104.王は……!
はい、お待たせました!
む、獣人達の王だと?
やっぱり、アレか? 百獣の王であるアレだよな!?
ロマンがあるな………む、わからないかい?
やれやれ、説明を聞くよりも感じろ!! 習うよりも慣れろ!! って感じだな。ロマンと言うものは。
わからない人にはわからない。それは仕方がないだろうな。
皆はそれぞれが違う感性を持っているのだから、思うことは違っても当たり前だ。
俺は見てみたい。
百獣の王と言う名を冠される生き物が、獣人の王。
やはり、ファンタジーな世界にありがちのことだが、ロマンはある!!
さぁ、見せておくれよっ!!
ホタル達は中央にある、風格を持ったお城へ案内される。
お城は紅岩で出来ており、見た目は赤いという印象が強い。そこに獣人の領地でたった1人だけの王がいる。
ポーカーフェイスながらも、内心はワクワクしていた。アルエルから内容を知られずに、相手のホームで閉鎖的な場所へ向かうことに反対していた。会う自体まで反対はしないが、せめて何かが起こっても大丈夫のように外や広い場所にて、会って欲しいと。
だが、ホタルはそれを却下した。ホタルは閉鎖的な場所へ赴こうが、どれだけの獣人が待ち構えていようが、力付くになんとかする自信はあった。
アルエルはその自信に渋々ながらも、頷いてホタルの赴く道をついて行く。
エルメスは何も考えておらず、周りをちょろちょろと見回してホタルについて行く。
「…………王の間に着くが、失礼ないように」
「もし、失礼に当たれば首を落とされるからな? こんな所で死んでくれるなよ」
「失礼なのは貴方でしょう! お手伝いの内容を知られず、こんな所まで行くことになったのは、確実に貴方のせいでしょうが!」
アルエルはホタルに対する態度が気に入らず、ダルグエアに突っかかっていた。当のダルグエアは欠伸をして、アルエルからの話を聞き流していた。隣にいたメルエダはアルエルと似たような気持ちだった。
ここへ連れて行きたくはなかったが、状況が状況なので連れて行くことになってしまった。その原因を作ったダルグエアを睨んでいた。
ホタルはそんな状況へ気にかからず、ワクワクしながら王の間へ繋がる扉を見つめていた。
さぁ、早く扉を開けるんだ!!
そして、ロマンを見せるんだーーーー!!
そして、向こうから声が発されて大きな扉が開かれる。
王の間には両端は兵士達が並んでおり、扉から一番離れた所には立派な王座がある。そこには、1人の獣人が座っていた。
白く雄々しい毛並みをしており、凛々しい表情を浮かべたーーーー
白虎がいた。
「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「うおっ!?」
いきなりホタルが叫び出し、一番近くにいたダルグエアが驚いて耳を塞いでいた。驚いているのはダルグエアだけではなく、周りにいた兵士や仲間、そして……王もだった。
すぐ我に返ったのは、王の隣にいたライオンの獣人である大臣だった。
「い、いきなり何事だ!! 王の前でーーーー」
「なんで、お前がそこにいる! 普通は百獣の王がそこに座っているべきだろ!?」
「え、ええっ?」
大臣は自分に指を指されて、王はお前しかないだろと言われているようで、困惑していた。兵士達もホタルの無礼な行動に動こうとしたが、今は大臣と同じように困惑するしか出来ていなかった。
「ほ、ホタル様?」
「んー?」
アルエルも訳が分からず、エルメスは意味を理解していなくて、首を傾けるだけだった。その中でーーーー
「ガハハハハハッーーーーーー!!」
王である白虎は可笑しく笑っていた。無礼な働きをされたのに、何故、笑っているのか?
