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名もなきエースたちの戦記  作者: 飛桜京
本編 戦争前半
8/19

5-2

2016年 米海軍病院船コンフォート


目を開けて見れば、まず目に入ったのは真っ白な天井。その次に薬品の匂いが鼻を突いて、ブラックは目を覚ましてここが病室だとすぐに悟った。


「ブラック!」


足元から声がして、首を曲げようとして痛みが走ったので、なるべく控えめに首を動かして声のした方を見た。


「……ホワイト」


視線の先には、目に涙を浮かべてかじりつくようにブラックを見つめるホワイトの顔があって、ああそうだ自分は死にかけたのだとそこまでで思い出す事が出来た。そして生きている。思わずブラックに飛びつき、かじりつくように泣きじゃくるホワイトの重みと暖かさ、その重さによる痛みでしっかりと感じる事が出来た。


「よかった……よかったよお……」


ぐすぐすと涙を擦りながらホワイトは一旦落ち着こうとして椅子に座りなおした。が、やはり安心しきったせいで涙が止まらなくなっていた。ブラックはそれを見てなんとなく泣きじゃくるその頭を優しく撫でてやった。


ぐずぐずとホワイトは泣きじゃくり、その顔が可愛らしく思えたからもうしばらく鑑賞したかったのだが、そのタイミングでレッドがレジ袋片手に入って来た。


「ついに目覚めたか」

「今起きたのとロリコンをかけただろ。だがな、俺は未成年だし体格的にもこいつと釣り合ってるが?」

「一緒だボケ。合法ロリと合法ショタの組み合わせってどうよ」

「うっせ」


近くの椅子を持ってきて、ホワイトよりやや離れた位置に座ってレジ袋から適当な見舞いの品々と二つのファイルをブラックに渡す。


「……で、俺、どうなんだ?」

「お前が二日丸々寝てる間に医者に診てもらったし、キュウシュウでも勝利した。怪我のことだが、命に別条はないが、後遺症の確認が必要だ」

「どんな感じに?」

「衝撃であちこちぶつけたみたいだ。ダメージそこそこあるが、だが、大したことは無いとさ」

「飛べるには?」

「状態良けりゃ一週間もいらないんじゃねえか?」

「ふむ」

「で、このファイルが俺の容態とかそういうのか。で、このファイルは?」

「俺の知り合いがスクラップヤードで新品同然の状態で保存されてたのを掘り出してきたらしくてな。それを買い取ったんだ。俺たち二人からのせめてもの侘びとして受け取ってくれ。というか、どちらか選んで欲しい。隊長とお前の分だ」


受け取った紙には『それら』の概要が書かれていた。


乗員: 1名

全長: 22.6m

全幅: 16.7m

全高: 6.4m

翼面積: 56.0m2

自重: 25,000kg

最大離陸重量: 34,000kg

エンジン:ソロヴィヨーフD-30ターボファンエンジンまたはAL-37FU 2基に換装予定 推力:15,600kgf)

最大速度: 2,500km/h

航続距離: 3,300km

輸送距離: 4,500km(ドロップタンク×2使用)

飛行高度: 18,000m

上昇率: 233m/s

翼面荷重: 360kg/m²

推力重量比: 1.14

武装

固定武装 GSh-301-1 内装30mm機関砲×1



乗員:1名

全長:19.00m

全幅:15.00m

全高:4.50m

主翼面積:90.5m²

空虚重量:18,000kg

最大離陸重量:35,000kg

最大速度:マッハ2.6 (2761.2 km/h)

航続距離:4,000km

発動機:リューリカ=サトゥールンAL-41F×2

(アフターバーナー時に約176kN/39,680 lb)

実用上昇限度:17,000m


とあった。エンジンの種類を見る限り、ロシア系の機体だということだ分かる。


「これ、ヤコブレフとイリューシンはありえないから、スホーイかミグの機体だな? 『新品同然』『スクラップヤード』この二つから考えられるのは、実験機。そうだろ?」

「ああ。鋭いな。スホーイとミグだよ。じゃあ、機種を当ててみな」

「PAK FAじゃないな。スクラップヤードの時点で違う。なら、Su-37か? だが、あれはもうなくなってるし……。スクラップヤードってことはほとんど使うことがなくなったってことだよな……。Su-47とMig-1.44か?」

