114.ダルグエア
ダンジョンへ挑む前に、準備をする為に一日だけ王城で滞在することになった。準備とは、王から報酬を貰い、エルメスの欲望通りに美味しい食事を食べたり、ダンジョンで必要な物を買ったりとか。
えっ、今までは現地で調達していたのに、今回はきちんと準備をするのだって? 馬鹿か、俺はまだ魔物だったし、犬だったんだぞ? それに、今はアルエルとエルメスもいるから、ご飯は必要だ。俺は物質や魔物でも食べて生きていけるが、二人は違う。もし、ダンジョンにいる魔物が物質系の魔物だったら、何も食べないままダンジョン攻略を進めることになってしまうんだぞ。
――――と言う理由で、今は買い物中だ。先に荷物を収納出来る魔道具を王から買い、食べ物を買い捲った。
「次に行こう!!」
「まだ買うつもりなのかよ?」
「一週間ぐらいなら、もつ量だよね?」
「まだ足りない――! 甘い物も欲しい!!」
「ピクニックと勘違いしているんじゃねぇのか? このガキは」
「狼野郎、ガキと言うな――!」
「狼野郎じゃなくて、ダルグエアと呼べ」
ダルグエアも一緒に着いてきており、エルメスとは相性が悪いのか悪口で呼び合っていた。エルメスはガキと、ダルグエアは狼野郎と。
「……ったく、甘い物なら、ベディゴキアで構わないか?」
「あ、いいね!!」
ベディゴキアなら無料で草原から持って行けるので、甘い物はそれで決定した。アルエルはまだ嫌悪感が捨てきれないのか、微妙な顔をしていたが、何も言わないから問題はないだろう。
「これから行くダンジョンは暗いと言っていたよな?」
「あぁ、一階層だけだが、真っ暗になっているぜ。灯りも必要だな」
「カンテラを買うか」
次は雑貨屋へ向かおうと思ったら、獣人の男達が道を遮るように立ち止まっていた。ホタルはギルドから出た後のことを思い出していた。またあの時と同じかよと思っていたが――――
「うらぁっ、ダルグエアさんよ――? あの時の借りを返しに来たぜぇぇぇ?」
「会った時が百年目! やったらっ!!」
「はぁっ、またかよ……」
「ん、お前に客か?」
「あぁ、あいつらは酒場で暴れていたのを、俺が取り押さえていただけだ」
どうやら、ダルグエアへの逆恨みのようで、自分達には関係ないというように、ダルグエアを置いて邪魔をする男達の横を通り過ぎようとしたが……
「あん、なんだ、このガキ等は?」
「クソ野郎の仲間か? なら、お前らも締めてやるぜ!?」
再び、道を塞いできた。うざったそうにアルエルが火魔法を使おうとしていたので、ホタルはそれを止めた。
「アルエル、この問題はあいつがやるんだから、放っておけ」
「イエッサー」
「やっぱり、手伝ってくれないか……まぁ、一人でも余裕だからいいけど……」
ダルグエアは面倒そうにホタルの前に出ていた。立ち塞がる男達は五人いるが、警備隊、副隊長のダルグエアにとってはこの数は相手をするには問題はなかった。
「あの時は酔っていたから、抑えられただけだ! やっちゃまえ!!」
「「「「うおおおおおっ!!」」」」
あのワニ顔がリーダーのようで、掛け声を上げると四人同時がダルグエアに飛び掛る。
おっ、思ったよりいい動きをするじゃないか?
四人はスピードと数を生かして、チンピラにしてはコンビネーションが出来ているように見えていた。ダルグエアでも苦戦するんじゃないかなと考えていたホタルだったが、ホタル達はダルグエアのことをよく知っている訳でもなかったので、この後の展開は予測していなかった。
「カッ、この程度で俺をやれると思うなよ!」
「がっ!?」
イタチ獣人がお腹を抑えて倒れていた。ダルグエアから一番離れていたのにだ。この結果は予想していなかったのか、ワニ獣人は呆気に取られていた。それで終わらず、イタチ獣人の近くにいたネズミ獣人が倒れる。ダルグエアは動いている様子を見せてはいないのにだ。
「あいつ、遠距離攻撃を持っていたのか……?」
「いえ、魔力の気配はしません。獣人は魔法を使えない代わりに、精霊剣を使えた筈です」
「ん――? お腹が凹んでいるように見えるよ~?」
「お腹が?」
倒れている獣人の腹を見てみると、凹んだ跡が残っているように見えた。丸の跡がある、それが攻撃された跡だとわかるが、なにかによる攻撃なのかはわからなかった。
「へへっ、わからないだろ?」
「視線を外して、喋るとは余裕じゃねぇか!?」
「あぁ、余裕だ。ほれっ」
「ごぶべらっ!?」
今度はワニ獣人の顎が上げられ、首を無防備に見せていた。ホタルは上がった顎にも丸い跡が残っているのを見つけた。そして、ダルグエアの手が一瞬だけ動いていたのも。ダルグエアの精霊剣はどんな効果を持っているかも知っているホタルは、その答えを見つけた。
「成程。投げる武器を持っていて、精霊剣の効果で気配と姿を消していた訳か」
「おっと、すぐ見破られるとは思っていなかったぞ。これはお前が敵になった時の保険だったんだがな」
ダルグエアの精霊剣は、自分自身の気配と姿を消し、武器にもその効果を適用することが出来る。精霊剣も魔力を使うが、ダルグエアが持つ精霊剣は魔力をも隠せる。
チンピラとの戦いは一分も掛からずに終わった。もちろん、ダルグエアの勝利によってだ。
「相手も悪くなかったが、お前はそれ以上だったな」
「へっ、見直したか?」
「それで、どのくらいの強さを持っているか気になるから、ステータスを見せてくれよ?」
「スキルは見せれんが、数値だけは構わんぞ。どのくらいの強さを持っているか知ってもらえば、ダンジョンでの協力もやりやすいだろ?」
スキルまでは見せて貰えないが、ステータスの数値だけは教えてくれるようだ。
「これが俺のステータスだ」
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狼人族 (名称 ダルグエア)
Lv32
HP:1840/1840
MP:870/990
SP:2380/2380
物攻 980
物守 830
魔攻 430
魔守 760
速度 2240
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見ただけでもわかるように、ダルグエアはスピード特化になっており、本気を出せば、ホタルでも捉え切れない程の速さを持つ。
警備隊でナンバー2の実力を持っており、ホタルはその強さを持っていながら、メルエダ隊長やタイガルドに劣ると言う事に溜息を吐きたくなってきた。スキルを使えば、どれ程の強さなのか気になる反面、これからのダンジョン攻略でダルグエアの力を借りることが出来ることに頼もしさを感じていた。
これなら、次のダンジョン攻略は楽に進めるかな?
強力な協力者がいることにダンジョン攻略が楽になると、ホタルは思っていた。
――――だが、それが間違いだったと後から気付くのだった……。