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第五話 不注意は時に取り返しがつかないから

 次の日。今日も空は地球と同じ綺麗な青空が広がっていた。

 そんな青空を見上げながら、ぎゅるるるるって鳴るおなかを抑える。

「食料、確保しなきゃ」

 あの化け物系は、絶対食べたくない。となると、やっぱり森に行かないと行けないな。森だったら果物とか、もしかしたら普通の動物がいる可能性もある。

 ……でも、いない可能性もあるな。もしいないとなると、あれだ。平原にいる化け物よりも強い可能性がある。

「うーん……できればこの“力”を使って食べ物を作るのが一番かな」

 この力ならなんでも出来そうだ。……今更、どうしてこんな力があるのかは不思議に思わないようにしよう。じゃないと、色々おかしくなりそうだ。頭とか、精神とか。

 それに、この力には助けられている。昨日のコロちゃんや、緑を撃退、撃滅するのに。さすがに撃滅はやり過ぎたと思うけど。

 だから、この力があって困る、ということは絶対にない。まだよくわからないところが多いけど、その部分を解き明かしていけば、とても心強くなる。

 ……だから、とりあえずなにか食べ物を出せるか実験しよう。

「えっと……パン、かな」

 目を閉じて意識をしてみる。パン。パン、ぱん、パン……ふっくら焼けてる、焦げ目がついたパン。

 ……。

 …………。

 ……………………出てこない。

「パンはだめ、か。じゃあ次はりんごかな」

 もう一回、目を閉じて手のひらに意識をする。

 りんご……りんご…………赤くて熟したりんご…………!

「むむぅぅぅぅ!!」

 力を籠めても、念じても。いくらたってもりんごは出てこなかった。

「……どういうことだ?」

 いや、そんな疑問を口にするほどでもない。

 答えは簡単。

 クエスチョン、この力は万能か?

 アンサー、いいえ、少なくとも食料は生み出せません。

「そういうこと、だよな」

 とりあえず、一つ小さな小屋を作って、その中で紙のかわりに地面にメモを記す。『食料は無理』と。なら、何ができるんだろ?

 昨日使った力について思い出しながら箇条書きをしていく。

 まずはよくわからないから、無、と書き。

 家や壁を造る時は土を使った。

 それで、コロちゃん亜種っぽいのを撃退した時は、火。

 あ、あと水分補給した時に作った水もだ。

 こうみると、なにか法則性がみえてくる……と思う。

 というか、見えてこないわけがない。でも、それをそうだと決め付けるのはまだ早計だ。

「……とりあえず、まだこれは“力”って呼んでおこう」

 ――魔法、魔術、法術。

 この三つのどれかに属する可能性が高いけど、この世界の住人にあって確認がとれたわけでもないし。

 でも、想像したものを放つのであって、創造するのではない。

 これだけが分かっただけでも、大分進歩があった。これもメモしておこう。

 ――グギュルルルルル!

 …………進歩があっても、おなかはふくれない。

 今日は色々やることがあるなぁ。とりあえず、水飲んでおなかをごまかしておこっと。

 今日も外に出る。

 でも、それは今じゃない。というか、怖いし。

 水を力で作って飲むと、一つ高台を作る。壁にあるようなものじゃなくて、本当にぽつんと簡素な高台。はしごで登れるようにした一番上に、一本太めの棒を立てる。

「……うん。やっぱり時間はまずこれからだよね」

 太陽が沈めば、また上がる。その時間はきっと地球と同じ、もしくは多少の誤差がある程度だと思う。

 だから、日時計があったほうが生活リズムが出てくるはず。それと、周りに人、もしくはでかい化け物が来ていないか定期的に確認できるようにも、という意味合いもある。(やぐら)といえば櫓かな。

 街に出ればこの天候に左右される時計より良いのがあるのかな。一応昨日まで文明人だったから、もう少し文明人らしい暮らしがしたい。

「……愚痴っても仕方がない」

 パンッと顔を叩いて、今度は壁に登って化け物の確認すると、そこまで近くに化け物はいなかった。遠くの森に少し化け物がいるぐらい。……あれ? 僕ってこんなに視力良かったか? 一般レベルぐらいしかなかった気がするんだけど……。

 まあ、この世界で生き残るためだ。利用できるものはなんだって利用してやる。

 とりあえず近くにいる化け物にむかって、力の制御の練習。力が制御できないと、生活できないのはもうわかりきったことだから。

「よし……」

 化け物に向って手をかざす。膝を落として、衝撃に耐えれるようにする。……念の為にやっぱり寝転がろう。

「シューティングゲームは苦手だけど……」

 しっかりと標準を合わせて、一本の熱線が飛び出るように思い浮かべる。その想像が上手くいったら、手のひらに力を集中させて。

「撃つ!」

 ピュンッ!

 十センチぐらいの光線が化け物に当たって、暫く呻いてからあっさり死んだ。

 力の制御は少し集中すればできる。でも、これは離れているからできるわけで、外に出て同じことをやろうとしても、必ずできるわけじゃない。

 それに、この力の制御を無意識化でやる、もしくはもっと短縮化していかないと到底使えたものじゃない。

 今のは発射するまでに大体八秒ぐらいだったかな。せめて一秒ぐらいにはしておかないと……。

「一つ目の課題はそれか。そして、二つ目はどれだけの魔法が使えるか、ということになるな」

 さっきメモしたのを思い出すと、火と土と水、それに無属性。……無属性は放っておこう。火と土と水。この三つが今のところ使える。

 ……この三つから見えてくる法則性に乗るとしたら。いくつか試せれることがある。例えば……

「風ようめけ

 朝鬼は沈むる

 山と大地は揺れ

 聞こえぬ波も

 根を広くほって

 理想へのらん」

 再び手を壁外に向けて、なんとなく思いついた詠唱を発してみる。……物凄い羞恥プレイだっ! で、でもだれも見ざる聞かざるだし。

 軽く首を振ると、少し風の動きが変則的になっている事に気づいた。ごうごうと空が吹き荒れていて、だんだん下に向かって渦を描く感じに。

「…………あっ、やばい」

 確実に詠唱カッコカリのせいだ!