「正解。まさか本当に当てるなんてな。で、どっちがいい?」

「どちらでもいいんだが、スホーイには愛着がある。Su-47を俺は選ぶ。安定性は味噌っカスだが、機動性はラプターよりあるし」


実際、以前から今のフランカーを超える機動性を持った機体を欲しいと思っていた。それに当てはまるのはSu-37かSu-47、F-22くらいだろうと思っていた。


「ありがとう二人共。最高の見舞いの品だよ。で、隊長は?」


この言葉は二人にとって地雷だったらしく、ふたりの顔が曇った。それでブラックは察した。彼女はまだ見つかっていないのだ。


「あのね、ヘリの人が隊長のところ行った時にね、隊長、いなかったんだって。でね、そこにあったの、ズタズタになっちゃった飛行服だけで、何匹かサメが泳いでたんだって」


だが、その時。


「君たちは自分を死んだと認定してないかい?」


「「「隊長!」」」


担架で運ばれてきた新たな要救助者は、彼らの隊長、ブルーその人だった。


「やあ、心配かけたね」

「隊長ーっ!」

「おっと、ホワイト。自分を心配して泣いていてくれていたのかい?」

「隊長は帰ってこないし、ブラックは目を覚まさないし、ブラックの整備員さんは塞ぎこんじゃったから、大変だったんだよ!」

「済まないと思っているよ。自分もたどり着いた島で無線が繋がらないと気づいたときには大いに焦ったさ。このまま低体温症で死んでしまうのではないか、とね」


■■■


2017年 日本 大日本帝国陸軍朝霞駐屯地


「彼ら二人も助かったんですね。よかった」


山田中佐の話し方はその場その場の光景を当時そこにいなかった我々にしっかりと想像させてくれた。


「うむ。まあここで彼らが生きていなかったらこの話は成り立たなくなってしまう。しかし、彼らのすごいところは二人だけで九州解放戦線に参加したということだ」

「え? レッド氏とホワイト氏だけでですか?」

「そう。ブルーバードからは二人しか出なかった。それでも彼らは獅子奮迅の戦いを繰り広げたのだよ」


■■■


2015年 太宰府


深夜の太宰府近くの高速道路などから多数のMig-21戦闘機が出撃していく。連合軍の動向を察知したらしい。だが、少し遅かった。離陸したところをF-15を護衛戦闘機としたF-2の編隊が待ち構えて迎撃。撃墜したところをF-2は滑走路にある戦闘機もろともすべてを爆撃していく。そして今度はF-15Eがステルス爆撃機B-2を引き連れて襲来し、再度爆撃を行うという念の入れよう。そして揚陸艦や輸送艦に乗った陸軍歩兵連隊や、一〇式戦車、M-1戦車などが残った敵基地を次々に福岡県か南下して蹂躙していくというほぼ一方的な制圧戦。SAMが連合軍機を撃墜し、対地攻撃機が報復とばかりにそれを撃破する。量で同格、質では連合軍が勝っている九州開放作戦。最初は様々なゲリラ戦などが起こると予想していた。しかし、なぜか福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎では既に住民たちが敵基地を制圧していた。


連合軍は恐怖した。九州の住人たちは猛者たちが揃っていると聞いたことがある。実際そうだったのだ。軍人よりも行動が早く、自分たちの手で敵を制圧し、あとは鹿児島の救援に駆けつけるだけだった。


