99.トール・アディス
はい、お待たせました!
では、続きをどうぞー。
トール・アディス
そう呼ばれているのが、獣人の王国である。獣人の領地で一番大きく、ただ1人だけの王がいる王国。
他に街はあるが、それらは村の規模でしかなく、トール・アディスのように賑わいがある街は1つだけである。活気がある街に、獣人達にとっては異物である者が現れる…………
「ふーん、エルフの国とは違う自然を感じるな。む、煉瓦で作られた家か?」
「煉瓦? 煉瓦とはどういう物か知りませんが、アレは紅岩です。熱を長時間保持し続けることが出来、冬でも家の中は暖かいと言う」
「へぇ、全ての家が紅岩と言う材質で作られているのか。煉瓦よりも優秀だな」
「わぁー、暖かいよ!」
エルメスは初めて街に来たような反応をしていた。見た目が煉瓦のと変わらない紅岩が積まれて、イタリアの街みたいな雰囲気に似ていた。
イタリアのと違う所をあげれば、森と融合したような感じになっている所だ。紅と緑が調和して、アンティークのような雰囲気を醸し出していた。
ホタル達が住宅の環境に感心する中、民である獣人達はホタル達を訝しむように遠巻きから見ていた。
それも仕方がないだろう、人間やエルフにしか見えない者が観光をするように自然体で歩いているのだから。エルフはともかく、人間は獣人にしたら敵に等しい認識を持っている。
好戦的な獣人の冒険者や兵士なら、今にも襲いかかってしまいそうだが、人間の姿をした者がまだ子供と少女だったのもあり、困惑するしか出来なかった。
なので、しばらくは様子見をする者が多数だった。
ふむ? 獣人は好戦的だと聞いたが、ダルグエアがそうだっただけなのか?
街へ入った瞬間に、襲いかかってくることも覚悟していたが、周りは遠巻きに見るだけで、何もして来ないので、こちらが獣人に対しての認識が間違っていたのかと思うのだった。
とにかく、襲ってこないならダルグエアが出てくるまでは観光することに決めた。ダルグエアはこちらが街に来ていると知れば、すぐに会いに来るだろう。
「今は、観光でもしていようー。トール・アディスだっけ? ここに観光にピッタリな場所とか知らない?」
「すいません。国の名前だけは知られていましたが、内容まではわかりません」
「まぁ、そうだよな。人間は獣人の領地へ入れないしな。聞き込みをするか、自分で探すしかないか」
「あ、聞き込みをするならエルフのエルメスに頼んだ方がよろしいかと」
人間にしか見えないホタルやアルエルが聞いても、いい返事を貰えなそうなので、エルフであるエルメスが聞き込みをした方が良いのでは? とアルエルから案があった。
ホタルは無駄な戦いをするつもりはないので、その案は良いと考えた。すぐにエルメスへ頼もうとしたが…………その姿が消えていた。
「は? エルメスは?」
「え、あ! いない!?」
迷子になったのかと、慌てて周りを見回したが、すぐに見つかった。近くの屋台の側にいた。
「クマおじさんー、3つ頂戴ー!」
「え、あ、お嬢ちゃん? お金はあるのかぃ?」
焼き鳥を焼いていた熊の獣人は戸惑っていた。人間にしか見えないホタル達と一緒にいたのを見たのもあり、注文されたことにも驚いていた。
ここでの話だが、人間は獣人が作った食べ物を食べない。獣が作った物を食べるなんて、人間のプライドが許さない。などの、そういう思想を人間が持っていると、獣人達は思っている。
だから、目の前にいるエルフはともかく、あの2人が自分の焼き鳥を食べるのか?
だが、客として注文して来たので、お金を払うなら渡さなければならない。熊の獣人はお金を持っているのかと聞いてみたが、エルメスは悲しそうにふるふると顔を振っていた。
「お金はないの……」
エルメスの悲しそうな顔を見て、ホタルはため息を吐きながら、ポケットから小銭が入っている袋を取り出した。お金はアルエルと半分にしており、どちらかが無くしても大丈夫なように半々にしてあるのだ。
「3本で幾らなんだ?」
「えっと……90セルになります」
「お、何処も同じ銅貨を使っているんだな。ほい、90セルだ」
獣人の領地でも、同じ銅貨を使っていることがわかり、ホッとしていた。よく考えれば人間と違って、エルフは普通に獣人の領地へ入れるのだから、使う銅貨が同じなのは当たり前かと納得しながら、焼き鳥を受け取るのだった。
「ありがとうなのー!」
「あ、いえ。こちらこそ、お買い上げ、ありがとうございます」
「さぁ、食べるか」
パクッと焼き鳥へかぶりつき、味わう。タレが程よい辛さで、焼き鳥の本体を引き立てていた。噛むと、肉汁が舌を刺激して、蕩けるような旨さが広がった。隣でアルエルとエルメスも焼き鳥を食べていたが、顔が緩んでいた。
「美味い! なぁ、熊のおじさん。この焼き鳥は…………って、なんだ? その顔は」
「……はっ!? す、すまない、旨そうに食べてくれるとは思わなくてな」
「ん? どういう意味だ?」
「えっと……」
熊の獣人が思っていたことを話してくれると、ホタルは成る程と思った。
「余程、人間と獣人の仲が悪いんだな。アルエル、この話は知っていたか?」
「わかりませんが、貴族などは言いそうですね。帝国の貴族は無駄にプライドだけは高いので……」
「あぁいう馬鹿もいるんだな。これは美味いのになぁ。食べないとは、一生の損だ」
「美味しかったー!」
熊の獣人は自分の焼き鳥が褒められて、頬が緩んでいた。その様子を見ていた周りの人々も完全まではいかないが、幾らか警戒が緩んだような雰囲気があった。
少しは良い雰囲気になっていたがーーーーーーーーそれを壊す馬鹿が現れた。
「おおぅ! さっさと借金を払いやがれ、ブビー!!」
屋台の取り立てをする者が現れた。その人物とは、醜い身体をした、普通よりもぶくぶくに肥った豚の獣人とそれに従う馬の獣人だった。
ホタルは波乱の予感がしつつ、黙って成り行きを見ているのだったーーーー