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【幕間と男3人の部屋】

客室には魔法鏡が備えられてあり、王都のアルセンからグランドールに連絡が入ってきていました。

客室には魔法鏡が備えられてあり、王都のアルセンからグランドールに連絡が入ってきていました。


「おお、アルセン。両手に花じゃのぅ」

グランドールが魔法鏡の向こう側にいる親友を見て、そんな声を出す。

一緒に楕円形の大きな魔法鏡を覗く、アルスとルイも確かにグランドールの言うとおりだと思った。

『グランドール、貴方までからかうのはやめてください』

多少疲れた様子で、アルセンが執務室の椅子に座っていた。

その両サイドに、アルセンと同じように疲れた様子のリコと、至極上機嫌なライが控えている。

「お疲れのようですが、何かあったんですか?」

アルスの素直な質問に、アルセンは労られた様子で、微笑んだ。

『今はまだ何もないんですが、これからちょっと色々ありそうなんで、それで疲れているんです』

アルスに対しては気易いらしく、敬語ながらも弟に語りかけるような感じで、アルセンは魔法鏡へ返事をする。

「そちらのリコリス"嬢"も、アルセンと一緒で何やら疲れている顔みたいだが、それは関係あるのかのぅ?」

ニコニコとしているライと対照的に、リコが疲れた顔に困った様子で微笑む。

そんな様子を見て、『本人の口からは言い辛い事情』と、グランドールは察するのはできたが、続ける言葉をスムーズに出来なかった。

「これから起こる事がわかっているんなら、今から予防やらなんやらすれば良いんじゃないっすか?」

ルイが不思議そうに提案する。

やんちゃ坊主にしてみれば、自分より遥かに賢そうなアルセンやリコが、起こりそうな問題を未然に防ぎもしないで、ただ黙っているのが理解出来ない。

『にゃー、少年、この問題は大人の恋の問題なんだにゃ~。

デリケート過ぎて、リコにゃんもアルセン様も、ハートに壁を設置なんだにゃ~』

『ライちゃん!』

リコがライを諫めるが、ライはどこ吹く風である。

「"大人の恋"っすか」

ルイは目を丸くして驚いて、恋愛が苦手なアルスは気の毒そうに、アルセンとリコを見た。

「何だかよくわからないが、ワシの見解だと、どうやらアルセンとリコリス嬢がそう言った話になりそうというわけか」

グランドールの言葉に、アルセンが無言で頷いた。

『まあ、"恋は恋を呼ぶ"というか、"類は友を呼ぶ"と言った感じになるんですかねぇ。

頼まれて、"エリファス"の事を調べているリコさんとライさんと偶然図書館であったのが、騒ぎになりそうな事のきっかけですよ』

これはグランドールにとって、思いよらぬ所を突かれ、思わず瞬きを何度も繰り返していた。

グランドールの様子を見て、王都で留守番をしている3人は、どうやらまだエリファスとグランドールの過去を、話していないと察する。

アルセンは、僅かに瞳を閉じ、意を決したようにグランドールに意見する。

『失敬になりますが言わせて貰います。

グランドール、もうそろそろ過去の話をしたら如何です?。

エリファスがそちらにいて、貴方もいるなら客観視より、過去の話を含めて行動を共にする者にも伝えないと、連携プレーが必要な時、とれなくなります。

何も洗いざらい喋ろとは言いません、でも知らせておくべき事は言っておいては如何ですか?』

「何だ、オッサン。やっぱりあの乳がデカいねーさんと何かあったんだな」

薄々感づいていたルイは、責めるような感じでグランドールを見あげる。

「乳がデカいって、確かに大きな方でしたけれど」

アルスは変な所でルイのエリファスの表現に驚き、

『にゃー、そんなにおっきいにゃ~?』

ライに至っては興味津々。

『話をもどしますよー』

アルセンが感情の籠もっていない、明らかに棒読みな喋り方で軌道修正をし、それは見事に成功した。

『―――で、もう既に隠していた事で面白くない、というかグランドールに対して信頼を減らした事例が出てきましたよ』

親友からの忠告で、大きなため息を吐き、グランドールは腹を据えた。

そして後ろを振り返り、少し拗ねているルイと何とも言えない顔をしているアルスに謝った。

「隠しておいて、すまなかったな。それでは今夜にでも話すから、黙っていたことは勘弁してくれ」

『いいえ!。プライベートな事ですし、グランドール様がお話にくいなら、アルセン様が仰る通りで、必要な内容だけで本当に構わないです』

グランドールの謝罪に、アルスは驚いて恐縮し、顔を横に振る。

ただアルスがそういった態度だから、ルイもグランドールに対して拗ねるのは『子どもっぽい』と気がつき、幾分表情が和らいだ。

その様子を魔法鏡越しに見て、アルセンは優しく微笑む。

