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【誤解を呼び招く幕間】

ロブロウを訪れる為に、グランドール一行が一泊した宿場町に


「どこぞの金持ちが愛人3人を引き連れて、お忍び旅行をしている」


という噂が流れたのはルイが座敷牢に軟禁された翌日の夕方でした。



 「愛人とは失礼ですね。私を含めて、皆さん独身で陛下の密命だというのに」

アルセンはグランドール達が泊まっていた宿屋の同じ部屋で、少々心外だといった感じに腕を組む。

「それでも軍服で行動するよりは、私服の方がまだ目立ちませんから」

白を基調とした私服のリコが、取りなすように言う。

「にゃ~。でも金持ち発言はどこから来たのかにゃ~?」

一方こちらは、黒を基調とした私服のライである。

「アルセン殿とリコリスの服の仕立てが良いからな。

宿場街には服飾品に目が利く人もいるから、それで噂がたったんだろう」

そういった噂を仕入れてきた張本人、ディンファレは他人事のように言って、ロブロウまでの地図を広げて再確認する。

藍色の私服に身を包む彼女も、噂の中では"愛人3人"の内の1人らしいのだが、彼女が単独で行動する分には愛人には見えないらしい。

用事で1人だけで外にいた時、噂話を宿屋の入り口で噂好きのお節介やきな宿場街のご婦人が彼女を捕まえて、

『貴女も綺麗だし、この宿に泊まるなら金持ちに愛人にスカウトされるかもしれないから、気をつけて!』

と、わざわざ御注進までくれたそうだ。

「アルセン様。もしそう言った噂が嫌なら、私達は男装でもしようか?。幸いにも皆、サラシをまけば潰せて男装も出来る程度だ」

表情を微塵も変えないで、ディンファレがいう言葉にリコは慌て、ライは憤慨する。

リコはえ?え?戸惑いの声を出してとディンファレとアルセンを見比べて慌てる。

ライは、ワチシは発展途上にゃ~!と異議申し立てをする。

「ディンファレさんは、冗談を真顔で言うタイプなんですねぇ」

とアルセンが苦笑いしながら言うことで、何とかその場は収束させた。

ディンファレは半ば本気だったが、考えていたよりリコもライも動揺していた様子なので、"男装案"はあっさり引っ込める。

「では、これからの事を打ち合わせしましょう。

明日の午前中にはロブロウに到着して、任務を終えて王都に一刻も早く帰還せねばならない」

ディンファレは至極冷静だが、急いでいた。

本来なら彼女の任務は"法王ロッツ"の護衛。

細かい事を説明するならば、ディンファレの立場は

『王族としてのロッツの直属護衛騎士』

というニュアンスが強い。 

だから、法院の緻密な規則に縛られる事もなく、"ロッツの命令"があるなら法院派遣の護衛騎士より、幾分自由に動ける。

滅多な事がない限り、法王の側から離れない彼女だが、今回は法王直々に内密の命令と、昨晩遅くにロブロウからの報告で自ずから志願した。


当初は軍の仕事が一段落ついているアルセンと、護衛する王族達が連日会議で護衛騎士で溢れている宮殿にいるので、手が空いているリコリスとライヴの3名がロブロウに行くはずだった。

人選の理由は3人とも、農業研修の一行と旧知である事。

アルセンは「貴族(王族の血縁と言う意味合いも含まれる)」として、ルイが仕出かした『ロブロウ領主に抜刀未遂』に関して謝罪する為のセリサンセウム王国陛下からの使者の役割だ。

そしてリコリス、リコはそのルイを『診察』するべく王都から派遣される『治癒術師』の役割である。

王族の護衛騎士ではあるが、騎士隊に入る前に国の大学で『治癒術師』の資格も彼女は取得していた。

資格の持ち腐れにならないように、休日は無償で孤児院の子ども達の治癒をしたり、大学で新しい論文を読んだりしているので、その腕前は国からの折紙つき。

当初、この2人でロブロウに派遣しようと陛下が命令書を作成しようとしたが、偶然側にいた自分(国王)の護衛騎士に

『ロブロウまで遠いですし、宿場街で2人を端から見たら、新婚旅行のカップルですね』

と明るく言われて、国王陛下はピタリと命令書のサインを直前で止めた。

(もしもこの2人が付き合い始めるにしても、自力できっかけを作って貰いたい)

と陛下は考えた。

そして常日頃、親戚で友だちで少し年下でありながらも、しっかり者で、変装した時の国王陛下に、お小言をくれるアルセンに、"ささやかな贈り物"をしようと決意する。

命令書にリコリスのパートナーのライヴ・ティンパニー名前をアルセンとリコの『護衛騎士』として書き込んだ。

そしてその命令書を先程『新婚旅行みたいだ』と評した護衛騎士に見せてみる。

『確かラベルもティンパニーも王族護衛騎士隊じゃあ、綺麗どころですよね。

これは、アルセン様はちょっとした両手に華状態ですね』 

数日前に、丁度グランドールが魔法鏡越しに、アルセンの両脇にいるリコとライがいるのを見た際に評したのと同じ様に、国王の護衛騎士も"両手に華"と言う表現を使った。

それは同じ様に思い浮かんだのだが、第六感が働いたと言うべきなのか、"両手に華"ではアルセンに対して国王陛下からの"思い(ダメージ)"は、そんなに与えられないように感じられた。

("両手に華"じゃ、弱いか?。確か図書館でも3人で会っていたりするから、アルセンはこの組み合わせだと、周りがちょいと騒ぐくらいで、スルーしかねないな)

非生産的な策略を巡らしながらも、今日は脱走しない国王陛下に、護衛騎士はホッとしていると、部屋の入り口で王宮のメイドが頭を下げているのに気がついた。

護衛騎士は表情を少しだけ動かすと、メイドは察して要件を命令書とにらめっこしている国王陛下に述べる。

『法王様の護衛騎士、デンドロビウム・ファレノシプス様が、陛下にお目通りをお願いしております』

(ディンファレが勤務時間内には珍しいな)

護衛騎士がそんな事を考えて、国王を見ると、まだ彼は命令書と睨み合っていた。

しかし、ディンファレの正式な名前が長たらしいのを思い出し、且つ、閃いたと様子で書きかけの命令書から顔をビュンっと上げる。

『通してくれ』

『畏まりました』

メイドが直ぐに下がり、小脇に冊子らしき物を抱えたディンファレが入ってくる。

そこで室内が少し冷えたと護衛騎士が感じたが、理由はすぐにわかる。

ディンファレの後方には、精霊『氷の女帝ニブル』が付いて来ていた。

『その精霊がロッツから離れるのは珍しいな』

『ロッツ二頼マレタカラ、仕方ナイデショ』

国王陛下の質問に、ニブルはツンとして面白くなさそうに答える。

『詳細を省きますが、ニブルがいると風の精霊の力で会話を傍受されないので、ロッツ様に頼んで借りてきました。

そして、国王陛下に尋ねたい事と次第によっては私のロブロウへの、出張許可を頂きに参りました』

ディンファレが淀みなく、スラスラと事情と要求を述べる。

(愛想が良ければ、さぞかしもてるだろうに)

後輩であり、妻の幼なじみであるディンファレを国王の護衛騎士は口元に苦笑を刻みながら眺める。 

『ああ、丁度良かった。次第は知らんが俺もお前に、ロブロウまで出張を頼もうと思いついたところだ』

国王陛下はディンファレの言葉を聞くとニヤリと笑い、羽の付いた上等な筆を躊躇いなく命令書に走らせる。

そして、アルセンとリコの護衛騎士の名前にライヴ・ティンパニーとデンドロビウム・ファレノシプスの名前を付け加えた。

国王の背後に立つ護衛騎士には、その内容がハッキリと目に見える。

(こりゃ、見方によってはアルセン様は両手に華どころか、ちょっとした"ハーレム"だな)

振り返り、呆れてと驚きの顔を浮かべる護衛騎士の反応を確認するとに、国王陛下はご満悦になった。

『出張の許可有難うございす。それでは、実はこれについてお伺いしたいのです』

1つの要求がすんなり通り、ディンファレは頭を下げた。

続いて、次の要求をするべく、ディンファレは(ひざまづ)き、小脇に抱えていた古い絵本を献上する。

国王の護衛騎士が前に出て、ディンファレから絵本を受け取る。

(随分と古い絵本だ)

ディンファレから受け取った護衛騎士が自然に感じる程度に、その絵本は古かった。

しかし、同時に違和感も感じる。

国王陛下の護衛騎士を勤める程の男だ。

武だけでなく、それなりに勘も学もある。

絵本の違和感が何か気がついた。

(そうか。この絵本、古いことには間違いないが、ちっとも傷んでいない)

