50.国境
本日三話目!
帝国から離れて、三日経った。ホタルとアルエルが向かうのは、帝国領の隣にあるエルフの領地。アルエルの説明では、テスマ・ミグアと言う国で、森が多い領地だと言う。
この世界では、人間、エルフ、獣人と言った種族がいて、その中でもエルフは戦いに興味がない種族である。
魔物も襲ってこない限りは、エルフから手を出すことはないぐらいに、非戦闘な性格をしている。
たまに、冒険者として活動するエルフもいるが、それは少数である。
「つまり、私達を見つけても即討伐になる可能性が低いのです。冒険者は別ですが」
『成る程。だから、エルフの領地に向かうわけか』
「はい。私達は人間とは違う魔族のような存在なので、魔王の領地に入るのが一番かもしれませんが、あの領地は強い魔物が沢山生息しているから、流石にホタル様でもキツイかもしれません」
『あぁ、学園で会ったあの人間と同等なら、勝てないかもしれん』
ステータスは名前しか見れなかったし、二人の存在が勝てないと思わせる。
魔王の領地は一番近い場所でも、徒歩で一ヶ月ぐらいの距離はある。さらに、生息している魔物はどれも危険度Aを超える化け物が多い。
なら、歩いて一週間ちょっとで行けて、エルフも非戦闘種族なら、その領地に行くのはいい案かもしれない。
『そういえば、エルフの領地に入る前に国境とかあるのか?』
「はい。高い塀が領地を分けています。別の領地へ向かうための通行証が無ければ、通れません」
『む、それだと俺達は通れないじゃないか。で、その通行証は何処で作れるんだ?』
「そうですね、帝国の場合ですが…………まず冒険者の働き場であるギルドで申請をして、皇帝か皇女様に認められる必要があります。簡潔に言えば、他の領地に行っても死なない実力があれば、割と簡単に認められます」
『流石、実力主義の帝国だな。まぁ、魔族の俺達では、通行証を作れないんだよな。エルフの領地に行こうと言ったのは、お前だ。何かの案はあるよな?』
「はい。一つだけ思い当たりがあります。少しだけ危険ですが……」
そう言いながら、アルエルは向こうにある山に指を指していた。
「あの山、見えますよね? その山だけ、国境がありません」
『む? そうなのか?』
「はい。本で読んだ知識でしかないけど、ある竜が縄張りを張っていて、作れなかったと」
『ふむ、討伐はしなかったのか?』
「前に何回か行った記録がありましたが、全て返り討ちにあっています。でも、竜は山から降りないことから放って置かれることになりました。ちなみに、危険度はSSです」
『おい』
危険度がSSもある竜がいる山を通り抜ける?
そんなの、国境を無理矢理に抜けた方がマシだ。なのに、何故キチガイな案を出したのかと思っていた所に、アルエルから話してくれた。
「記録では、竜に攻撃をしなければ、見逃してくれると。その記録は、竜に攻撃をせずに逃げ出した兵士が書いたものなので、信憑性は高いかと」
『…………』
万一に出会ってしまっても、攻撃をせずに逃げればいいと言っているのだ。討伐に行った者で、攻撃をしなかった人々は生き残っていると記録があるとアルエルは言う。
正当防衛でしか動かない竜なのか?
魔物にそんな理性があるとは思えんが……。
竜か、転生か召喚されたら絶対に見たいNo.1の魔物だよな。
……やばい、見たいかも。
『アルエルがそう言うなら、行ってもいい。その情報を知っているとは、頼りになるな』
「い、いえ。図書館で知ったことなので」
頼りになれたことに嬉しく頬を緩めるアルエル。行き先が決まり、竜がいる山へ向かおうとした所にーーーー
「あれ、馬車の引く音が聞こえます」
『む? 俺には何も聞こえないが…………』
ホタルは気付いた。本人は気付いてないみたいだが、頭に生えている機械の耳がピンピンと動いていることに。
成る程。三キロ先の音を拾えるんだったな。
アルエルの上級スキルである超聴覚機は思ったより、使えるようだ。三キロ先の音を拾えるなら、常に先手を取れるのはこちらだ。
『どの方向からだ?』
「えぇと、これから向かう方向から来ていますね」
方向を聞き、ホタルは『望遠』で一キロ先まで見る。まだその姿は見えなかったが、しばらくすると装飾が立派な馬車が見えた。馬車の中は見れないが、馬車の装飾を見るには、偉い人物が乗っていそうだ。
『どうやら、帝国へ向かっているみたいで、暫くしたらぶつかるかもな』
「では、襲いますか?」
『…………逞しくなったよな。その言葉は盗賊っぽいぞ』
「でも、物を奪っておけば、旅が更に楽になると思いますよ?」
『それもそうだな……』
今のホタルとアルエルはお互いが短剣を持っているだけで、手ブラだ。食事は現地で補っていたが、馬車に調味料があれば美味しい御飯を食べれるが…………
『いや、今は止めとこう。なんか、嫌な予感がする』
「えーー……」
アルエルは自前の調味料が少なくなってきたので、馬車を襲って補充したかったが、ホタルがそういうので、諦めることにする。
『すまんな。今回は止めるが、別のを…………ッ!?』
ホタルの危険察知が強く反応を起こし、この場所から避けた。
ドバァッ!!
急に何もないところが爆発したような音を立てていて、地面が凹んでいた。一体、何が起こったのかと考える前に、アルエルを背中に抱えて、その場から逃げ出した。
「な、何が……?」
『あの馬車から攻撃して来たかもしれん! 今は、攻撃が届かない場所まで逃げるぞ!!』
「い、イエッサー」
ホタルはアルエルを抱えながら、馬車から離れていく。自分の『望遠』よりも、アルエルの『超聴覚機』の範囲内よりも…………
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帝国へ向かっている馬車の中にて、ティリアはいきなり刀を出して、『遠斬』と呟き、カチッと音を立てていた。
「いきなり、刀を出してどうしたのですか?」
「いや、馬車が通る道に魔物がいたからな。『遠斬』で片付けて置こうとしていたんだがな……」
『遠斬』は目に見えない場所まで斬ることが出来る技だが、今みたいに距離が遠すぎると、刃が潰れて圧し潰す形になってしまう。ティリアは一キロ先にいるホタルを気配だけで魔物がいると察知していた。その気配に頼り、技を放ったが外れたようだ。
「それで、片付けられましたか?」
「いや、察知されて避けられた…………気配が消えた。ちっ、気配を消して遠くに逃げたようだ」
「私が追いましょうか? 方向だけ教えて貰えば……」
「いや、いい。今回は帝国に急ぎで戻らなければならん。魔物は放っておけ」
「え、大丈夫なんですか? ティリアの攻撃を避けた魔物を逃しても」
「どうやって察知したかわからんが、こちらの居場所を掴んでいるようだ。更に気配を消されて逃げられては、探し出すのは骨が折れる」
それに同意するアーク。今はそんなことをしている場合ではない。
「確かに、そんな魔物は探し出すのに時間が掛かりますね。仕方がありませんが、今は忘れましょう」
「う、うん」
この判断が、ホタルとの再会を逃すことをティリアは知らないのであった…………
再会を逃したティリア。
一体、いつになったら会えるのか?