『ところでリリィちゃんは、別室にされたんですか?』

リコが漸くと話せると言った感じで、話に入ってきた。

「ああ、こちらの領主様の意向でな。"ワガママな娘"を通せば、一緒の部屋も不可能でもなかっただろうがのぅ」

それからグランドールが考え込むように口を噤む。

「やはり駄目だ。テレパシーはこの館では使えん」

直ぐに諦めた口調で、逞しい肩を竦めた。

『にゃ~、テレパシーなんて危ない事しているにゃ~』

テレパシーの弊害を知っているライは渋い顔をする。

「何、テレパシーの相手はお嬢ちゃんじゃないから安心しろ」

『にゃ~、ならいいにゃ~』

ライとグランドールが鏡越しに目を合わせて、極めて朗らかに笑った。

「何気に賢者殿に、酷い事を仰っていますね」

アルスは思わず苦笑していると

『アルス、気にしない事です』

と、アルセンまでも言うものだから、アルスはほんの少しだけウサギの賢者に同情した。

『ウサギの賢者殿と一緒ならリリィちゃんは心配はないと思いますが…、ただ1つ今更な心配を申し上げるんですが、この内容が監視・盗聴されている恐れはないんですか?』

「魔術や精霊術では、そう言った事はなされていないと断言出来るかのぅ」

リコの冷徹な問いには、グランドールが答え、懐から綺麗な装飾がついたブローチを取り出した。

『おや、それを持っていってたんですね』

グランドールが出したのはこの国で使われている魔法器具。

見た目はブローチだが、盗聴や監視に利用される魔法や精霊を感知出来る機械で、中央に綺麗な透き通った黄緑色の石が填められている。

「アルセンから紹介してもらった奴だ、借りた報告はいっとらんか?」

『私は担当部署が違いますからね。

一応ピジョン曹長に後で確認しておきますか。それは、最新の物ですね』

アルセンは懐から愛用の手帳を取り出して、メモをとる。

「この機械が今のところはうんともすんとも言わんから、とりあえずこの部屋に関しては盗聴や監視は大丈夫だと思うがのぅ。

どちらかと言えば、リリィの方が必要なると思うから、あちらに持たせよう」

ヒョイと投げて、ルイが危うげなくキャッチする。

『グランドール、一応精密な魔法器具なんですから投げるのは止めてください』

アルセンが渋い顔をし、魔法器具であるブローチを投げたグランドールを諫め、見事なキャッチをしたルイを見て口を開く。

『ところでルイ君は、貴方は魔法の素養はあるんですか?』

ルイはブローチを両手で包むように持ち、浮かない顔をして答えた。

「う~ん、オレは学問の方ははっきり言って、からっきしっす。

精霊術なら感覚では掴めるんすけど、学問がメインな魔術や魔法になったらもう駄目です」

ついでに胸の前で腕を交差させて『×(バツ)』印を作り出してアピールした。

『ではそれは、魔法も使えるリリィさんが持っていた方が有益ですねぇ。

表向きに行動するグランドールとアルスでは、監視されようが盗聴されようが全く関係ないでしょうし』

そういうアルセンにリコが顔を向ける。

『出来れば、リリィちゃんと直接連絡を取りたいんですが。その個人的な話をしたいので』

真摯な言葉でリコが言い終えた後、アルセンがリコの方を向く。

リコとアルセンは計らずも、互いに見つめ合う形になっていた

魔法鏡の向こうで見つめ合う、金髪の美男と銀髪の美女は一枚の絵画にも、ロブロウにいる一行に見えた。

「お前さん方、良い相手がいないならホントに一回付き合ってみたらどうだ?」

グランドールが思わず言ってしまうと、瞬間でリコが耳まで真っ赤になり、アルセンはガクリと肩を落とし、ライはニヤリと笑った。

『どっ、どうしてリリィちゃんの話をしているのにそう言った話になるんですか!?』

『にゃ~、おっちゃんもそう見えたかにゃ~』

激しく反応するリコに、グランドールが自分と同じ意見に持ったと確信したライが気易く鏡から語りかけた。

『はいはい、じゃあ参考にしますから。

とりあえずリコさんが言った通りですね、個人的にリリィさんと話す必要があるんですよね、どうしますか?』

アルセンが仏頂面になって淡々としているので、ライはふざけるのは止めて真面目に考えを述べた。

『リリィちゃんのいる部屋に鏡があるにゃら、ワチシが繋げてみるかにゃ~?』

『ライさん、なかなか高等な魔術を会得なさっていますね』

アルセンが綺麗な瞳を少しだけ大きめにして、驚いている。

ライにしては珍しく真剣な顔となり人差し指を額に当て、艶やかな唇を動かし、魔術の文言を呟く。

『うん、何とかなりそうだにゃ~。

ただワチシらやグランドールのおっちゃんらからは、リリィちゃんの部屋を見えるけれど、リリィちゃんの方は普通の鏡だにゃ~。会話はだけならオッケーにゃ。取りあえず、繋げるにゃ~』