早くに結婚したこの護衛騎士には妻との間に、2人の愛娘がいる。

子どもの教育や遊びに絵本は欠かせないので、護衛騎士も休日に、愛娘達に読んでくれと、ねだられ読んでやったりする。

長女の時に買った絵本などは数年だけれども、愛着があって何度も読む内に、どこかしこが傷んでしまっている。

しっかり者の護衛騎士の妻は、絵本が傷むたびに台紙やカバーとなる端切れで治したり補強したりしていた。

しかし、愛娘達はそれを越す勢いで使い込んでくれるので、絵本はどうしても表紙の端が少しよれていたり、ページが曲がっていたりするものだと、護衛騎士は見て知っていた。

そして大層不可思議な絵本に護衛騎士は少しだけ興味を抱き、"高所の神の王様"という題名の絵本を国王陛下に手渡した。

国王陛下は絵本を受け取ると、懐かしむように表紙をに書かれた題名の文字を撫でた。 

『これは懐かしい。先代の王が、先々代の法王から貰った絵本だ。

内容が絵本だから、先代の王が、父上がロッツにあげたと記憶している』

『その絵本に関する情報を、陛下は存じ上げておられますか?』

ディンファレの問いに、国王陛下は首を横に振る。

それから国王陛下は自身で立ち上がり、ディンファレに絵本を返した。

『魔術に縁がある絵本だとは知っているが、それ以上はないな。

ただ俺は詳しくないが、バルサム姉さん―――パドリック公爵夫人と、専属の魔導師あがりのメイドなら恐らく何か、手がかりを知っていると思う』

国王陛下の言葉に、ありがとうございます、と言ってディンファレは深く頭を下げて、退室する。

退室したディンファレは、まずニブルを法王の元に帰るようにと指示する。

『ソンナ事イワレナクテモ、ロッツノ所二帰ルワヨ!』

と、憎まれ口を叩くニブルに"絵本を借りる事"と"ディンファレは直ぐにロブロウに出立する事"という伝言も頼んだ。

ディンファレが不在になると聞いて、氷の女帝は少しだけ怯む。

『アンタガ居ナクテ、ロッツハ"人"ノ生活ハ大丈夫ナノ?』

『周りがおたついても、お前がアドバイスしてやればいいだろう』

ディンファレが当たり前のように言うと、ニブルが溜め息を吐く。

大層冷たく感じられるニブルの吐息にも、ディンファレはお構いなしで帰り支度を始める。

『アタシヲ見タラ、皆、驚イテ世話ドコロジャナインダカラ』

ニブルがそう言うと、

『私の代わりに来る騎士に、驚かないように申し送っておくから。それでは、伝言を頼む』

ディンファレはニブルにそう告げて、王宮を後にする。

そのまま横に隣接されている軍隊の厩に行き、馬を一頭借りていると、王族騎士隊への一斉伝達の魔法の鳥が白く輝きながら、ディンファレの元に飛んできた。

ディンファレは慣れた仕草で、籠手を装備した腕を伸ばして魔法の鳥を腕に停まらせる。

魔法の鳥が、羽をパッと広げると空に風の精霊の力によって、緑色の文字が浮かぶ。内容は、王族の護衛騎士全体に伝えられているもので、ディンファレ・リコ・ライが出張で数日抜ける事。

その間の護衛シフト編成を整え次第、また報告を返す事だった。

ディンファレは馬に跨り、まずは近所にある護衛騎士の女子寮に戻る。

女子寮に戻り、一時的に厩に馬を預け、ディンファレの自室に戻ると、同室のミストが普段着で寛ぎながらシフト表を眺めていた。

彼女は既に一斉伝達の魔法を確認しているらしい。

『ディン、おかえりー。シフトどうするの?』

寮に残る唯一の同期であるミスト・ラングラーは、"デンドロビウム・ファレノシプス"という名前を最も短く呼ぶことが出来る唯一の女性騎士。

『ミスト、悪いが私の代わりにロッツ様の護衛になってくれないか?』

部屋に入るなり、自分のクローゼットを開いて旅行鞄をディンファレは取り出しながら、気の心のしれた同期に頼む。

旅行鞄を取り出すディンファレを見ると、予測出来ていたのかミストはディンファレのシフト表を取り出した。

そしてペンを取り出して、ディンファレとミストのシフト調整をシュミレーションしながら、旅行支度を続ける同期にミストは尋ねる。

『シフトは、まあ一週間ディンが出張に行くとしても、今は動けないから5日は私がつけるけれど。だけど、急な話だね。

私的にはロッツ様は全然大丈夫だけれど、ただあの氷の精霊さん、お世話しようとするとやたら冷たい視線をよこしてくれるんだけれど』

何やかんやいいながら、シフトはあっさり交代してくれる同期に感謝し、そしてミストの口癖である"~けれど"を拝聴しつつディンファレは順調に支度を進める。

『あの氷の精霊にはやたらめったら、威嚇をしないように言っておく。

だが彼女の"冷たい視線"は天然物だから、勘弁してやってほしい』

そう言ってから、ディンファレは身に着けていた軽装の鎧を外して簡単に分解して、旅行鞄に詰める。

ミストはディンファレがシフトの編成を自分に託し、準備が済み次第直ぐに旅立つとわかった。

『じゃあ、私はリコちゃんとネコちゃんの穴埋めをする娘達とシフト合わせをして、そのまま報告するから。

ロブロウのお土産は、日持ちする干し肉か竹細工が可愛いくて面白いらしいからよろしく』

出張先の土産の話をして、ミストはシフト表を持って部屋を出て行こうとする。

『ミスト、これから帰ってきたらマーガレット菓子店のケーキを食べにいこう』

ディンファレが準備の手を休めずにそう告げると、ミストは手をヒラヒラとさせて部屋を出て行く。

そしてのその頃には、ディンファレの出張の荷物の準備を終えていた。 

仕上げに私服に着替えて、護衛騎士隊の軍服も鞄に詰めた。

結構な大きさの旅行鞄を片手で持ち上げ、ディンファレは"絵本"を忘れずにまた小脇に抱える。

そして鞄を持って部屋の入り口行き、壁にかかっている行き先明示版の自分の札を"出張"の場所に動かした。

ツカツカと歩いて女子寮を出て厩に繋いでいた馬に跨り、"集合場所"となるであろうアルセンの屋敷がある貴族が屋敷を構える地域に馬を走らせる。

(リコとライに、連絡を飛ばさないとな)

ディンファレが女子寮に帰った時点では、リコはライ帰っている様子はなかったので、すれ違う確率が高い。

馬を走らせながら、片手で魔法の(いん)と風の精霊を宿らせる依り(よりしろ)となる魔符(まふ)を器用に取り出し、

『寮に帰り次第、仲間とシフトを合わせて、シフト調整の協力に感謝し、ロブロウ出張の準備を終えた後に、パドリック中将のお屋敷に集合する事。

服は私服だ。早馬の手配は私がしておく』

そう伝達を唱えて、魔符を放つと緑色の蝶となって飛んでいく。

次に軍専用の魔符を取り出して、"早馬をパドリック中将の家まで4頭準備して欲しい"旨をかけて飛ばす。

これは"紙飛行機の形"となって飛んでいく。

(相も変わらず、軍隊だというのにふざけた依り代の形だ。まあ、早いが)

それは軍の演習に参加しない代わりに、軍の利益となる魔道具を納めるとして、ウサギの賢者が考案して造った軍専用の魔符だった。

そうこうしている内に、アルセンの屋敷にディンファレは辿り着いた。

かなりの急ぎで来たので、馬が興奮しており、停まる際には(たけ)りの声を上げてしまっていた。

パドリック邸に配置されている、衛兵は猛スピードで馬が駆けてきたのもあるが、哮る声をあげて自分が担当する屋敷の前で停まった事に仰け反ってしまっている。

『驚かせて済まない。もう直ぐ、軍から早馬が4頭到着するので、そうしたらこの()を返してあげて欲しい』

ディンファレが軽やかに馬から下りて、王族護衛騎士隊の腕章を取り出して見せ、衛兵に馬の手綱を渡す。

衛兵は荒々しく馬に跨り現れた美しい女性に驚き、それが噂に聞いた事がある法王専属護衛の女性騎士、デンドロビウム・ファレノシプスという事にまた驚いた。

『それから荷物の見張りも頼む』 

女性の騎士は片手に絵本を抱えながら、細腕一本で馬に乗せた大きな旅行鞄を持ち上げて、衛兵に差し出した。

女性が普通に扱うように、旅行鞄を持ち上げていたのですっかり自分にも持てると"誤認"した衛兵は、受け取った瞬間によろめき荷物の重さに驚き、短い時間の間に4度もディンファレに驚かされた事になる。

『大丈夫か?。済まないが急いでいるので、失礼する』

カッカッカッと整地されたパドリック邸の入り口へ向かう道の途中で、1人のメイドが恭しく頭を下げてディンファレを待っていた。

そのメイドの側で可愛い小型の犬が1匹、尻尾を振っている。

『シュガー、久しいな』

嘗ての同期にディンファレは語りかけるが、シュガーが"召使い"の立場を崩さない。

『デンドロビウム・ファレノシプス様、お久しぶりで御座います。

バルサムお嬢様とアルセン様が、お屋敷の中でお待ちになっております。

陛下からの御依頼も承り、調査の報告の準備も出来ております』

淡々とそう述べ頭を下げたまま、ディンファレをパドリック邸へと促す。

ディンファレはそれに従い、入った。

魔導師としてこの国ではトップクラスだったシュガーが、軍を去った詳しい理由をディンファレは知らない。

ただ彼女が魔法が得意なある貴族に啖呵を切って、貴族が侮辱されたと軍会議を起こす前に、"魔導師"の免状を返還して軍から姿を消したというような噂を話を、話好きな女性騎士から聞かされた事はあった。

(シュガーはハッキリとした人だから。いつか、気が向いた時に話してくれるだろう)