「子々孫々が少々の困難ですぐ大将首を差し出し守りに入っ輩になってはわしらの恥じゃ。そいに比ぶれば今ここで支那便衣兵と戦っこつなぞ、用意かこっちゃ!」

左様(じゃもす)! 関ヶ原ん時も薩摩は数百の寡兵で数万の徳川と戦こうたそうじゃ。かつての薩摩武士にできるんじゃ、今のわしらにできんは情けなか!」

「さて、ここいらがおいの死に場所になりそうじゃのお。かくなる上はひとりでも多く道連れにして果てちゃる。つんのうてこい(一緒に来い)、支那便衣兵ども!」

「軍はたよりにゃ出来んち、わしらだけでやる!」

「桜島を、奪い返すぞ!」


九州地方の方言がどこからか聞こえる。九州人らしく猛々しく闘う者達もいるようだ。銃撃の音ではなく、剣戟の音などが聞こえていた。連合軍の面々は、せっかく救援に来たのに終わってるし……。というような落胆を感じた。だが、軍隊は見た目ではなんの武装もしていない者を攻撃することはできない。そして彼らは九州から集った民間人。彼らだからこそやれる戦いであった。もちろん民間人だから敵兵士を殺しても良い、というわけではない。だが、彼らの救援がなければ連合軍兵士はどこから現れるかわからない民間人を装った敵兵士たちを倒すことができないのだ。


中国軍によっていつの間にか組み上げられた桜島要塞は、桜島を大きな塀で囲んだだけである。だが、その強靭さはいくら勇猛な九州の戦士たちでも突破できない。だが、所詮は塀で囲まれているだけの要塞。陸軍の榴弾砲や大和の主砲、戦闘攻撃機や爆撃機に搭載された爆弾が後に雨となって彼らに降り注ぐことになる。


「陸軍から一部の敵を追い詰めたと連絡が来た。ここで一網打尽にするぞ」

「了解」


日本空軍嘉手納基地から日米のF-22やF-35が桜島を目指して飛ぶ。坊ノ岬沖に展開した第二航空戦隊の飛龍や蒼龍からもF/A-18が対地誘導爆弾を搭載して飛び立った。赤城からレッドとSu-27が、信濃からホワイトとF-15が出撃する。


約二百機の航空機が陸軍に追い詰められた中国軍が追い詰められて篭城している桜島要塞周辺に集った時、連合軍総司令官の声が全軍に響いた。


「Operation:Fire Blossom(炎の桜作戦)。発動!」


火山が噴火したかのような閃光が炸裂する。大和の主砲弾が南の壁を破壊し、そこから揚陸艇に乗った海兵隊員や海軍陸戦隊、陸軍特殊作戦部隊が侵入。陸軍の榴弾砲と戦車の弾丸も北の壁を破壊して乗り込む。東西からは爆弾を積んだ戦闘機が轟音とともに放った誘導弾を落とし、対艦ミサイルを積んだF-2が要塞内部の敵艦を攻撃する。レッドとホワイトはどこからともなく現れる戦闘機を迎撃に当たる。垂直離着陸機のYak-38やMig-21、Su-27など、様々な機体が二機の前に立ちはだかる。


「死にたくなきゃどけえ!」

「邪魔!」


仲間二人を撃墜されたことによる怒りで彼らはいつになくアグレッシブな戦いを見せる。怒りとそれに対する自分への不甲斐なさ。もし自分たちがあんな回避をしなければ二人は撃墜されることはなかったのかもしれない。そう思うとふつふつと怒りが湧く。その怒りを敵機に叩きつける。


「ブルーバード2、FOX2!」

「ブルーバード3、FOX2!」


白煙がMig-21を襲う。そのMig-21は爆発すると同時に周りの戦闘機を誘爆に巻き込む。


「ミサイル! ホワイト、やるぞ!」

「うん!」


二人は曲芸飛行さながらの動きで敵機の下に飛ぶ。そのままエンジンの回転数をゆっくり下げる。熱探知ミサイルは熱の高いほうによる。それを利用して二人は弾数を節約する。ただでさえ少ないミサイルをあまり無駄に使うわけにはいかない。相手に後ろを見せて追わせ、油断したところをアフターバーナーで燃やすなどの策をとる。こちらは二機で敵は二十。なかなか勝ち目がない。