 これ、ハリケーンみたいなのを引き起こしかけてる。

 急いで階段を降り……――

 ゴオオオオオオオオォォォオオオオオ!!

「う、うおあわああああああああああああ!!」

 完全に巻き込まれた!?

 すでにハリケーンが出来上がっていて、あとは上昇気流よろしく上に上がっていくだけ。

 身体のこのなんとも言えない浮遊感。外にとびだせもしないままグルグルと渦を描いてだんだん空へと持ち上げられていく。

 出られない。

 つまり、死だ。

「やっばい! 自分の魔法で死ぬとか、心の中で話しかけてきた僕にすらかおむけ出来ながふっ!」

 舌、噛んだ。

 痛みに耐えながら必死に考える。……そういえば、ハリケーンって切り裂く機能が合ったような。

 ふと、一緒に巻き込まれた緑とコロちゃん、それにワイバーンみたいな物が僕より先に上に上がっていく。

 変な呻き声をあげて、三匹とも切り裂かれて死んだけど。

「やふぁいやふぁいやふぁい!!」

 舌を噛んだせいで上手く喋れないし! 切り裂かれて死にかけてるし! なにこれ、こんなんだったらまだ化け物に殺されて死んだほうがマシだった!!

「……こんなところで、死ぬか! 弥生に会って、謝るんだから!!」

 上空を睨む。僕が助かる方法は、何だ? 火を使う? 水か? 土? どれだ、どれが……!

「こんのくそだれえええええええぇぇえええぇぇえ!!」

 まずは体全体を土で覆って。今度は水を全体で自分が想像できるなかで一番硬くして。これでどうだぁ!

「前見えないけどさ!!」

 なかに少し空洞が何とか出来て、息はできる。

 ジャリジャリッと外で削られる音が生きている心地がしないんだけど!

 付けられる度に修復して、削られて修復して。それを繰り返して。

 それが一分にも十分にも感じた。その間に上下左右いろんな方向に頭が向いて、頭がくらくらする。乗り物酔いの耐性持っててよかった……。

 ようやく終わった削られる音。

 ――――その後待っているものは?

 微かに聞こえる、ヒュゥっていう音。おまたもヒュゥってなる、この感覚。ジェットコースターでよく感じる、あれだよね。つまり、

「おちてるぅぅぅぅぅぅうぅううううううぅぅぅぅう!?」

 そりゃそうだ! 上に上がったらあとは落ちるだけだ! 息はよいよい帰りは怖い、どころじゃない! 行きも帰りもデスロードだよ!

 ど、どうしようか……とりあえず顔を出して下をみる。……みなけりゃよかった。この高さ、テレビでよく見るパラグライダーの高さと同じぐらいなんだけど!? ちょうど降り始めて開くか開かないかぐらいの高さ。

 僕の人生、詰んだ。

 このままだと勢い良く落ちて、バラバラ確定。なんだ、これ。異世界で空から落ちて死ぬ奴、世界広くも僕だけじゃね? プチュンどころかグチュリだよ。血と肉があるだけで、死体の『体』が残らないって……!

「死ぬ、いやだ……生きる、生きる! 生きるんだ! しにたくない考えろ考えろかんぎゃふぇっ……!」

 また、噛んだ。

 血が口から飛び出す。そのまま凍りついてあっという間に僕の遥か上に。僕の落下速度が早いだけだけどさ!

 ……と、に、かく。落ち着け。考えろ。

 落下だ。落下してる。助かるためには、何をすればいい?

 減速。減速だ。パイロットはどうする。パラシュートを使って――――

「それだ!!」

 一か八か、土でパラシュートを作ってやる! 無から有にという理論が正しければ、できるはずだ!

「こいパラシュウウウゥゥゥトオオォォォォォ!」

 力の限り叫んで、想像した瞬間、グイッ! と思いっきり上に引っ張られる感覚に襲われた。

「グエッ」

 肺が圧迫されたような、そんな感覚。目を瞑っていたけど、手から伝わる細長い棒状の感覚は、成功を知らせてくれていた。

「よっしゃ!!」

 思わずガッツポーズ。それでぐらりと揺れて慌てて持ち直す。

「かなり急ごしらえだったけど、なんとか死は免れた、のか?」

 確認するように呟く。ああ、お前はやったんだ、って昨日の僕の声がそう言っている気がする。

 弥生、お兄ちゃんはやったんだ。やりきったぞ。

 空に向かって心のなかでそう呟くと、一旦目を閉じて、ゆっくりと開く。

「さて、と」

 周りを見渡すと、かなり拠点から離れていた。森も全体像が覗ける。真ん中に遺跡っぽいのがあるのか。ダンジョンかな? いや、でもそれより。

「どうやって戻ろう?」

 パラシュート、操作したこと無いんだけど。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:自身が建てた要塞から、不注意で飛び出した。


 パングラム、やってみました。

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