シュガーの犬の使い魔が、彼女の足元で愛らしく小さな尻尾をはちきれんほど振りながら、行儀よく彼女に随行している。

使い魔にも、宿主の性格や心情が反映される事をディンファレは知っている。

だから、使い魔の犬を見て

(シュガーは、"今"はバルサム様のメイドである事で充実しているのだな)

と心の中で"同期"であるシュガーの幸せを喜んだ。

『こちらの部屋でお嬢様とアルセン様は、お待ちでいらっしゃいます』

シュガーが頭を下げ、手である部屋の扉に案内した。

そこは僅か1ヶ月前、アルスはニブルから殺されかけ、リリィは攫われた客間(サロン)だった。

そしてディンファレがニブルをパドリック邸に送り込んだ張本人だと、シュガーは気がついている。 

ディンファレは扉を自分の手で開こうと、豪奢なドアノブに手をかける。

ドアを開いて案内するまでが、シュガーの本来の仕事である。

だがシュガーは"氷の精霊による客間の襲撃"によって、自分の主バルサム・パドリックが巻き込まれた事に怒っていた。

『今度、"お嬢様"を巻き込む事態を作ったなら、ディンファレでも許さないから』

シュガーは表情は崩さず、だが感情はありったけを込めてドアノブを掴むディンファレに忠告する。

『大切な人を巻き込んだ事は謝る。済まない』

ドアノブを掴んだまま、ディンファレは視線も動かさず、シュガーに詫びる。

しかし、ドアノブをグルリと捻って開く直前に

『だが、私も大事な人の為なら形振(なりふ)りは構っていられない』

と宣言して客間へと消えた。

このディンファレの対応に、シュガーはクスリと笑った。

『ディンファレは、いつまでもディンファレか。

さっ、パティシエのマーガレットさんが"お土産"を準備して持ってきてくれるから、厨房に戻ろう。コハク』

アンアン!可愛い声をあげて応じ、尻尾を振る犬の使い魔コハクを連れて、シュガーは厨房へと軽やかな足取りで戻って行った。


『ディンファレさん。国王陛下、ダガーちゃんに頼まれた事を調べておいたわよ』

扉の向こう、一新された客間でも、バルサムは相変わらず、貴婦人として気高く存在している。

『パドリック公爵夫人。ご協力、有り難いです』

バルサムは礼儀正しく頭を下げて、協力の感謝をする。

しかし、次の瞬間に大きく溜め息をついた。

優雅な扇を開いて畳むという、ディンファレからみれば可愛らしく見える仕草をしながらバルサムは告白する。

『ディンファレちゃん、ごめんなさい。

(わたくし)頑張って調べたのだけれど、"高所の神の王様"の絵本については、題名しかやはり分からなかったの』

三十路半ばのアルセンの生母であるハズのこの女性は、肌質・雰囲気や声、外見にだけに区切れば20代半ばにしか見えない。

アルセンの見合い話や、彼の恋人志願者の貴族や富豪の令嬢はまず彼女の外見に怯む。

息子に受け継がれた美しいブロンドに、可憐で清楚で容姿に、令嬢達の一部はまず引き下がる。

まれに容姿とガッツに自信がある令嬢が、アルセンとの結婚を目指して頑張るが、社交の場でバルサムに出逢うと撃沈してしまう。 

社交界で彼女の側に集まるのは、大体が僧侶や貴族議員といった高名で位が高い。

その取り巻きに令嬢の父親の上司だったり下手な振る舞いを見せられない相手ばかりで、そこで容姿とガッツに自信がある令嬢は引き下がる。

本当に稀に、その全てのハードルを飛び越えて、アルセンとバルサムに近付きになろうとする令嬢もいた。

アルセンは紳士として、懇切丁寧に令嬢に接する。

バルサムも彼女なりの"コミュニケーション"で接するが、令嬢達はここで挫折する。

バルサムは貴婦人でもあるが、この国最高の学問を納めた、溢れんばかりの魔力を持った魔導師でもある。

会話の端々に溢れる魔力に惹かれ、"魔"に属するものが興味をもち、姿はないが彼女に近寄る。

たまにではある溢れた魔力を自分の物にして、具現化してしまう"魔"もある。

そうやって具現化した"魔の者"は、魔なりの親愛の証拠として"イタズラ"しようとする。

バルサムは慣れているが、"魔"に属する物のイタズラは、普通の人間の生活を送る者には(たち)が悪すぎる物が多い。

それは知られて欲しくなかった、過去の過ちや失敗の姿をお茶会のティーカップの水面に映像として浮かべられたり、鏡に映る自分の姿が首なしだったり。

そういったイタズラに接して、折角アルセンとバルサムと近づいたのに逃げ出さなかった令嬢は今の所いない。

『誰だって、多少後ろ暗い過去があっても当たり前なのにね』

去って行く令嬢の後ろ姿を眺める度に、バルサムは可愛らしくしか見えないため息をつくのであった。

そう言った逸話を持ち、一般の魔導師からすれば溢れんばかりの魔力と、一線を画する知識をもったバルサムでも

《高所の神の王様》

については題名しか分からないと言う。

ディンファレは抱えていた小脇から、絵本を取り出して改めて両手に抱えて見つめた。

『では、絵本の現物をみたならいかかでしょうか。バルサム様なら、何かに気がつかれるかもしれません』

『そうね。拝見させて頂くわ』

バルサムに絵本を渡すと"あら、もしかして……"というバルサムの声と同時に、客間のドアをノックする音が聞こえた。

『母上、入りますよ』

アルセンが私服で、旅行鞄を片手に入ってきた。

『お邪魔しております』

ディンファレがアルセンに頭を下げる。 

『ああ、デンドロビウム・ファレノシプス殿ですね。貴女とは、ご無沙汰してます』

私服姿のディンファレにアルセンは一瞬、母が気に入ってつれてきた見合い相手かと考えてしまったが、自分の早とちりと気がついて苦笑する。

前回あった際には、彼女の部下の"実戦の練習相手"として盛大にアルセンは利用されたので苦笑が中々引っ込まない。

バルサムは絵本を見ながら、息子が中々苦笑いを引っ込めない様子を察して、密かにディンファレを進めてみようという考えを早々に引っ込めた。

そして再び絵本に目を向けて酷く切ない表情を浮かべ、見つめる。

懐かしむように、絵本の最後のページを眺めながら、息子に確認の言葉をかける。

『アルセンさん、ロブロウで処罰された貴族の人数は4人よね』

左様(さよう)です、母上』

息子の言葉を聞いて、そう、とバルサムは絵本を閉じた。

それから絵本を胸に、ギュッと力強く抱きしめる。

『ディンファレさん、"今"の私はこの絵本について語れます。

ただもうこの機会を逃したのなら、"私は恐らくはこの絵本と関わることができません"。

何より甚大な魔力を消費する事なので、出来れば迅速に一度で済ませたい』

『承知しました』

本当なら、リコやライが到着して一緒に耳にしたい内容であるが、バルサムはこうやっている間も、どうやら魔力を消費している。

そしてバルサムの魔力を吸い上げているのは、"高所の神の王様"の絵本。

バルサムが無理をすれば暫く堪えられるだろうが、それはディンファレがシュガーをまた"裏切る"事になる。

(リコとライを待つ余裕は、ないな)

『心して聞きます、バルサム様お願いします』

『私も胸に刻み込むように覚えておきます。母上どうぞ』

ディンファレが凛として言ったのに続き、アルセンも母親に向かって誓う。

バルサムは、少しだけ体を震わせながら、乾いてしまっている小さな唇を開く。

『この絵本は"高所の神の王様"。ある神様がこの世界にいた時の証明であり、"影"なのです』

『影ですか』

ディンファレが尋ねると、バルサムは小さく頷く。

『神様は、神様の世界を旅しにきた人にある提案をされて、それを受け入れました。詳細はわかりませんが、人の提案に乗る事である事を止めてしまいました』

『神である事を止める?』

ディンファレとアルセンが、顔を見合わせ、互いの眉間に、縦の皺を刻んでいた。

『神さまは神を止める事は受け入れましたが、

"神さまであった事を忘れられる事"だけは許しませんでした。

そこで人は、証拠を記すために、絵本を作りました。

どんな幼い子どもでも、受け入れる事が出来る絵本に自分の存在の"影"を落としたのです。

それが、今、私が抱き締めている絵本です』

(俄かには、信じられないような話だな)