ライが魔法鏡に触れた途端に、ロブロウ側の鏡が真っ白になった。

「あれ、誰もいない?」

真っ白な鏡が次に映し出したのは、何とも豪華な客室。

天蓋付きのベッドが部屋の隅にあり、部屋の配置物は農業研修の男3人の部屋に比べて1つ1つが豪華。

グランドール達の客室が決して貧相というわけではなく、『品良く質素』と表現するなら、リリィがいるはずの客室は"無駄に豪華"、が当てはまる。

魔法鏡越しにリリィがいるはず部屋は、何も動いている様子はない。

『にゃ~、あすこ、ベッドに誰か寝てるにゃ~』

リリィの部屋を映し出したまま、ライの声が聞こえ、アルスとルイが少しだけ驚く。「声だけ聞こえるのって変な感じだなあ」

ルイがそう言うと、アルスは同調した様子で頷きながら喋った。

「ライさん、声は向こうにも届いているはずなんですよね?」

『そうだにゃ~。にゃ~、リリィちゃん、今回の旅で、すぐに眠たくなる程疲れているのかにゃ~?』

「ああ、着くまでの間に体調不良をおこしたのぅ」

グランドールがそんな風に答えてもリリィの部屋から返事らしきものがないので、王都側でもロブロウ側でも首を捻る。

『お~い、ちょいと会話の音量は下げれるかい?』

漸く聞こえたのは、ウサギの賢者の間延びした声である。

『ウサギの賢者殿、リリィちゃんは?』

リコがリリィの身を案じているのが声だけでも十分伝わる、そんな声が部屋に響いた。

少し間を置いて、ウサギの賢者の声がまた応える。

『グランドールが言ってた通りでね、体調が悪かったから大事を取らせてベッドに休ませたら、あっと言う間に寝ちゃった。

で、ワシも抱きしめられちゃってるから、動けないわけだ。抜け出したら、せっかく眠ったリリィが起きちゃいそうだし』

『だったらそのままでかまいません、リリィちゃんの調子が良さそうな時にでも連絡をください』

リコの安堵した声を聞いた後、ゆっくりとまたウサギの賢者が声を出す。

『ところでライさんにリコさんの声って事は、アルセンもいるね』

『ええ、いますよ』

『頼みたい事があるんだけれど』

アルセンがそう答えて、数秒後にウサギの賢者の声が部屋に響く。

どうやら"音"は3つの場所にワンテンポ遅れて聞こえてくる。

「やはり3つの魔法鏡を繋ぐと、情報を運ぶ"音の回線"に負担がかかるみたいだのぅ」

ウサギの賢者とアルセンがゆっくりとしか会話を進められないのを見ながら、グランドールが呟くようにそんな事を言った。

「"音の回線"って?」

ルイがグランドールに尋ねる。

ウサギの賢者とアルセンがしている会話に、自分は口を挟む必要がなさそうなので、グランドールは簡単に説明を始めた。

「回線ってのは情報を繋ぐ、まあ"筒"みたいなものだ。

で、回線という筒の中を通して、情報が得られる。

では今度は回線の筒を、ジュースなどを飲むストローにして話を例えようか。

情報は"飲み物"に置き換えようかのぅ。

普通の水みたいな"情報"だったなら、ストローの中に吸い上げるのも、普通の肺活量があれば、困難でないし、直ぐ吸い上げられて不便もなにも感じんだろう?」

そこで一度話を区切り、ルイとアルスの様子を確認する。

アルスは理解出来ているらしく、直ぐに頷いた。

ルイはグランドールが見た限りでは、"何となく分かった"と言った感じが、否めない。

何となくだが、グランドールは取りあえず説明を続ける。

「で、このロブロウと王都の魔法鏡を繋ぐ回線、"ストロー"を通る情報の"水"はスムーズに通りやすいし、量も適度で、スッと互いに出来ていたから会話が、ワンテンポ遅れる事を感じる事もなく出来ていた」

