40.念話で会話
本日ラスト!
「ん、んん……?」
アルエルは意識が薄っらとだが、戻ってきてきた。初め、眼に映ったのは…………
熊の顔だった。
「ぎゃぁぁぁぁぁーー!!」
ベアーズの顔だったことに、恐怖から叫んでいた。
だが、しばらくしてもベアーズが襲ってこないと思ったら、死んでいたことに気付く。少し落ち着いたアルエルは、周りを見回してみるとーー
『お、起きたか?』
「ふぇっ!?」
ベアーズの陰から現れたのは、ホタルだった。
『おい、身体の調子はどうなんだ?』
「え、えっ? 頭の中に……?」
『あー、これは念話のスキルを使っているんだよ。ちゃんと言葉は通じているんだよな? あ、そっちは声で話しても問題はないぞ』
念話を使っているのも凄いことだが、魔物が人間と変わらないような言語を使ってきたことに驚愕しているのだ。しかも、下手な人間よりも上手いと錯覚させるほどに。
『うーん? もしかして、通じてない?』
「あ、いえ! 言葉はわかります!」
驚愕しすぎて、口をポカーンとしていたため、言葉は通じてないのかと心配になっていたが、それは杞憂だったようで安堵していた。
何せ、『念話』はスキルポイントが300も掛かったのだから。
『お、そっか。色々と聞きたいことがあったんだが、先にメシにしようぜ』
「メシ……あ、御飯ですね。…………これが?」
『俺はそのままでイケるが、人間には無理だろ? だから、料理は自分でやってくれ』
アルエルの前にあるのは、ベアーズの死体。他に食べ物は食べられそうな草や少々の実だけ。
「えっと、調味料は……ありませんよね?」
『あるわけないだろ。香草しかないな』
「そうですよね……」
話せることが出来、魔物に理性があることからアルエルに余裕が出来た。
自分を助けたことから、少なくとも殺すようなこともしないだろう。聞きたいことがあると言っていたのだから。
『あー、とりあえず言っておく。俺は敵対されない限り、こっちからは手を出さない。まぁ、殺した方が得なら別だがな』
「…………少なくとも、私には価値があるから?」
『まぁ、悪い言い方をすれば、そうだな』
アルエルはわかっていた。この魔物は決して、善意から助けたわけじゃないのは。だけど、助けてくれたのは間違いはない。
「あ、あの、助けてくれて、ありがとうございます。あ、私はアルエルと言います」
『律儀な奴だな。お礼は料理した物で構わん。あ、情報もくれればありがたいな』
「え、情報ですか? 私が教えられるようなことがあればですが……」
アルエルにしたら、国の機密を教えろと言われても知らないのだから、無理だ。そんな無茶なことではなければ良いのだが。
『あぁ、難しく考えなくてもいい。何せ、俺は生まれたばかりだし、まだ一ヶ月も経ってないんじゃないかな。だから、世界についての情報が欲しいのよ。あ、俺の名前はホタルだ』
「えぇっ!?」
ツッコミどころが多過ぎた。生まれてから一ヶ月も経ってないのに、もう話せる程の知能やベアーズに勝つ程の実力を持っている。
名前は理性があるから、持っていることは予測出来たが、やはり一ヶ月しか経ってないのは信じられなかった。
「え、えと、冗談とか?」
『まぁええよ。信じるか信じないかは自由だ。だが、料理は早くしてくれよ?』
「は、はい」
今は料理が先なので、急かせるようにベアーズを叩く。外傷がないから、いつ起きそうな雰囲気に怖かったが、持ってきた腰に付ける小さなバッグから短剣を取り出そうとしたが、火がないことに気付いた。
「あ、火は……ないですよね」
『周りを見ればわかるだろ? というか、スキルに火魔法があるんだから、それを使えばいいじゃないか』
「鑑定を持っているのですか……、念話が出来る魔物なら、持っていてもおかしくはないかな?」
『あー、違う違う。鑑定じゃなくて、解析な』
「解析!? 鑑定の上位版を何故、持っているんですか!?」
上位版? その解析を俺は100ポイントだけで取れたんだけどと思ったが、言わないでおく。
『それはどうでもいいから、さっさと火を付けろよ。そこに木枝を集めておいたからよ』
アルエルはどうでもよくないが、機嫌を損なうのはどうかと思い、言う通りに火を付けようとする。
「すいません、少し離れてもらえませんか?」
『む、俺はアルエルの後ろにいるんだから、大丈夫だろ?』
「それはそうですが……」
魔法は基本的に前方へ向かって飛ぶのだから、アルエルの後ろにいる限りは当たることはない。普通に成功したなら。
アルエルは成功させるしかないと心に留め、魔力を込めて術式を構築する。
「”火きーーあっ」
術式の構築中に、術式が粉々に壊れて火魔法は発動したが、発射方向がアルエルの後ろへ向かった。
ホタルが座っている場所へ。
『へっ? ーーーーギャァァァァァーー!! 熱い熱い!?』
ホタルは火達磨になり、火を消そうと地面を転がる。アルエルは慌てて、バッグから大きな寝袋を取り出して、パタパタと消火にかかる。
そして、ようやく火が消えた所に…………
『ア~ル~エ~ル~?』
サイバー系の魔物だから、表情が変わりにくいのはずが、アルエルにはホタルの額に怒りマークが見えていた。
「あわわ、ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!」
『まさか、わざと暴発させて方向を無理矢理変えるとはな……。どうやら、死にたいみたいだな?』
「待ってぇぇぇ!! 私は上手く術式を組めないんです!!」
ホタルは訝しむが、アルエルが本気で慌てていて、嘘を言ってるようには見えなかった。思い出してみれば、先程の術式は途中で壊れたように見えた。
『術式を組めない? 失敗したんじゃなくて?』
「はい……、私は何故か術式を構築しようとしても、必ず途中で壊れてしまうんです」
『ふむ?』
ホタルは魔法のスキルを使えないからよく知らないが、失敗もしてないのに、術式が勝手に壊れるのはあり得るのか?
アルエルの言葉では、術式の構築を間違っていなければ失敗をすることはないと言う。
『……はぁ、ワザとじゃないなら許してやる』
「ほっ……」
『さっさと料理をしろよ。火なら着いたみたいだし』
「は、はい! …………まだ怒っていらっしゃいますか?」
『そんなことはないぞ。ただ、さっさとやれよ、ノロマとしか思ってないからな』
「怒っていますよね!?」
ホタルは詳しく追求するのやめた。どうせ、情報を聞かせてもらったら街に帰ってもらうつもりだからだ。
『さっさと捌きやがれ』
ガシガシと前脚でベアーズの前まで行かせる。
「やっぱり、怒ってる~~!!」
口でそう言いながらも、これ以上の機嫌を損ないようにせっせっと動くのだった…………
意外と馴染んでいる……?