ディンファレは息を呑みつつ、そんなことを思わず考えてしまっていた。

だがどうやら、バルサムが語るのはこの世界での事実らしい。

『母上、答えられたらで構いません。どうして、その絵本の神様は"忘れられる"事を受け入れなかったんですか?』

アルセンの質問に、不意にバルサムの瞳が潤む。

その瞳に、涙が溜まるのがアルセンにもディンファレは見て取れた。

そして遂に溢れ出る涙の一雫と共に、語り始める。

『神様は、ある2つの事を待っていました。

1つは、消えた(ともがら)を。もう1つはある"人"を』バルサムはそこで大きく息をつく。

『輩の方は人ではないようですね』

息をつく間にアルセンが声をかけると、ディンファレはそれに同意するように頷いた。

息をついているバルサム―――この国を代表する魔術師に今度はディンファレが尋ねる。

『良かったらお答え下さい。涙は、いったい誰を思ってのものですか?』

『これは、また今、現在において、同じ苦境に身をおいている"あの人"の為の涙です。この"高所の神の王様"が再び出会えるのを待ち続けている、人の為の涙。

気が遠くなるような年月を、絵本として待ち続けました。

そして数十年前に一度、嘗て神だった"高所の神の王様"は、旅人の提案を受け入れた時の姿で、この世界に召喚されました。

契約通り、"理不尽に踏みにじられた4つの命を犠牲の上"で』

そこまで言うと、バルサムは崩れ落ちるように椅子から前のめりに倒れそうになる。

そこを素早くアルセンが駆け寄り、バルサムを抱き留めた。 

バルサムは無事に息子によって抱き留められたが、絵本はスリルとバルサムの体から滑り落ちる。

落ちた勢いの反動からか、絵本はクルクルと回転しながらディンファレの足先にコツンとぶつかり止まった。

『アルセン様、バルサム様は?』

跪いて絵本を抱え上げながら、ディンファレが尋ねるとバルサムはアルセンの腕の中で薄らと、瞼を震わせながら開く。

『母上、大丈夫ですか?』

アルセンに尋ねられても、バルサムはポカンとしている。

『私は、どうしたのでしょう?。そして、私は何をしていてこんな風に抱き留められているのかしら、アルセンさん?』

バルサムの身体に異常はなさそうだが、意識はどうも朦朧としているらしい。

『母上、覚えていらっしゃらないのですか?』

未だにバルサムの身体を抱き留めたままのアルセンは、視線をディンファレに向けた。

ディンファレが絵本の表紙だけを見せると、バルサムは首を傾ける。

『"初めて見る絵本"ですよね、アルセンさん?』

バルサムの言葉に、アルセンは軽く狼狽する。

一方、自分を気遣う息子にお構いなしに、バルサムはアルセンの手をもどして、自身で体を起こして椅子に座り直す。

コンコン

そこで、客間をノックする音がして、貴婦人の記憶の消失に上手く言葉が出ないアルセンとディンファレの代わりに、バルサム自身が応える。

『どうぞ、お入りなさいな』

『アルセン様、ディンファレ様。お連れ様が、御到着になりました』

シュガーが扉を開き入ってくると、私服のリコとライが後ろに立っていた。

『ああ、来たか。急な出張だが、よろしく頼む』

はい、にゃ~とリコとライが答えたの聞いてから、シュガーがバルサムの前に進み出て、伝言を伝える。

『お嬢様、先程"お嬢様から"の伝言を賜っております。今、お嬢様に伝えてもかまいませんでしょうか?』

謎かけのようなシュガーの言葉に、軍人4人は顔を見合わせる。

しかし、バルサムには十分に意味が通じているらしい。

『ああ、アルセンさん達が落ち着かないのは、そのせいなのですね。シュガーさん、先程の私からの伝言をお願い』

『畏まりました、お嬢様』

恭しく、バルサムに向かってシュガーは頭を下げる。

『それではお茶にしながら、詳細をお話いたします。

お嬢様の魔力がごっそりと記憶を絵本に奪われたのを理由を、マーガレットさんお手製のザッハ・トルテを皆さんで、頂きながら説明いたしましょう』

シュガーがそう言うと、客間の扉をマーガレットがお茶の一式を乗せた台車と共に入って来たのだった。


「記憶と魔力を奪う、昔の神様の存在を証明する為の魔法の絵本か」

ロブロウの地図の確認を終えて、ディンファレが少し険しい顔をしながら言うと、リコが心配そうに敬愛する同性の上司を見つめる。

そして、ロブロウの宿屋に"高所の神の王様"の絵本は、ライとリコそして、シュガーの3人がかりで施した魔術の紐によって一時的にその"威力"を弱めて、魔力の高いアルセンが(ふところ)に置いて持っている形になっていた。

「にゃ~。待っている人の為に忘れられないように絵本の形をしている筈なのに、

"絵本の形と記憶を維持する為に"、

絵本の身辺にあるものから、内容の記憶と魔力を吸い取る、

なんてよくわかんない話にゃ~」

シュガーによる"記憶を失う前のバルサムの伝言"は、正にライが呆れながら言った内容だった。

「でも、バルサム様は国王陛下から情報を伺っただけで、前もってこの事態を察知しておられて、シュガーに伝言を頼んでおかれた。

やはり、並みの魔導師とは"格"が違うな」

ディンファレが感慨深いと言った様子で喋った。

「そうやって母上を誉めて頂いて貰うと、息子としても嬉しいですねぇ」

その言葉にアルセンは苦笑する。

どちらかと言えば、"変わり者"で有名な母親が正当な理由で誉められるのが何だか、嬉しいのだがこそばゆくアルセンには感じるらしい。

一連の上司たちのやり取りを見て、リコが思わずクスリと微笑みを漏らした。

「アルセン様、何だか可愛いですね」

それからハッと気がついた様に、リコが見渡すとライが親指を立てて、ニカッと笑っている。

《リコにゃん、天然やっちまったにゃ》

敢えて他3人も聴こえるテレパシーで、ライが言う。

「もう!ライちゃん!あっ、あのアルセン様、可愛いなんて失礼な事を言ってしまって申し訳ありませ」

ん、とリコが言う前に、アルセンが口元を抑えて笑いをこらえている。

リコの天然ボケは、アルセンの笑いのツボにヒットした。

同僚の女性騎士達が羨む白い肌を、全体的に朱色に染めてディンファレに助けを求めるように見つめる。

後輩の視線に気がついたディンファレは、少しだけ考える。

そして、キリッとして口を開いた。

「女性騎士を男性騎士が"可愛い"というのが、迷惑な行為だと倫理議会で出た事はあった。

しかし、その逆は聞いた事がないから、別にリコが謝る事はないのではないのか?。アルセン様も、気にしていらっしゃらない様子だ。

リコリスの中で、アルセン殿は可愛い殿方で良いのではないかと、私は思う」

ディンファレの言葉に、一瞬救われたような表情をリコはしたが、

《あれ?何か違うな?って違うよね?》

と、ライにテレパシーを飛ばす。

《こりゃ、収束不可能な事態に発展したので、ワチシはノーコメントにゃ~》

ディンファレは決して間違った事を言っている訳ではない。

訳ではないのだが、どうも論点がかなりぶっ飛んだ位置になってしまっていた。

当のアルセンは、腹黒いのとフェミニストである事は自負しているので、笑いを声に出す事でリコが困る事がわかっていたので、噴き出すの堪えていた。

ただ堪える為に、腹と口を押さえ込み両肩をブルブルと震わせてはいるという、明らかに笑いを堪えているのが明瞭な姿であったが。

「おこんばんわ~」

そんなリコが照れて困る雰囲気に呑まれている中、宿屋の部屋に響いたのは4人の軍人以外の声。

その声を聞くと、笑いを我慢しようとする努力をする事なく、アルセンから笑いの衝動がスッと引く。

「ウサギですね。どうしたんですか?」

先程までの様子が嘘みたいに、アルセンが冷静な声で今はまだ声だけの、ウサギの賢者に呼びかける。

「あれ、さっきまで何か楽しそうな雰囲気だったのに」

そんな声と共に、黄金のカエルが空中に現れてライの頭の上にポテリと着地する。

「にゃ~。カエルさんは嫌いじゃないけど、お風呂入る前で良かったにゃ~」

ライは頭にウサギの賢者の使い魔である黄金のカエルを乗せるのに、すっかり慣れた様子である。

「ライさんや。もっと早くくれば、凄く楽しい場面に出逢えたのかな?」

「そうだにゃ~。可愛いリコにゃんを拝めた事は、確かだにゃ~」

使い魔から発せられるウサギの賢者の軽口に、ライは楽しく付き合ってくれる。 

「貴方に弱みを見せたら(ろく)な事がありませんからね。

貴方が出てきた時点で、私は冷静になれますよ」

アルセンが至極当たり前の事のように、使い魔のカエルに言う。

「人の良いアルセン様にそこまで言わせるなんて、ウサギの賢者様いったいアルセン様に何をしたんだにゃ~」

ライが頭上にいる黄金のカエルを、ツンツンと突っつきながら尋ねる。

「う~ん。ワシ的にはどっちもどっちなぐらいな事をアルセンとワシは互いに、やっていると思うんだけどな~。

どっちかと言うと、割を食うというか貧乏くじを引いてくれているのはグランドールかなぁ」

使い魔のカエルの言葉に、アルセンが目に見えてムッとするのが女性陣にはわかった。

「貧乏くじをひいてくれている相手に遠慮なくズケズケいうのが、私が貴方に腹を立てる要因になっているのが、何度言っても理解出来ませんかね」

衣服に深いシワが刻まれるのも構わず腕を組み、アルセンは少し頑なになっていた。

「確かにズケズケは言っている自覚はあるけれど、グランドールは頼られる事が好きだって自認してるじゃない?」

「それは私も知っていますが、貴方は加減が昔から―――」

アルセンがそこまで言って言葉を止める。

ディンファレは興味深げに、リコは先ほどまで朱色に染まっていた顔色を、白にもどし心配そうに、アルセンと黄金のカエルのやりとりを眺めていた。

ちなみライは、"野郎のケンカには興味ないにゃ~"といった感じで頭に使い魔のカエルを乗せていながらも、うつらうつらとし始めている。

「どうぞ、続けて下さい。声を荒げるアルセン様は珍しい。

それに、英雄同士の討論は非常に興味深いので、是非とも拝見したい」

ディンファレが真面目な顔で、討論の続きを希望する。

「これは討論だったんですか?!」

リコはディンファレの言葉に驚きの声をあげた。

「にゃ~。ワチシには"なかよし大農家のオッチャンに対する接し方の頻度と遠慮"

