閑話
この話の中で一番短い。閑話ですから。
その日の放課後も、奈流の部屋で見たのは洋画だった。
兵隊を題材にした映画で、その時代の厳しい現実が描かれている。
俺の意識はほとんど奈流にいきがちだが、その映画に、俺は思うところがあった。
物語の主人公は女スパイで、敵の隊に女隊員として潜り込むというものだった。
そして、主人公はスパイであることが疑われ、潜り込んだ先でハニートラップにかかってしまう。完全にスパイであることがばれた主人公は、逆に利用されそうになる。しかし、トラップを仕掛けたはずの敵隊員は、主人公を愛してしまう。二人は真の愛に目覚め、全てを裏切って逃走する。と、そういう物語だ。
けれど俺の引っ掛かりは、主人公と敵隊員ではなく、敵隊員とその上官だった。
敵隊員に主人公にハニートラップを仕掛けるように指示する上司と、上司の指示で好きでもない女を口説く敵隊員の関係が、どうも他人事とは思えないのだ。
いや、実際俺がやっているのも、似たようなものなのだろう。
エンドロールまで静かに鑑賞する、隣の奈流に目を向ける。
上官のために身を挺する隊員。
隊員は主人公と恋に落ち、隊から離れることで、上官の命令からも逃れられた。これは、そういうストーリーだ。
俺は、奈流を裏切るなんてこと、絶対しない。
これは俺の個人的でしかない考察だが、隊員は上官を愛していた。