そこで再びグランドールがルイの様子を窺うと、口を真一文字に閉じて、懸命に考えているのがよくわかった。

その視線に気がつくと、ルイが癖っ毛の髪を掻き毟りながら、たどたどしく自分の"理解の仕方"があっているか尋ねるように声を出す。

「ええっと、つまり1つのコップから一本のストローをさして、飲み物を飲むのに普通には難しくないみたいな話なんだよな?」

「まあ、概ねあっているな」

グランドールがそう言うと、ルイはホッと胸をなで下ろした。

ルイがそう言った例えが分かり易いなら、それで話を進めるとするかのぅ」

チラッとグランドールがアルスを見ると、微笑んだので説明を再び始めた。

「今では王都とロブロウ、2つコップがあって必要な時、どちらかのストローを無理なく吸う事が出来るし水も飲めた。

そこで今度はリリィのいる部屋の情報が入った"コップ"が増える。

で、情報を吸い上げるストロー、"回線"が必要になるわけだが、予め用意出きていなかった。

ただ、元々ストローは2本あって、その2本からもう1本のストロー作る事が猫のお嬢ちゃん、ライには出来たわけだ」

「う~ん、でもオッサン、2本から1本作ったって、いくら飲む事はできても不格好で不自由なストローじゃねえか?。あ!、だから声だけなのか?」

ルイは気がついたという感じで目を大きく開いた。

「正確にと言うよりは、感覚的にわかったみたいだのぅ。

まあ、間違ってない。

ただ今は理解するために簡単に『ストロー』と言っているが、猫のお嬢ちゃんが、繋げた回線は本当はもっと複雑でやっかいなもんだ。

一介の魔術師で魔法鏡の回線は1本、玄人ならば2本と言った感じなんだのぅ。

不完全ながらも3本も回線を引ける事は、本当に凄い事だし、めったに見れない上級魔術なんだぞ」

『にゃ~、そこまで言われると、ワチシ、照れるにゃ~♪』

明るいライの声が、リリィの客室を映し出す魔法鏡から聞こえた。

それで思い出したように

「後、留意しておかないといけないのは魔法鏡の回線を繋げる術をしている魔術師には、"全ての声"が鮮明に聴こえているということかのぅ」

と、グランドールがつけ加えた。

「オッサン、分かったと思うんだけれど、ちょっとタンマ。俺の頭が、悲鳴を上げている」

ルイが両手で抱え込む仕草をして、グランドールが笑った。

その時『リーン』という鈴の音のようなものが、客室に響く。

『にゃ~、何の音だにゃ?ルイ君、何かやっちまったにゃ~?』

音だけで繋がっているという状態なので、意味がわからない音にはやはり独自の予想で反応が返ってくる。

 リーン、という音でウサギの賢者もアルセンも会話を止めていた。

『これは客室の呼び鈴ですか?』

リコの声が尋ねてくる。

「リコさん正解!。あ、オレがでる!頭はもう使いたくない!」

サッとルイがそう答えて、客室の入り口の方へと走って行ってしまった。

客室と入り口の間には玄関のような小部屋が1つあり、その場所で屋敷の召使いとやりとりが行う事が出来る。

カチャリと、ドア閉まる音がして、ルイの姿は小部屋に消えた。

『じゃあ、ワシの声がリリィの客室からだと万が一にも察知されたら困るから、ライさん、回線は切っておくれ』