についての口喧嘩で、ウサギの賢者様が図々しくて、アルセン様が遠慮しすぎみたいに感じたにゃ~」

どうやらライが、一番状況を把握し、且つ理解している。

「お見苦しい所をお見せしました」

アルセンが組んでいた腕を(ほど)き肩をすくめて、チラリとライの頭上にいる使い魔をチラリと見た。 

「ワシも調子乗っちゃって悪かったね。この話はまた酒でも飲みながらしようか。

アルセンも本調子じゃない時にからかってごめんね」

本調子ではない、という事に感づいたのはさすがウサギの賢者と言うべき事らしい。

ライは頭上のカエルを上目で見て、

「アルセン様、本調子ではないにゃ?」

と尋ねると、カエルは短くゲコとだけ鳴いた。

「一応、優秀な魔導師3人がかりで封印の魔法をかけたんですけど、貴方にはわかりましたか」

アルセンがそう言いながら、(ふところ)から例の絵本を取り出す。

「にゃっ?」

ライが声を出したと思ったら、彼女の頭上から黄金のカエルはジャンプする。

「きゃっ」

ジャンプして前を通り過ぎる時、リコに小さな悲鳴をあげさせてしまったが、カエルはアルセンの肩に無事に着地した。

「まあ今回は偶然だねぇ。ワシも研究の一貫で、その絵本と似たような代物にであったから」

使い魔のカエルは喉をクツクツとアルセンの肩の上で鳴らす。

「貴方も微量ですが使い魔を通して吸われているみたいですが、いいのですか?」

「まあこういう時ぐらいしか、恩返し出来ないしねぇ。

ロブロウでは、どうも調査だけでは済みそうにない。

即戦力となる"人"には少しでも、体調をよくしておいて欲しいのさ」

カエルの瞳がギョロリと動いてアルセンを見つめた。

実際、ロブロウでは王都からの農業研修だったもののはずが、領主交代の噂がチラホラと出始めたらしい。

一方、セリサンセウムの王都は王都で、表立ってではないがロブロウの一件は結構な問題になっている。

内密に大問題となっているのは、大農家グランドール・マクガフィンの補佐としてのアルス・トラッドと"リリィ・トラッド"が一般人として、"不慮の事故"として落命しかけた事。

リリィ自身も知らない事だが、彼女は法王ロッツの実の娘で、現国王の姪でもある。

諸事情があって、リリィの存在は一般の貴族や王族にすら伏せられた状態で、ウサギの賢者が後見人として面倒を見ているのが現状。

ロブロウで暗躍する(やから)も、まさか国王の姪の命を奪いかけたことなど思いもよらないだろう。

問題を起こしたいロブロウの輩にはリリィが、"重要人物"などと考えは及ばない。

だから王都からの"一般の客の付き添い"として、これからも外交問題になりそうな事故や襲撃にが、利用される可能性が非常に高い。 

王都からすれば"重要人物"でも、対外的には"事故に巻き込まれやすい子ども"としての存在。

そんな問題が起こるとは農業研修の一行は予想してはいなかったが、当初からリリィの護衛としてルイをつけていたが、彼は軟禁中の身となってしまった。

農業研修を建て前とする以上、あからさまな護衛を新たに王都から派遣するわけにもいかなかい。

しかし、ルイが騒動を起こしていた事が災い転じて、"謝罪の使者"として、リリィに対して十分な護衛の役割を果たせるアルセン、ディンファレ、リコ、ライがロブロウに向かう事が出来ていた。

しかも、アルセンに素敵な誤解がつきそうな国王陛下選抜メンバーでもある。

そして、ロッツが見たという予知夢や、何か因縁がありそうな絵本。

"高所の神の王様"がロブロウへと向かおうとしている。

「アルセンや、女性騎士の方々がロブロウに到着すれば、もう心配する事態は起きないと思うのだがね」

使い魔を通したウサギの賢者の声は、幾分重たい。

「そんなに気になるなら、禁術を解いてリリィさんを貴方が護れば良いじゃありませんか」

アルセンはそう言って、手近に置いてあった小箱からマーガレット手製のトリュフを取り出して、自分の口へと1つ放り込み、もう1つを取り出し、それは使い魔のカエルの口に差し出す。

使い魔のカエルは遠慮なく、パクリとトリュフを食べた。

「やはり、マーガレットさんの作るお菓子は素晴らしいね。絵本に吸い取られた以上の魔力が、十分に補充出来たよ」

アルセンの問いには答えず、使い魔のカエルを通してウサギの賢者は、トリュフを褒め称える。

「マーガレットさんに今回の事態を掻い摘んで話たら、是非とも強力したいと、魔力を補うのに適したお菓子を沢山作ってくれたんです」

リコが微笑みながら説明すると、

「あれはリリィちゃんも心配するのも、確かにあるけれど、他の気持ちもプラスされているに違いないにゃ~」

ニヤリとしながら、ライが自分の意見を付け加える。

「ああ、確かあの菓子職人の少女は、ウサギの賢者殿の護衛の新人兵士に好意をよせていたな」

ディンファレによる身も蓋もない説明に、氷の精霊のニブルがいきなり来たのではないかと言うほど場が冷えた。

「一応農業研修の主要メンバーで、リリィの兄の役目をしているんだから、アルス君の名前を覚えてあげて欲しいなぁ」 

冷え切った空気の中、使い魔のカエルが、アルセンの肩に鎮座してディンファレにしみじみとお願いした。

アルセンもアルスは可愛い教え子だったので、使い魔の発言には激しく同意だったので、無言で何度も頷いていた。

「リコにゃんの天然を更にグレードさせたのが、ディンファレ様にゃからにゃ~。

何はともあれ、マーガレットちゃんからあの"新人兵士君"宛てにクルミのクッキーを預かっているにゃ」

珍しくライが話を軌道修正して、(くだん)のクルミクッキーを荷物から取り出して使い魔のカエルに見せる。

「クルミの効能は抗魔」

マーガレットさんは、アルス君が魔法系が不得手なのを知っているんだね」

少しだけ驚いた様子の使い魔の声には、アルセンが苦笑して説明する。

「マーガレットさんは、アルスのファンクラブ会員でしたからね。

"恋する女の子"達の諜報力は、軍も驚くくらい凄いんです」

一応新人兵士の訓練中は、社会とは遮断された生活を送っている。

いるのだが、僅かといっても過言ではない演習や試験等で軍から出た際に"軍人好き"な御婦人から"チェック"されている現状がある。

そして、御婦人は自分ではチェックをせずに"プロ"の情報屋に金を払い、報告させていた。


情報屋は、せっかく仕入れた情報であるし、御婦人にも対して口止めをされていないので、それを民間の情報のチラシを扱うに店に売った。

チラシ屋も冗談半分で、情報屋が持ってきた新人兵士の話題をチラシに刷って城下で撒いたら、これが予想外に人気が出たたのだった。

"思った以上の金が取れる!"

チラシ屋と情報屋が自然とタッグを組む形になり、"新人兵士"の情報は旬の食材みたいにこの国の春名物になっていた。

そして一般市民に、新人兵士達の情報は流れた。

一方、新人兵士達は外とは遮断された生活をされているので、そんな事態になっているなんて知る由もない。

中には入隊する以前に御婦人方が、新人兵士達について黄色い声をあげているのを耳にしている入隊者もいたが、いざ入隊したらそれどころではない。

徹底した管理下におかれ、厳しい訓練に、合格点が出るまで講義を受けさせられる学科。

生意気盛りの思春期の青少年達は、今までの生活が一変する、軍の生活を叩き込まれて、まず自分の事で手一杯となっていた。 

ただ軍隊に所属すれば、教育及び訓練中での軍施設内の衣食住は保証してくれる。

兵士の最終試験に合格するまでは、微々たる給与も国から出される。

そう言った金銭面の理由で、行く宛のない孤児院出身者や、親に苦労をかけたくないという孝行者が軍に希望して入隊してくる事が多くあるのが現状。

必然的に生意気盛りではあるが面倒見が良かったり、若者とは思えぬ責任感があったり、何より我慢強い者が軍隊には集まった。

新人見習い兵士達は前述したような若人(わこうど)ばかりなので、教える教官側も大変教え易い。

偶に腕白な新人見習い兵士もいるが、正式な軍人にかかれば力業で抑えてから、説教をする事は容易である。

教官達にすれば、熱心な見習い兵士に教える事は仕事であり苦労はするけれど、充実感が伴う。

また不器用な見習い兵士が、見習い兵士なりに努力する姿を垣間見たりする事は、教官達の胸を打つものであった。

だから、無闇やたらに訓練の外出先で御婦人方が、懸命に仕事を覚えようとする新人見習い兵士達に対して騒ぐ事に 、教官達はかなりの苛立ちを覚えていた。

苛立ちを覚える理由は、きっと教官達自身も、良い言葉で例えるなら"恋"の恐ろしさを知っているからだろう。

新人見習い兵士達は、見習いの内に徹底的に"軍隊生活の基礎"を体と頭に刻み込んでおかないとならない。

ここで学んでおかないと、教官職につかない限りは、丁寧に学べる機会がもうない。

配属先では"出来て当たり前"な、新人兵士しか認めては貰えない。

教官達は、教え子達が配属先で困らないように、献身的に教授する。

しかし幾ら献身的に教えても、もしも教えられる側に"やる気"がなくなったらそれまで。

そして、まだ短い軍の学校での歴史のなかで、見習い兵士達の"やる気"を削いだ理由で代表的にあげられるのは、"恋愛"なのである。

それは見習い兵士に限らず、教官側にもあてハマるので始末が悪い。

まず新人兵士を募集する前に、教える為の教育部隊を軍の中で編成するに当たって、教官になる軍人の個人面接が行われる。

教官となった軍人には、給与とは別に"教育手当"が時給で幾許かつく。

幾許ではあるが半年の教育期間が終わった後に、まとめて渡されるので、

"(ちり)も積もれば山となる"

