長だと思われる男を見て、敬礼をしていた。ホタルはその隊長を見て、訝しむような表情に変わる。
その隊長は耳が長いことからエルフだとわかるが、ムキムキでゴツい顔をしていて、獣の皮を服にして着ていて、背中には重そうな剣を抱えていた。
エルフか……?
突然変異したエルフにしか見えねっ!
耳が長くなかったら、原始人にしか見えないし、エルフだとわからないぞッ!?
ホタルはエルフの印象が壊れる音を聞いたような気がした。セリアとエリーはエルフらしく、美女でスタイルも良かった。だが、目の前の隊長と呼ばれる者は…………
「む、なんか馬鹿にされたような……?」
「いや、ガッカリしていただけだ」
「何を言っているかわからないが…………聞くぞ。お前らは何故、ソフリャ森林にいた?」
エルフの隊長がそう質問をし始めた後、砦から何人かのエルフが現れた。ソフリャ森林にいた者が何者か見に来たのだろう。
取り敢えず、ホタルがセリアとエリーに説明したのと同じ内容を話したらーーーー
「な、なんだと!? き、貴様らはなんて事をしやがる!!」
イキナリ胸元を掴まれた。大人がまだ子供にしか見えないホタルに対してだ。後ろでは、怒りで眼を鋭くするアルエルと青ざめているセリアとエリーがいた。2人はホタルの実力を知っているので、事を荒げたくはなかったのだろう。
それよりも、早くアルエルを止めないと魔法をぶっ放たれそうだ。
『待て、ここは俺に合わせろよ』
念話でそう言ってから、ホタルは隊長の男の目に向き合うーーーー
「貴様は何をしたかわかってーーーー」
「…………ふぇ、う、うぇぇぇぇーーッ!!」
「えっ!?」
突然にホタルが泣き出したので、隊長の男は驚いて胸元を掴んでいた手から力が抜けてしまった。脚が地に着いたのを確認した後、ホタルはアルエルに向けて泣きながら走っていった。アルエルは抱きつかれてから、ホタルの作戦に合わせた。
「ふぇっ、アルエル、姉ちゃんーー!! 助けてーー!!」
「よしよし、…………何をするのよ!! まだ8歳の子供なのよ! それなのに、胸元を掴んで怒鳴るなんて!!」
「あ、ぅ、えぇと……」
アルエルに怒られて、声が竦む隊長の男。周りにいたエルフ達は「確かに、まだ子供にそんなことをするのは無いですね……」「隊長……」「最低、子供を泣かすなんて……」と、隊長を非難してこちらの味方をするような声が聞こえてきた。
アルエルの後ろでは、セリアとエリーは唖然としたような表情で固まっていた。
「こ、小僧……、いきなり胸元を掴んで怒鳴ったことはすまなかっ…………ッ!?」
隊長の男はアルエルに抱きついているホタルの口が笑っていることに気付いた。
「まさか! ハメやがったな!?」
「うぇっ、おじさん、怖いよう……」
「大丈夫よ。アルエル姉ちゃんが守ってあげるからね。貴方は何を言っているのよ? 8歳の子供にそんなことを言うなんて、皆さんはどう思うのかしら?」
アルエルの言葉を周りにいたエルフは、今は隊長が悪いのではと言う意見が多かった。
アルエルの後ろにいたセリアとエリーも顔を青ざめたまま、周りに同調するように頷いていた。
アルエルが言う前に、ホタルが2人に向けて、『俺達に合わせろよ。そうじゃないと、砦ごと潰すぞ』と殺気を混ぜて念話で送ってやった。
やられたばかりのセリアとエリーはその殺気に頷くしか出来なかった。
「そんな、ち、違うんだ、違うんだぁぁぁぁぁ!!」
否定をするが、周りの評価は変わらないままだった。ホタル達に同情したエルフが代わりに対応をして、仕方がない部分もあり、これから注意をすることを促すだけで、すぐに解放されたのだった…………
うわー、隊長の男は泣く子供には勝てませんでした。
ホタルは可愛いに近い容姿をしているので、泣き落としは効果的でしたねー。