ウサギの賢者がそう言うと、

『了解にゃ~』

とライは快諾して回線を切った。

魔法鏡がグニャリとした映像になった次の瞬間には、王都側のアルセン、リコ、ライの姿が映し出された。

『グランドール様。予定ではそちらは、リリィちゃんはルイ君と行動を共にすると思います。

ルイ君にリリィちゃんの事を丁寧に扱うように、指示をお願いします』

画面が変わっていの一番に、リコが真剣な面持ちでグランドールに願い出た。

僅かだが、周りのアルセンやライ、魔法鏡を挟んだアルスも驚いている。

グランドールだけが、苦笑の表情を浮かべていました。

「リコさん、ルイは確かに見た目は"やんちゃ坊主"だし、言葉づかいもなっておらん。

が、普通の子供よりは苦労をしておるし、そこいらの兵士よりは腕がたつように、"ワシ"が仕込んである。なにより、ルイが大事だと意識したものへの優しさは、大きいぞ。

だから厳重に言わなくても大丈夫だと、思っておるよ』

ルイの大事な"者"にはリリィが含まれている、仄めかすような言い方で、グランドールはリコに話した。

『―――あの、もし失礼に聴こえたなら申し訳ありませんでした』

リコがグランドールに向かって、丁寧に頭を下げた。

『ちょいキツメな感じはしたにゃ~』

ライが何事もなかった風ではあるが、ズバリとリコに言う。

だがそう言うライの言葉のおかげで、リコの物言いは"天然"なものだと聞いていた者達には理解出来る。

「まあ、大切にはしているが、確かに日頃が乱雑な感じじゃからのぅ。ルイには重ねて注意しておくから、安心してくれ」

グランドールがそう言い終わるのと同時に、カチャリとドアが開く音がする。


「―――では、宜しくお願いします」


少年の声ではないものがドアの隙間から漏れて、ルイが姿を現した。

そしてそのルイではない"声"にグランドールとアルセンだけが

「んん!?」

『これは!?』

と、声を出して反応する。

珍しい2人が驚きの反応をしていたのだが、個室の扉がしまるカチャリと言う音と共に、ルイが盛大に

「おっさぁ~ん」

と、かなり疲れた声をだし、何か小さな箱を手にしながら戻って来たため、驚きの声を上げた当人達しか"声"に反応したのはわからなかった。

「ルイ君、どうしたの?」

アルスが尋ねると、ルイはうんざりと言った感じ小さな箱を開けた。

「もう頭使うのが嫌だから、玄関の方にいったんだけどさ―――」

それから小箱から、何かを取り出す。

それは先ほどグランドールが軍隊から借りている、監視・盗聴を察知する魔法器具と形が非常によく似ていた。

ただ中央にハマっている石の色が、こちらはより深い緑色。

「何か男の"召使い"が、手紙と一緒に箱をオレに渡しながら言うには、

『ご婦人の客室の、お嬢様からという事で、人伝で私が預かりました。

お手紙はこちらのお客様に読み次第処分して欲しいとの事でしたので、ご拝読、今、この場でお願いします』

で、その手紙は多分ウサギの旦那が書いた、この箱の中の、機械の説明書だったんだ」

説明書の内容を覚えなければいけなくなり、再び頭脳労働になったルイは、かなり参ってしまった。