で結構な額となる。 

その"山となる教育手当"を、結婚資金に当てようとする教官志望の若手の軍人も多い。

教官の仕事は、見習い兵士達の基礎訓練が終わる半年間、衣食住を共にするものでかなりハードである。

仕事がハードであるが故に、体力のある若手の軍人が教官を志望するのは教育部を編成する側としても有り難い。

有り難いのだが、大体の志望者が"結婚資金"の為にというぐらいなのだから当然、"恋人"がいるわけである。

そしてその恋人が、障害となるわけであった。

結婚したいという程の恋人だから、それは熱々なカップルなわけで。

それが"教官の仕事"が決まれば、半年間は会えなくなる。

見習い兵士達といる期間は、休日は本当に体を休める為だけの休日だったり、遅れている見習い兵士の補習を手伝ったりと、プライベートは殆どない。

しかし、教官をしている軍人の方は、コミュニケーションは豊富で、疲れはするが充実している。

問題は"待ってくれている恋人"。

誰だって、真っ当な理由があったにせよ待たされるだけは、あまり良い気はしないだろう。

"結婚資金を貯める為の恋人の留守"

と、頭で理解出来ていても、寂しいものは寂しい。

まず2ヶ月ぐらいで少し、こじれる教官と恋人がいたりした。

教官の恋人が仕事をしていたりすれば良いのだが、如何せん「結婚の為」に稼ぎに行っている。

だから、恋人の方は"花嫁修行"と一度家庭内に止まり、家事全般の練習に励む傾向が王都では意外に強い。

その理由は"子ども"にあった。

結婚に当たってはセリサンセウム国に関しては、特に表立った制約はなく、結婚する両者が互いにオーケーならは国の役所に届を出せば認められる。

ただ子どもに関しては、この国は厳しい傾向がある。

妊娠をしたなら、まず男女共に講義を聴かねばならず、そして課題も配布される。

最終的には産まれてくる赤ん坊の為に、必要最低限の知識と理解と技術を得ているか、試験が用意されていた。

試験内容は、個人的に受ける種類もあり、妊娠前という事関係なく、独身でも受験可能なものがある。

ある意味、独り身であっても試験に合格しておけばいざ結婚する時にはスムーズに話が進みやすいので、親が合間を見て就職したての我が子に受験させる事も多かった。

そして教官の恋人達が"花嫁修行中"に大体励んでいるのが、この試験の課題なのである。

選択的に"子どもはもうけない"夫婦なら良いが、大体の結婚に望む恋人は"いずれ子どもを授かりたい"と考えている。

子どもを産みたいと考えているとなると、試験の内容はグッと増える傾向にある。

試験の仕組みも特殊になり、結婚した者限定での試験で、その合否判定も、夫側・妻側と基本点数を取る事と夫婦2人の合算で決まる。

夫婦互いに基本点さえとれていれば、後の合算点で例えどちらかの点数が低くとも、片方が高ければそれで合格も可能。

そしてどうしても、教官と恋人との場合は恋人の方に、基本以外の試験への点数負担が多くなってしまう。

最初は"夫となる人が結婚の為の資金を半年間で稼いでくれるから、私はその間に支度をしよう"と頑張るのだが、如何せん"孤独"なのだ。

そして明暗が別れるのが、教官として軍にいる恋人から充実していて楽しそうな手紙が、待っている方に届いた時にある。

アルセンは手紙に関していえば、例題になるような出来事を2件記憶している。

落ち着いた中堅の軍人と若く体力のある若手の軍人、両者とも"恋人との結婚資金を貯める為に教官になった"という事が共通していた2人の手紙。

見事に反応が違っていたのが、印象深かった。

それはアルスが丁度見習いとして、教育部隊にいた時期の話で、アルセンが座学の教鞭を終えて、教官室に戻った時に遭遇した出来事だった。

教官室に入ると、中堅の軍人が自分の作業机でニコニコとしながら届いたばかりの手紙を眺めていた。

平素あまり人に興味をもたないアルセンが、少し見つめてしまう程の良い笑顔である。

それが"手紙に関していえば、例題になるような出来事を2件"の一件目であった。

中堅の教官はアルセンが見つめている事に気がつくと、シャンと背筋を伸ばして顔を引き締めた。

しかし、その引き締めた顔と微笑んでいた顔のギャップが激しくて、アルセンはかえって噴き出してしまう。

何気なしに、どうして良い顔をして微笑んでいたかのかアルセンが尋ねると、中堅の教官は先ほど読んでいた手紙を差し出した。

読んで良いのか?と尋ねると、再び良い笑顔をして頷くのでアルセンは遠慮なく拝読させて貰う。 

【貴方からの手紙読みました。

忙しいそうですけれど、あなたは充実している様子で何よりです。

貴方が資金を貯めている分、私も結婚の為の勉強をあなたの分まで励んでおきますね。

でも、余裕があったなら少し試験内容に目を通しておいて下さい。

結婚は貴方と私の、2人のものですから】

アルセンは"思いやり"と"小さな甘え"がおりこまれた手紙の内容に、中堅の教官と同じように微笑んで、ご馳走様ですと一言述べた。

その直ぐ隣で、もう1人の教官の仕事をしている若手の軍人が、やはり届いたばかりの手紙を読みながら、盛大にため息をついていた。

手紙を見せた中堅の教官と、アルセンが顔を見合わせる。

その教官軍人は、教育部隊の中でも一番の若手で体力もあるので、体力的に優秀な見習いを受け持っていた。

そして"手紙に関していえば、例題になるような出来事を2件"の内の2件めの手紙の主であった。

1つ特筆しなければならないのは、中堅の教官も若手の教官も恋人に出した手紙の内容はほぼ同じだった事である。

同じ内容だったというよりは、手紙に書ける話題が

"教官の仕事"と

"忙しいけれど、見習い兵士達と毎日訓練で充実している"

ぐらいしかなかったのが正直な所。

隣に座る中堅の教官が、少々荒れ模様の若手の軍人に声をかけると、彼が読んでいた手紙をグイと差し出される。

(同僚同士とはいえ、非礼のない年上に対する態度ではありませんねぇ)

アルセンがそんな事を考えていると、当の中堅教官は気にする様子もなく、手紙を読み始めた。

『アルセン様も、どうぞ読んでください』

一応かなり上官であるアルセンには、若手の教官は敬語で読むこと進められる。

このまま立ち去ろうと考えていたが、それも出来なくなったアルセンは進められた手紙を中堅の教官から受け取る。

中堅の教官は

『懐かしい感情です』

と穏やかに言いながら、アルセンに手紙を渡した。

『おや、これは』

アルセンは読んで思わず苦笑してしまう。

文章はよく覚えていない。

何故ならきっと書いた主であろう、若手教官の恋人も落ち着いては書いていないのが如実に伝わるほど、文章がまとまっていなかったからだ。

それは紙に綴られる文字にも映し出されており、やたらインク文字の"ハネ"や"抑え"がダイナミックだった。

ただ字がとても綺麗なので、ある意味

"味のある文字の羅列したデザイン"

にも見えたりと、アルセンは変な関心を抱いていたりする。

文字への関心を一旦心の隅に追いやり、何とか拾い読みをして、手紙の内容をアルセンなりに解釈すると、概要はわかった。

【私は独りで貴方と結婚の為に準備や勉強をしているのに、沢山の人と楽しそうな手紙なんて送ってこないで!】

大まかな内容は、上記のようなもので、アルセンは手紙を読み終えても特に意見がないと言った感じで、若手教官に手紙を返す。

何も言わないアルセンに少しだけ、若手教官は動揺して、小さな声でスミマセンと何故か謝る。

普段から冷静な印象が強いアルセンが(下らないものを見せるな)とでも思ったのと、考えたらしい。

『?。謝られる意味がわかりませんね』

アルセンが思わず口にだすと、中堅教官がとりなすように若手教官の肩に手を置いて励ます。

『アイツが心配しないように、楽しい事を伝える手紙を書いたのに』

若手がまるで弱音を吐くように呟いた。

(成る程、彼女さんに気を使って手紙を書いたのに、それが全くの裏目に出てしまったわけですね)