「多すぎるよっ」

「くそっ、ここまでかよ!」

「おいおい、そんなもんじゃねえだろうブルーバード? 救援に来てやったぜ」

「「シャドウシーカー!」」

「なんてザマだよお前ら。そんなんじゃ今コンフォートでお昼寝中の新入りに顔向けできねえぞ?」

「んなこたあわかってるよ」

「知ってるか? 下にいる奴ら、キュウシュウダンジってのか? あいつら、軍のやつらは情けねーって連合軍から武器奪って今戦ってんだぜ?」

「だから俺たち傭兵まで」

「情けねーと思われねーように」

「しねえとな」


レーダーに現れては消え、現れては消えを繰り返すシャドウシーカーにレッドは何も言わずに翼を振って「我に続け」と指示する。


「たっく、お前までロボットになっちまったのか? つまんねー」

「…………」


レッドはブラックが乗り移ったかのように淡々と相手を撃墜していく。淡々としているが大胆でトリッキー。ブラックの戦法をそのまま表したかのようだった。急に敵編隊の中に攻撃を仕掛けて引っ掻き回し、バラバラになり、単機となった敵機を次々に撃墜していく。その戦い方はブラックの戦術であると同時に、第二次世界大戦時に「アフリカの星」「黄の14」と称されたドイツ空軍大尉ハンス・ヨアヒム・マルセイユと同じような戦いを繰り広げた。だが、その姿は、死に場所を求めているような悲しさがあった。


「こちらAWACSのグリーンだ。制空権を手に入れた。けどよ、どうしたレッド。死にたいのか?」

「あんたにゃ関係ねえことだ」

「今お前が死んでどうするんだ。そんな精神状況なら後片付けはシャドウシーカーに任せて白いお嬢ちゃんを連れて帰還しろ。足を引っ張るだけだ」

「どうしようと俺の勝手だ! あんたには関係……!」


レッドは叫ぶ。だが、途中で遮られた。何者かにロックオンされたのだ。敵機はもういないのに。後ろにいたのはホワイトだった。


「ブルーバード3、インガンレンジ。帰ろうよレッド。わたしは、もう僚機が撃墜されるのを見たくないの」

「…………ブルーバード2、了解。RTB(帰投する)」


■■■


2027年 日本 大日本帝国陸軍朝霞駐屯地


「ここまでが彼らのこの戦い。ここからは我々が戦っていたんだ」

「で、彼らだけが赤城に帰ったんですか?」

「ああ。まあ、戦いの序盤で彼らが大体の航空戦力を潰してくれたからね、後はだいぶ楽だったよ」

「では、桜島要塞はどうなったんですか? 今はかつての姿を取り戻してますよね?」

「あの後戦闘機部隊は帰還して攻撃ヘリや戦車部隊と歩兵連隊、そして九州民間人連合が残った敵を投降させ、要塞の残骸を片付けたからね。捕虜と一緒に本国へ送り返していたよ。民間連合が」

「そうなんですか。あ、次は、彼らはどこへ行かれたんですか?」

「第三次世界大戦初頭の最悪の海戦、第二次日本海海戦だ。だが、これは私の語るべき話ではないな。海軍の呉軍港へ行くといい。今もあの人(・・・)はそこにいるはずだ。彼に話をつけよう。彼はあの時信濃に乗っていた。きっと話してくれるだろう」

「ありがとうございました。呉に行けばいいんですね?」

「ああ。それでは、私はこれから飛行訓練があるので失礼するよ。ああ、そこの君、そうだ。君だ。駅まで送って行ってやりなさい」

「了解」


曹長の徽章をつけた迷彩服の青年がジープで駅まで送ってくれた上に運賃まで出してくれた。

間違えて先に投稿してしまいましたが、基本的には水曜日更新のつもりです。申し訳ありません。


次回は2/19更新予定です。


概要についてはウィキペディアを参考にしているので、間違っていたらご連絡いただけると嬉しいです。

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