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【本日のオススメは?】

少し料金はかかりますが、個室に出来る酒場があるという、元気な客引きのお姉さんの一声で、「農業研修」の御一行はそこで夕食をとることにしました。






"元気な接客をします!シノ"と、ネームをつけたお姉さんは、珍味に「虫の佃煮」があると説明すると、ウサギのぬいぐるみの耳が動いたように見えたのはきっと気のせいでしょう。





「お嬢さんがいるなら、やっぱり奥座敷がいいですよ」

そう言いながら、若い元気の良いお姉さんの店員さん――"シノ"はグランドール達を店の奥へと案内する。


「あ、でも誰か煙草を吸われます?」

案内しながら、シノは振り返り尋ねると、グランドールが煙草をしまっている、皮で作られたケースを取り出しましたが、

「ワシは吸うが、まあ子ども達がいるからこの席では我慢するかのう」

と、それを再び懐にしまってしまいます。


「うちの店、風の精霊と相性がいいみたいで換気の機能がとてもいいんですよ。

煙草吸うようだったら、卓に備えられているベルを鳴らしてくださいな。

直ぐに精霊を飛ばしますから、皆さん気兼ねなくお過ごしください。では、最初に飲み物を伺いますね~」

シノはそう言って個室を案内し、奥にグランドールとリリィ、入り口側にアルスとルイが座った。


「ワシは喉が渇いているから、大ジョッキで2杯貰おうか」

グランドールはピースサインをしてシノに言う。


「自分はこの店自慢っていう果実のジュースで」

アルスは卓上にあるメニューの一番上に書かれてあるのを見て言った。


ルイはメニューを眺めてから、うーんと声を出してからシノに

「炭酸がキツいのが飲みたいんすけど、ありますか?」

と尋ねると、店員は笑顔で、ちょっと考えてから、メニューの1つを指差した。


「これはどうかしら、柑橘系の酸味もあってパンチが効いてますよ~」

と自信一杯の顔で説明してくれた。

「パンチが効いてる……、んじゃ、オレはそれ!」

ルイは説明が気に入った様子で、飲み物を決め、シノは注文をメモに書き留め、次にリリィを見つめて、優しくにっこりと笑った。


「もしかしたら、お嬢さんは、こう言った場所は初めてかしら?」

「はっ、はい」

リリィがぬいぐるみを抱きしめながら言うのを、照れていると受け止めた店員のシノは、引き続き、優しいニッコリとした笑顔を浮かべた。


「うちの酒場は、治安はいい方だから安心してね。ただどうしても酔っ払う人はいるから、何か言われたらすぐ店員に言ってくださいな。で、初めてのお嬢さんにはお姉さんはこれがオススメかな?」

シノはリリィにメニューを開いて見せ、野菜とフルーツのミックスジュースを進めた。


「じゃあ、私はそれください」

リリィがそう言うと、シノはニッコリと満面の笑みを浮かべたと思ったら、大きく息を吸った。


「飲み物の注文承りましたぁ!」

いきなり大きい声を出したのだが、リリィだけが酷く驚く事になる。


「リリィは、やっぱり驚いたな」

ルイがニッと笑うと、元々勝ち気な少女はムッとする。


「あら、初めてなら誰だって驚くわよ。私はこの店では新人だけど、多くの酒場は、注文を受けた時に大きな声を出す事があるんですよ。じゃ、飲み物もってきますね。後、剣の安置場は奥の方にありますので」