アルセンが言葉には出さず、手紙に関する流れを察した。

中堅教官が若手教官の肩に置いた手をパンパンと2回ほど、軽く叩いて励ます。

『お前が、寂しがりやの彼女さんを心配させまいって、楽しそうな手紙を書いたのは知ってるよ。

彼女さんは、ハードで有名な教官の仕事につくお前の事を本当に心配して、し過ぎたんだろうな。

だから"楽しい"と感じられるの手紙を読んだの同時にホッとしたんだよ。

それで沢山の仲間がいると聞いて、"寂しさ"が溢れ出てしまったんじゃないかな』

『俺、アイツは不安にさせてしまいましたかね』

視線を落として若手教官が言うと、中堅教官がう~んと考えるように呻いた。

『手紙は寂しくはさせたでしょうが、不安はこちらの教官が言うように、貴方の彼女は払拭出来たと思いますよ。

貴方のへの不安が取れた分は、それは良いことではないのですか?』

アルセンがサックリと言うと、若手の教官は改めて気がついたように明るい顔をするが、直ぐに小さく頭を横に振る。

『不安がなくなっても、アイツを寂しくさせてしまっています。

寂しさは、手紙だけじゃどうにも出来ませんから』

その言葉に、中堅の教官が再び苦笑した。 

『そりゃ、仕方ないよ。お前達はまだ熱々のカップルだからな。

こっちは交際期間が十年近いから、相手が俺の仕事を十分に知っているからな』

『俺だって、アイツにちゃんと教官の仕事について説明しましたよ!。

アイツも"じゃあ、私は私の準備を頑張っているね"って笑ってたんですよ』

中堅教官の言葉に、最初こそは勢い良く言い返していたが、最後の方になるにつれて、若手教官の声は小さすぼむ。

『どうやら頭で理解出来ていても、実地になると中々難しいのは軍の訓練も恋愛方面も同じ様ですね』

このアルセンの言葉には、若手・中堅の2人の教官が笑った。

笑った2人を見て、アルセンが再び言葉を続ける。

『さて、ここで1つ提案です。

寂しいは取り消す事は出来ないかもしれませんが、共感してあげる事は出来るのではないのでしょうか。

だから共感してあげたらいかがです?』

キョトンと表現するのが一番似合う顔を、2人の教官がする。

キョトンとした教官の2人を前にして、アルセンは更に続ける。

『そもそも貴方の彼女さんは、"自分が居なくても、平気そうで楽しいそうな手紙をよこした恋人"に憤慨していたんです。

だったら、"逆の状況の恋人"なら安心させる事が出来るのではないのですか。

私には貴方の恋人が、『恋人がいなくて寂しくて、つまらない』というのを共感して欲しいように見うけられます』

はあっ、と中堅の教官が察した様子の声をあげた。

『そこら辺が、同じ気持ちであって欲しかったわけですね』

中堅教官が言うと、アルセンが頷いた。

『じゃあ、俺がアイツに会えなくて"寂しくてツラい"って手紙を書けば良いって事ですか?。でも、それって嘘をついた事になりませんか?』 

『ええ、そうなりますね』

あっさりと"嘘"を肯定するアルセンに、若手教官は少しだけ怒りを孕んだような瞳の色をする。

『確かに嘘は感心出来ないが。

でも、確かにそういう手紙でお前の恋人の"寂しさ"は多少解消される事はあると、私も思うよ』

アルセンを擁護(ようご)するように、中堅教官がいうと若手は信じられないと言った感じで、口を小さく開いた。

『自分を信じてくれる人に嘘をつくのに、罪悪感は感じないのですか?』

少し上下関係を見失いそうになりそうな若手教官は、半ば噛みつくようにアルセンと中堅教官に言った。 

『感じますよ、罪悪感。自分がついた嘘の罪悪感で、大切な人の不安が濯がれるのはダメですか?』

再びアルセンがあっさりと言う。

こうなると若手教官はアルセンが何を言いたいのか、解らなくなってくる。

雰囲気だけで、若手教官が苛立っているのが伝わってくる。

若手の苛立ちの様子に、こちらは若干呆れてた雰囲気になりながら、アルセンが口を開いた。

『私の古い友人が、ある理念を持って、たまに嘘をついていました。

"誰も傷つかない嘘なら、遠慮なくつく"。

ただ"誰も"の中に、嘘をついた当人は含まれていません。

嘘をついた事で、出来た矛盾は全て自分で背負い、嘘をついた相手が決して悟られないように努力しました。

それ程、嘘をついた"相手"が大切だったからです。

言い換えるなら、

"大切な相手が安心できるなら、自分が抱える罪悪感ぐらいなんだ"

って話しですかね』

『大切なものの為に、罪を背負うです、か』

若手教官がそう言うと、違います、とアルセンが注意する。

『アクマでも背負うのは"罪悪感"。"感"ですよ。

罪なら、罪を償うように仕向け、促すのが大切な人としての役割です』

仕向けるとアルセンが言いかけた事に、中堅教官が思わず吹き出した。

アルセンがコホンと小さく咳をして、誤魔化していると若手教官がスクッと立ち上がった。

『売店に行って、便箋買ってきます。で、手紙書いて、速達で届けて貰います』

どうやら若手の教官は恋人の為なら、責任を取る嘘をつく覚悟はあるらしい。

パッと立ち上がり、教官室を出て行った。


「恋が色んな事に支障を来すのは良くわかりました」

アルセンの話に納得するようにリコが頷く。

だが納得しかねる部分もあったらしく、アルセンに更に尋ねた。

「それで、その若手さんは手紙を出した事で、落ち着いて職務に専念できたのですか?。

教える側がそんな事に気持ちを捕らわれていたなら、見習い新人兵士さん達は良い迷惑ですよ」

職務に対して勤勉なリコらしい言葉に、アルセンは気を良くしながら頭を横に振った。

「にゃ~。落ち着かなかったにゃ。でも、ワチシは何となくわかるにゃ~」

遠距離恋愛真っ只中のライが、仕方がないと言った感じ声を出す。

「でも、ライちゃん。見習いさん達は教官さんの教え方次第で、これからの軍生活を左右されるのよ?。

確かに結婚や一生の伴侶になる方は大事な事かもしれない。

けれど、これからの人生を左右するかもしれない学生さん達の間に、持ち込むべき事ではないわ」

リコが厳しく言う言葉に、誰も反対はしない。

一生を左右するかもしれない修学に、他人の恋愛事情で疎かにされては確かにたまらない。

「ええ。先ほど認めた通り、改めて送った手紙でも収拾がつかなくなりましてね。

教育に一度だけですが、不手際がありました。

だから、全くリコさんが言った通りと似たような事を、若手の教官に訓告しました。彼の恋人を、密かに呼んでね」

「にゃ~?!。一緒にお説教したにゃ?!」

アルセンの言葉に、ライが黒く艶やかな癖っ毛をザワリと猫のように逆立てて尋ねる。

「一緒にはお説教をしたと言えば、したんですかね?。

部屋を分けて、若手教官が私から厳しい訓告を受けている姿を、若手教官からは気がつかれないようにして、恋人に姿を見せた、とはどう例えれば良いのでしょうか」

殆ど説明してしまっているのに、アルセンは真顔で女性騎士3人に尋ねてくる。

「そのアルセン殿の言葉で、十分状況はわかりました。その口振りだと、効果はあったようですね」

女性騎士の代表としてディンファレが答えると、アルセンは頷いた。

彼が頷いた事に、ライが少しだけ悲しそうな声を上げる。

「にゃ~。でも若手さんの恋人さんが、ワチシにはちっと気の毒だにゃ~。

だって民間人にゃ?。

しかも軍隊方式なんて知ってはいるかもしれないけれど、見たことなんてにゃいんじゃない?」

「はい、それはライさんが仰る通りです。

軍隊生活になれれば、腹から出た声の気迫なんかは当たり前なんですが、所謂"普通"の生活を送っている方には、かなり驚くみたいですね」

若手教官がアルセンの本気で訓告・叱責を受ける姿に、恋人はすっかり肝を冷やしたらしい。

「本気のアルセン様なんて、恋人さんは生きた心地がしなかったでしょうね」

リコが自分の白い頬に手を当てながら、心底同情する。

「何だかリコさんの意味深な発言に、オジサン少しドキドキしちゃう」

アルセンの肩で使い魔のカエルが呟く。

「にゃ~。ワチシも同感にゃ」

ライも猫のような目になって、興味深い様子でアルセンとリコをキョロキョロと観察する。 

「どうしてこう、270度くらいひん曲がった捉え方と、火の立ちそうにない話題に油を注いで風を送って、サラマンダー(火の精霊)を放り込んで、山火事が起こすようにしか見えない受け取り方をするのか、私には理解しかねます」

アルセンが使い魔の額に軽くデコピンを食らわせ、少しだけ視線を鋭くしてライを見返した。

リコはまた自身の天然の発言に耳まで白い肌を朱色に染めて、黙ってしまっている。

「ああ、そうか。リコは一度だけアルセン殿と手合わせして貰っていたな。

確かにアルセン殿と対峙したのは半端ではない驚きと、恐怖だっただろう」

ウサギの賢者やライの反応を、まるっと無視してディンファレがしみじみと言う。

ディンファレが無意識でしてくれた軌道修正を、アルセンは有り難く受け取る。

「元々、"誰かが悪い"って話でもないんです。

ただ、気持ちや感情に振り回される日常の中で、あまり余った感情落としどころが、わからなかっただけだと私は考えています。

そして若手教官の恋人は、丁度その時期に、その相手が若手教官しかいなかったんでしょうね」

だが、恋人も激しく叱責される若手教官を見て初めて、話は聞いていたが、軍隊の過酷さを目の当たりにしたらしい。

そして、若手教官が責任を持って教育しているのはまだ多少幼いが、軍隊で生きようと決めている少年達の基礎な事もわかった。

「実際に目にしないと、どうしても納得も理解も出来なかっただろう。

その後は、どうしたんですか?」

ディンファレが尋ねると、アルセンがニコリと笑う。

「例の中堅教官の恋人さんに、ご助力をいただきました。

立場が同じという事なら、一番共感出来るのはやはり性も同じ方だと思いまして。それに」

少しだけアルセンが言い淀む。

リコとライは言い淀むアルセンが珍しいらしい。

"?"とクエッションマークを頭上に浮かべる、そんな中ディンファレが瞳を閉じて片手を上げた。

「私は結婚適齢期は確かに少々過ぎてはいる。しかし、今の所私は仕事が一番大事です。だから、そう言った"結婚"関連の話をしてもセクハラとは受け取りませんから、どうぞ話を続けてください」 