「お、王よ? どうしましたか?」
「戯けが。今までの人生でそんなことを言われたのは初めてで、つい笑ってしまったわい! どうだ、小僧の言う通りにお前が王をやってみんか?」
「ご冗談を! 私なんかが王座に座るには値はありません」
大臣の顔には王座に座りたいと思ったことがあっても、王にはなりたいとは思ったことはない。
獣人達にとっては、『王』は一番強い者がなるのに相応しい称号であるのだ。そこは帝国と似ているが、違う所は皆に認められている所にある。兵士だけではなく国民達にも認められた強さとカリスマ性を持っていることが、王になる条件である。
その厳しい条件を達した王がーーーーこの白虎である。
「だそうだ。残念ながら、小僧の言う百獣の王とやらは王座に座る気はないようだ」
「ガッカリだよ、お前にはガッカリだよ…………」
「なんで、私がガッカリされなければならないんだ…………いや! 小僧!! 王の前で叫び散らすとは何事だ!!」
ガッカリされたことに目筋をピクピクとしていたが、思い出したように王への無礼に怒りが湧いて怒鳴っていたがーーーー
「ガハハハッ、構わん、構わんよ。今までの奴らとは違う反応で面白い。よし、このまま話を続けるのを許す!!」
「王!?」
あっさりとホタルの態度を許されてしまい、大臣は驚愕の表情で王を見るが、王の言う事は絶対なので、反論は出来ない。
「今までの奴ら?」
「あぁ、対面を望んだ獣人やエルフがいたが、どいつも王だからか丁寧な言葉使いに態度でつまらなかったぞ」
「それが普通なのでは……?」
「それに、お前達は魔人と言うじゃないか。ダルグエアの鼻は種族を見破るぐらいには優秀だから、わかる。そうだな?」
「はい。元は人間だった者も混じっていますが、間違いなく全員が魔人です」
元人間はアルエルだけだが、そこまで見破ることが出来るのは侮れないなと思うのだった。
「魔人と戦ったことは何回かあるんだが、話すのは初めてだな」
「そうなのか? 俺達以外の魔人と出会ったことはあるが、話がわかる奴だったぞ」
「ふむ、攻めて来たなら拳で対応するが、対話で来る魔人がいたら話してみるのも悪くないな」
ホタルは魔人に対する知識が少なくないか? と思ったが、今はそんな話をするために来たわけでもない。
「王、話を戻しませんと」
「あぁ、すまない。お手伝いの件だったな?」
「それはダルグエアが勝手に言った奴な。それに、まだ自己紹介をしないのか?」
「おぉっ、忘れておったわ! ワシの名前だったな。その前に、種族のことを話しておこう。ワシの種族は見てもらっただけではわからないと思うが…………」
「伝説の存在、白虎だろ?」
ホタルは前世の記憶がある。何処までが同じかわからないが、見た目は完璧に白虎の獣人だとわかる。
「知っていたのか…………、もしかして、他の伝説の幻獣も知っているか?」
「うむ、朱雀、青龍、玄武とか?」
「なんと! 魔人はそこまで獣人の幻獣についてのことが知れ渡っているのか?」
「いや、そこまでは知らんが、ここまで詳しいのは俺しかいないんじゃないかな」
獣人は人間と獣の間で生まれたと、この世界にいる人間はその認識となっており、昔から下郎の存在だと言われていた。人や獣のどちらでもない存在、それが獣人。
実際は全く違っていた。
猿から人間になったように、獣が進化して人にも近付いた存在。それが、獣人だったのだ。
では、幻獣と呼ばれる白虎はどうやって? 元になるのは虎であるが、普通の虎は毛が白くならないし、白虎みたいにバランスが取れた強さに圧倒的な膂力はない。
白虎が生まれるのは、類稀な確率で神のイタズラと言ってもいいぐらいに、この世へ生まれるのは物凄く低いのだ。
そして、神のイタズラによってこの世界へ生まれたのが、獣人の王として、伝説の存在と呼ばれるーーーーーーーーーー白虎。
「ワシの名はタイガルド・ジェクトだ」
世界ではたった1人だけの白虎の獣人。獣人の王であり、他の幻獣が確認されてない今は、獣人の中で一番強い存在であるーーーー
王はテンプレの百獣の王ではなく、白虎でした!
次回にようやくお手伝いの内容がわかります!