"子どものケンカ"とりなしを説明をこなして、シノは個室を颯爽と後にした。


「―――いやはや、元気の良い店員さんだねぇ。グランドールもワシの分の注文ありがとうね」

ウサギの賢者は礼を言いながら、リリィの横に座り直し、早速メニューの珍味のコーナーを開いている。


「普通の酒で良かったか?」

グランドールは帯剣を外しながら、賢者に尋ねる。

「酒はその土地の地酒が一番さ。おっ、あったあった♪。グランドール、ワシはこの"珍味"で後は何でもいいよ~」

真横に座っているリリィに遠慮して一応「虫」と言う言葉を使ってはいないが、メニューを指差す。

ウサギの賢者は、虫料理を食べる気満々である。

リリィにしてみれば、「そこまで気を使うなら食べないでくれた方が有り難い」と言った表情を浮かべていた。

アルスは自分の剣を安置場所に納めてから、腰をおろし、ザッとメニューを眺めます。


「食堂じゃないからメニューも一品一品個別なんですよね。正直酒場は慣れてないから、どんな風に注文すればいいか」

「あれ、アルスさんて酒場いかないんだ?」

ルイがメニューの肉のページを開いたまま、意外といった感じで声をだした。


「自分は一応まだ未成年だしね。酒場は、先輩に連れられて2度ぐらいしかないかな」

「へえ~。オレはオッサンに付き合うから、結構夕食は外食が多いからなぁ」

ルイがそう言うと、グランドールは少し疲れた顔で笑った。


「ワシとしては、家でのんびりと晩酌ぐらいが嬉しいんだがのぅ。どうしても夜の付き合いが多くなる。家政婦さんを夜遅くまで使うのも悪いしなぁ」

「オレとリリィが結婚すれば、オッサンも安心して隠居出来るし、手料理も食えるだろ?」

ルイが肉メニューを眺めながら、何気なしに言うが、それはリリィを真っ赤にさせ、中年の1人と1匹を絶句させるには充分な言葉だった。


「リリィ、そうなの?」

ウサギの賢者が少し(悪ふざけで)円らな瞳を潤ませながら、リリィを見上げて尋ねた。


「違います!。ルイ、何でそうなんのよ!」

リリィは半ば立ち上がってルイの未来予想図を否定したが、少年はどこ吹く風でまだメニューを眺めている。


しかしグランドールはそれよりも別な事を心配したようで、

「じゃがのう、ルイ。ワシはリリィみたいな可愛い嫁は嬉しいが、この賢者が舅みたいなのになるとお前が相当苦労するぞ。そりゃ、"全世界を敵に回した方がまだマシだ"みたいなのぅ」