「んで、その召使いがさ、オッサンやアルセン様ぐらいの年なのかな?。

メガネかけてて、何か頭は良さそうだけど、悪人面で……。

オレが説明書の内容を口に出さないでいるのに、覚えるので躓きそうになる(たんび)に、『ごゆっくり』とか『もう1度読まれてみては?』とか、ツッコミが的確でさ。

ちょっと性格悪そうだし、悪人面だったけれど、俺が大方説明書の内容を暗記出来たのがわかったみたいな所で、『お疲れ様でした、ではご依頼されていますので』って説明書をあっさり魔法で燃やしやがんの」

ルイが一気にそこまで言うと、大きくため息を吐いた。

「それはお疲れ様だったね」

アルスが苦笑して、ルイが持っている器具に目を向けて尋ねた。

「じゃあ、説明は後にする?」

「いや、今言う!直ぐに言う!。じゃないと忘れちまう!」

慌てる幼子のように、慌ててルイは器具の説明を始めようとしていた。

グランドールとアルセンは何かいいたげだったが、ルイが喋り始めたのを見て鏡越しに

(もう、"逃げて"いるな)

(ですね)

と互いに目配せをして、ルイの説明を聞くことにする。

ルイが機械を手にしながら、思い出すために目をギュッと閉じながら、説明書の『暗誦』を始めた。

「"これは魔法を使わずに会話する機械です。

従って、魔法の素養がないアルス君、魔術が苦手なルイ君も使える道具。

魔術の探知機にも引っかかる事はない。

ただ、試作段階で魔術も使っていないため、言葉が伝わるのがワンテンポ遅れる。

その為、会話するタイミングを掴むのが多少難しいかもしれない。

こちらはリリィにも1つ持たせておくから、グランドールかアルス君がもっておくと良いだろう』」

そこまで言い終えると、一度息を吐いて、ルイは概ね、間違わずに言えた事に安堵の息を大きく吐き出す。

「説明はそれで終いか?」

グランドールがルイに尋ねると、ふるふると頭を振った。

「あと最後に、ちょっとだけ、"この説明書は役目を終了したら燃やされるので、しっかり暗誦出来るようにしましょう"だったかな」

『まるで手紙を受け取るのは、アルスかルイ君とわかっていたような手紙の締めくくりですね』

アルセンが少しだけ皮肉っぽく言葉を出した。

それを聞いて、グランドールが逡巡したがアルセンに尋ねる。

「ワシがルイに回線の話をしていた時、アルセンはアイツとどんな話をしていたんだ?」

『他愛のない会話でしたよ。留守中の屋敷の様子はどうだ?とか、最近の私の仕事は楽しいか?とか。

今思えば、音だけの会話で、姿が見えないのを良いことに、会話を片手間に、手紙を書くことぐらい出来ていたかもしれませんねぇ。さて、そちらでの連絡手段は取れましたし、リリィさんはまだ眠っているので、話す事は出来ないし、今回のお話は一度終わります。私も、仕事がそれなりにありますので』

リコやライが何か言う暇もなく、アルセンがニッコリと微笑み、魔法鏡の回線を切った。


「ありゃ、相当怒っとるな」

とグランドールが呟き、アルスとルイは大層驚いて、大男を見上げた。


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