まるで宣言するようにディンファレが言い終える。

どうやらディンファレの言葉は、アルセンの気遣いを的中していたらしい。

「余計な気を使わせてしまって、すみません。貴女はそういった事を気にしない"人"とは、わかっていたのですが」

アルセンの感謝よりも『気にしない"人"』という性差を感じさせない表現に、ディンファレは気を良くしたらしい。

彼女は再び口を開いた。

「なる程、アルセン殿がそう言う仰り方をなさるという事は――――。

結婚適齢期に安定した職種の若手教官と、結婚を前提とした、付き合いをしている恋人殿は、同性や同年代の友人から軽く妬まれもしていたんだろうな。

若手教官の恋人殿は、"幸せであろう"という同性からのレッテルも、言われたりしたのかもしれない。

殿方が考え及ばぬ以上に、恋人殿は追い込まれていたかもしれんな」

気を良くした女性騎士による、独断の予想の"語り"は見事に的を得ていたらしい。

尚且つ、正直男性では言い辛い事もディンファレが代弁してくれたようなものなので、アルセンは惜しみない拍手を、彼女に送っていた。

「お見事です」

アルセンはそう評した後に、中堅教官の恋人が、若手教官の恋人から聞き出した色々な事実を更に付け加えて説明する。

曰わく

「結婚する人は違うわね」

と言った軽いイヤミから

『貴女ばかりが子どもに関する試験を請け負って大変でしょう?。

彼氏さんは、貴女にばかり負担を負わせて何も感じない人なのかしら』

と、一見心配しているような言葉でありながら、若手教官の恋人の不安を見事に煽るものなどあったらしい。

そう言った言葉を、嫁ぐ支度をする為に家に篭もっている若手教官の恋人を、"息抜き"としてわざわざ城下のカフェテリアに呼び出してしていたとも。

また、アルセンや中堅教官がアドバイスした手紙で確かに若手教官の恋人の気持ちを沈静化させたと考えられていたのも、"女性側"には見事に揚足(あげあし)を取られていたと知った時には、男性陣はゾッとした。

寂しさを共感する手紙に、初めは若手教官の恋人も大層喜んだらしい。

"同じ気持ちを共有出来ていた"

そして、それを例のごとくカフェテリアに彼女を呼び出した"女友達"に話してしまった。

"貴女の恋人さんは、そんな手紙がかけるほど、気が利いた人だったかしら。

もしかしたら、女の上官にでも、アドバイス貰ったんじゃない?" 

「うにゃあ~」

ライがいつも上がっているチャーミングな口元を、珍しく下げてげんなりとした顔をした。

リコと言った当人のアルセンも、表情は暗かった。

だが、ディンファレとアルセンの肩に留まる黄金のカエルは無表情だ。

カエルは単に外見が両生類の為かもしれないが。

「"私の両親は死んでいません"」

不意に、ディンファレがそんな事を言うと、視線が集まった。

そしてディンファレは、最初に目があったリコに、どう思う?と尋ねた。

「え?確かに、ディンファレ様のお父様は御健在でいらっしゃいますよね。

それが如何されたのですか?」

リコの言葉には、ライが驚きつつも先ほど下げていた口角を上げて何時ものチャーミングな口元で、言葉を発する。

「にゃ~。ワチシには"お父さんもお母さんも死んでるからいない"みたいに聞こえたにゃ!」

「なる程、どちらにもとれてしまう言葉になるから、解釈がやっかいになりますね」

リコ、ライの"答え"で、アルセンはディンファレは何を言わんとするかが気がついた。

そして、"恋人の同性の友人の発する言葉の曖昧な意味"にも気がついた。

「今はもう片付いた出来事ですが、私の解決アドバイスは(いささ)か外れていたかもしれませんね」

アルセンの顔に苦味が走る。

「まあ、ここにいる皆軍属だからなかなか"気がつけない"のは、仕方のない事かもしれないねぇ」

使い魔のカエルが口を開いた。

「賢者殿は、最初から気がつかれていた模様ですね」

ディンファレが薄く笑う。

苦虫を噛んだような顔のアルセンの肩に鎮座する、使い魔のカエルはクツクツと喉を鳴らしてから口を開いた。

「何、ワシが気がつけたのは偶々"軍隊"が嫌いだったからさね。

それにアルセンも言っていたじゃない。

"誰が悪いわけじゃない"って。

それは本当に、それで"真実"だとワシは思うよ」

多少、先に結婚する友人に嫌みや妬みがあったのも事実だろう。

しかし、

"友人の恋人は、そんな手紙がかけるほど、気が利いた人だったかしら?"

と長年の付き合いの友人だったなら、当然気がつくような、疑問でもある。

友人は、若手教官と恋人の間を壊すつもりで(はか)ったような発言をしたのではない。

"謀ったようにも取れてしまう発言をした"が多分、一番正解に近い。 

人は就学したり就職したならば、その場の"ルール"が大体の生活の基準となり、時間を配分して毎日を過ごす。

軍属ならば"長期勤務"ザラにある。

たが、一般的には

"半年間仕事で恋人に全く会えない"

のは

"普通ではない状況"

という事を軍属に所属して、当たり前になっていたアルセンやリコやライは軽く失念していた。

そして、ふと簡単に想像してみる。

"もしも、親友が恋人がいない間1人ぼっちなら、自分はどうするだろう"と。

「にゃ~。確かにワチシも、もしもリコにゃんがお嫁さんになる支度の時に、旦那さんになる人が長い間いないとかになったら、お勉強の合間にお茶に誘ってしまうにゃ~」

「私も、多分そうするわね」

リコとライは互いに見つめ合って、微笑んだ。

"恋人の代わりにはなれないけれど、少しでも寂しさを「私」で埋めてあげよう"

「私は帰ってから、あの人達に謝らないといけませんね」

アルセンが少しだけ気落ちした声を出した後、使い魔のカエルはニジニジと今度は彼のサラサラとした豊かなブロンドヘアーを登る。

「不安を煽る発言をするかもしれない友人と半年だけでも、距離を置くように助言するとは。私も至りませんね」

使い魔のカエルがブロンドの頂上についた時には、盛大にアルセンは落ち込んでいた。

「私はそこまで失策とも思いません」

ディンファレが腕を組ながら、アルセンが落ち込む事を"否定"する。

「若手教官も恋人も、"恋"の気持ちが悪い方に暴走しかけていた。

現に支障がでたから、少し注意をなさった。

そして恋人の友人が、励ます気持ちがあって悪気がなければ何を言ってもいいという事が、とおる事でもない。

しかし、どちらかと言えば、友人よりもまだ"恋人気分"で結婚に乗り出したら、スタートが上手く行かなかっただけの話しにも見えます。

教官でもこれだけ"恋"に(わずら)わされるんです。

アルセン殿達の、見習い新人兵士達から"恋"を、教育期間中だけでも遠ざけていたのは正しいと思いますよ」

ディンファレの言い方は極めて冷静で、見方によって冷たいとも言われて仕方ない。 

だが税を払って、その見返りに守って貰う民間人にとっては、ディンファレの言葉は当然として受け取られるかもしれない。

「いやはや、人の気持ちは見えているようで、全く見えないからやっかいだねぇ。

しかし、もしかしたら、この"恋"の話が上がっている時にちょうど良かったかもしれない」

「どういう意味ですか?」

アルセンの頭上にいるカエルを見上げながら、リコ尋ねる。

カエルがピョンとアルセンの頭上から飛び降りて、空を泳ぎながらリコの目の前に止まる。

いつもなら軽く悲鳴を上げるリコだが、何故だか今回はそう言った気持ちになれなかった。

カエルが何故だかカエルに感じられず、聡明で賢い、それこそ"賢者"と形容される者にしか感じられなかった。

そして"賢者"が口を開く。

「多分ね、今、ロブロウでは色んな目的の算段で溢れかえっているんだよ。

そしてその根底にあるのは"恋"の話なんだよ。

とても、とても古い恋で誰もが忘れてしまいそうなほど、昔にあった恋」

「恋、ですか」

リコが引き込まれるように、使い魔からではあるが"賢者"の雰囲気に呑まれる。

「そう。だから、リコさん。

貴女の力が必要だ、"恋に一番近いようで、一番遠い心"そんな心を持った、貴女の才能が」

リコはカエルの姿が黒い影のように広がり、1人の"人"に見えた瞬間、ゆっくりと気を失って座り込むように倒れるのを、駆け寄るアルセンによって支えられた。

次の間には使い魔の姿は、忽然と消えていた。




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