冗談だか本気だか解らない事を言って、リリィの頭を撫でて座らせた。


ウサギの賢者は不貞不貞ふてぶてしい感じを隠す様子もなく、

「ひどいなぁ、グランドール。まるでワシが、とっても意地悪みたいじゃないか」

と言うと、ピタリと動きを止めた。


「失礼しまーす!飲み物お持ちしましたあ!」

先程のお姉さんの店員―――シノとは違う、若い男の店員さんがドリンクのジョッキを抱えてやって来た。


「酒を2つに、ジュースが3つですね~!」

ドカッとドリンクのジョッキを卓の上に置き、それぞれに配膳する。


「お食事の方もお決まりでしたら、承りまーす!」

そう言って店員は前掛けのポケットから伝票を取り出し、ルイが待っていたとばかりに注文を始めた。


「え~と、じゃあ名物の鳥の肉の串盛りを4セット!」

「あっ、ルイ君ありがとう」

宿屋でアルスが食べたいと言っていたのルイは覚えていたのだろう、それを含めたメニューを注文してくれたのでアルスが礼を素直に述べた。


「まっ、旨そうだったから頼んだだけだから。気にしなくていいっすよ」

ルイはそう言いながら、メニューで顔を隠したならグランドールはニヤニヤとしながら弟子を冷やかす。


「相変わらず素直に、礼を言われるのが苦手じゃのう。後は適当に飯を付けてくれ」

メニューをしまい、店員さんに指示してグランドールが酒の入ったジョッキを手に取った。

店員が注文を承け、個室を後にしようとした時にリリィが慌てて店員に呼びかける。


「あと珍味の、む、『虫料理』とみんなで食べられるようなサラダをお願いします!」

「はい、承りました!」

店員は急な追加注文にも慣れている様子で、リリィの注文を書き留めて個室を後にした。


「―――別に無理に虫料理を頼まなくても良かったんだよ」

店員の姿が消え、ぬいぐるみのふりを止めたウサギの賢者が酒の入ったジョッキ手にしながらリリィに言う。


「いつも屋敷では我慢してもらっているのに、こんな時ぐらいはどうぞ、食べてください。ただ、私にはなるべくみせないようにしてください……」

リリィはほんの少しだけ引きつりながらも、笑顔でジュースが入ったコップを手にとりながら言った。


「何はともあれ、まずは乾杯しようぜ!」

ルイがジョッキを持ち上げた。


「"かんぱい"?」

リリィがキョトンとした顔で首をひねるので、ルイが目を丸くする。

「大勢でこういった酒を交えてする食事の時、皆でグラスやジョッキを軽くぶつけ合って、食事をお祝いする事を『乾杯』って言うんだよ」

ウサギの賢者もモフモフな手に酒が縁一杯に注がれたジョッキを持ち上げながら、事も無げにリリィに説明する。


「わあ、すっごくそれって楽しそうですね!」

賢者の説明にリリィは感動し、早速両手で抱えるようにして、ジュースの入ったジョッキを持ち上げた。


「あ、リリィ。片手で持った方が乾杯しやすいかも」

アルスがお手本を示すようにジョッキを持ち上げる。


「こうです、か?」

しかし、小さなリリィにはドリンクが入ったジョッキはかなり重たい。

産まれたての子鹿が立つように、ジョッキを掲げる腕をプルプルとさせている。


「アッハッハ、こりゃ早いとこ乾杯した方がいいのぅ」

グランドールがヒョイとジョッキを持ち上げて、乾杯を一同に促した。


「んじゃ、旅の初の食事にかんぱーい♪」

ルイが高くジョッキを掲げ、それにグランドール、アルス、がジョッキをぶつける。


「かんぱーいっ♪」

ウサギの賢者も器用にジャンプして、ルイのジョッキに自分ジョッキを軽くぶつける。


「かっ、かん……ぱ」

リリィは相変わらずプルプルと片手でジョッキを持ち上げて、皆のものとぶつけようと頑張っている。


「あ、リリィ無理すんなよ」

そう言って、ルイが立ち上がり自分のジョッキをリリィの持ち上げているものと軽くぶつける。


「あっ、ありがとう、ルイ」

リリィがそう言うと、他の面々もジョッキに乾杯、と進んでぶつけてあげた。


「乾杯、完了!」

そう言って、グビグビとルイはジョッキの半分まで一気にドリンクを飲む。


「うっはあ、ホントに炭酸がキツいや。でも美味い!オッサン、お代わりしてもいいよな?」

ルイがご機嫌な声をあげて、グランドールに尋ねた。


「お前がお代わりしないなんて事がまずはないだろうが」

グランドールはそう言って、ジョッキの酒を一気にあおり飲み干した。


「うん、こりゃうまい地酒だな。帰りにアルセンに土産にいくらか買って帰るかな」

グランドールが呟きに、長い耳をピピッと動かしたウサギの賢者もジョッキの半分くらい呑んでおり、ご機嫌そうだった。


「皆さん、ペース早いですね」

アルスは苦笑しながら、ジュースをゆっくり口に運んでいる。

「グランドールさまも賢者さまも、そんなに喉が渇いていたんですか?」

さらにゆっくりとミックスジュースを飲むリリィは、一気にグラスをあけるグランドールとウサギの賢者に驚いている。


「がっはっは、こりゃ酒が美味いと感じるもんにしか分からん感覚じゃからのう」

グランドールは好漢に、陽気さが加わった様に、笑いながら答える。

「久しぶりのお酒は効きがいいねぇ~。リリィ、ワシが眠っちゃっても忘れないでね」

賢者もそんな冗談を言ってご機嫌になっている。


「ウサギの旦那ぁ、酒が入りすぎてぬいぐるみの設定わすれないでくださいよ」

ルイですら呆れて、陽気にな酔っ払いとして仕上がりつつある中年の1人と、1匹に苦言めいた事を口にしてしまっている。

いつものリリィなら、敬愛するウサギの賢者に"失礼な口をきかないで!"とルイに言いそうなものだが、今回はルイに賛成のようで小さく顔を縦に振っていた。


「ルイ君、そんな事言わないで。ハメは外し過ぎない程度に、ハズすから」

と、ウサギの賢者はポフポフとルイ肩を叩く。

「出来ればハメを外さない方向でお願いします」

アルスは強くは言わないが、はっきりズバリと言う。


「もうアルス君たら、アルセンみたい~」

とウサギの賢者が言うと、またピタリと不動になり、その直後、個室の入り口を「コンコン」と叩く音がして、

「失礼しま―す、お料理お持ちしました~」

と最初に案内してくれたシノの声がした。


「待ってました~♪」

常時欠食児に近いルイが歓喜の声を出した。


「お待ちどうさまでした。まずは名物の串盛りです~」

「おおっ、美味そ~♪」

まだ湯気が立つ料理達は、充分に農業研修隊の食欲をそそった。


「ご飯はお任せと注文を頂きましたので、当店自慢の魚介と香草のパエリヤです。それと皆さんで頂けるような季節のサラダの大盛りと、秘伝の珍味です」

お姉さんは器用に両腕に料理が乗った大皿を抱えて、今度は卓の上に並べていく。


「珍味はどちらにおかれます?」

シノは一瞬だけリリィを見て、尋ねる。


「じゃあワシの側に。あとリリィ、ご飯食べる時ぐらいはぬいぐるみを離しなさい」

グランドールがそう言って、「ぬいぐるみ」をヒョイと掴み、リリィから離れた席に置いた。

シノは心得た様に、グランドールの側に珍味の入った器を置いた。


「空いたジョッキは下げますね。追加注文はありますか?」

シノは全ての注文を並び終えてから、尋ねる。


「オレはこのジュースと、オッサンは……」

ルイがチラリとぬいぐるみを見て

「のど渇いているって言ったから、また酒2杯か?」

「うん、そうして貰おうか」

店員のお姉さんは頷き、今度はアルスとリリィを見る。


「自分達はまだ良いです、ね、リリィ?」

「はい、『お兄ちゃん』」

普通に答えられて、リリィは実は心の中でホッとしていた。

そんなこんなで和やかに食事も進み、ウサギの賢者も店員が個室にくるたびに見事なぬいぐるみっぷりを発揮して、無事に夕食を一行は其々とることが出来た。

虫料理もグランドールがウサギの賢者とリリィを離してくれていたので、不快になった者もおらず良い夕食会になる。


「ちょっと、私、お手洗いに行ってきます」

殆どたいらげられた、食器をリリィが卓の端に片付けながら言う。


「トイレ?。リリィ、1人で大丈夫?」

アルスが結構深刻そうに心配な顔をして見るので、リリィは逆に驚いてしまう。

「トイレぐらい、1人で大丈夫。分からなかったら、店員さんに聞くから」

トイレの事まで心配されて、リリィは少し気恥ずかしくなりサッと個室を出た。

けれどもアルスが杞憂していたわけではない事を、リリィはこの後、体験する事になります。



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