5ー1
2016年 淡路島 大日本帝国海軍空母赤城
謎の攻撃に晒され、這う這うの体でなんとか日本まで帰ってくることに成功した連合艦隊だったが、空母では疲労等により着艦に失敗、そのまま海に落ちてしまう機体があった。世界最高クラスの練度を持つ日本海軍第一航空戦隊の艦載機としてはありえないようなことが起こっていた。しかも、最悪なことに第三艦隊が壊滅し、九州地方を中国軍に占領されてしまっていることが判明した。
「クソッ! 新年早々敗戦ムードかよ」
誰かがヘルメットを飛行甲板に叩きつける音が響く。ブルーバード隊に被害はなかった。だが、彼らは皆、赤城乗員の中では平均年齢が一番若く、成熟しているわけではない。よって、肉体的ダメージよりも精神的なダメージが大きかった。
彼らは何とかして立ち直ろうとしていた。ブルーバードでもわりと年長組に当たるブルーとレッド、陸軍時代に特殊な訓練を受けていたブラックはすぐに立ち直ることができたが、何よりもホワイトが問題だった。彼女のすぐ隣で味方の機体が爆発したのだ。その機体が爆発したのはそこが着弾予測地点で、彼女の機体はその外のギリギリのところにいたから。彼は彼女に向かって逃げろと叫んでいた。そして、大空に散った。自らの機体を彼女の機体に体当りさせることで彼女を庇い、理不尽な攻撃の生贄として。ホワイトはそのF/A-18の体当たりを避けるために急加速しながら右にロールした。そして彼はホワイトの居た場所で鉄の雨に打たれていた。その時の光景が彼女の頭から離れなかった。
「ホワイト」
「うん。心配してくれてありがとうブラック。けど、どうしてあの人は傭兵の私を助けてくれたのかな?」
「さあな。俺にもわからない。けど、自分が助かったことと助けてもらえたに感謝しておけばいい。お前の言うとおり傭兵は捨て駒にされることも多いからな。そいつが守ってくれたおかげでお前は助かったんだ。多分そいつは、お前を守ろうとしたわけじゃなかったのかもしれない。けど、結果的にはお前を助けたわけだから、それでいいんだ」
「うん。そうだね」
「もう大丈夫なのか?」
「うん。ありがとうブラック。もうわたしも立ち直ったよ」
「そうか。そりゃよかった。ほれ、次の戦闘の準備しに行くぞ」
「あ、待ってよー。わたしも行く!」
エレベーターで艦内に降り、専用に貸してもらっている格納庫へ。そこで各々と仲のいい整備員たちがわざわざ地元などからやってきて整備してくれていた。ブラックの機体のコックピットではひとりの女性整備兵が作業していた。歳は二十歳かそこらか。名前は森井深雪曹長。雪国の生まれらしい色白の女性だ。長い黒髪をひとつにまとめ、緑色のつなぎを半分ほど脱いで袖を使って腰に結び、上は自分の豊かな胸を強調するかのような黒いタンクトップ姿。退役前と全然変わっていない。
「精が出るな、森井」
「あ、大尉。お久しぶりです。戦線復帰の報告を聞いたときはびっくりしましたよ。復帰するならすると先に言ってくださったらよかったのに」
「悪い。俺もいろいろと動いてたからな。今じゃ自由な傭兵稼業だ。それで、どうだ?」
「んー、エンジンのコンプレッサー、砕けかけてました。最悪次アフターバーナー入れたら溶けて破片がエンジン内を跳ね回って破損してましたね。あと、無茶な着艦はしないでくださいね。左車輪のネジが外れかけでしたから」
「着艦苦手なんだよ……。やっぱお前に任せておいて正解だった。陸軍に感謝しねーと」
「なら陸軍に戻ってきてくださいよ」
「戻りたいのはやまやまだが、今はそうもいかないからな」
「そうですか、それは残念です」
「まあ、しばらくしたら戻るつもりでもあるし、この戦争が終わるまでは大日本帝国軍隷下の傭兵部隊、ブルーバード隊四番機だからな。まだしばらくはずっとお前たちと一緒にいるさ」
その頃、艦橋では北日本と北陸地方に配備されていた大日本帝国海軍第一艦隊とEU連合海軍・アメリカ海軍第七艦隊からの連絡を赤城艦長が受け取った。その内容は、中国軍がロシア・朝鮮軍と同盟を結び、朝鮮半島とカムチャッカ半島から日本に向けて進軍しているらしい。国連軍はロシア軍をEU連合軍が間宮海峡、中国・朝鮮軍をアメリカ・日本軍が遼東半島で、また、中国軍は占領した九州から攻めて来るだろうと思われるので、瀬戸内海で日本・アメリカ軍が迎撃に出る予定だ。赤城艦橋で急遽緊急ブリーティングが行われた。
白い壁に瀬戸内海周辺の地図が投影される。赤い凸が中国軍。青い凸印が連合軍だ。軍拡を推し進めた中国軍は一国で連合軍と同等の戦力を持っていた。赤城艦長が話し出す。
「今回の作戦は、中国軍の瀬戸内海での迎撃及び、九州地方の開放が主な目的である。我々日本海軍は米海軍空母ニミッツなどと協力し、彼らを討つ。これに依存は?」
静寂。これが誰にも異論がないことを示していた。
「それともう一つ。彼らは超兵器とも言える巨大兵器を持っている。おそらくこの戦いにも現れるはずだ。この場所で現れると考えられるのは飛行戦艦だ。恐らく敵飛行要塞は戦力の一番分厚い北日本方面へ、我々を破った巨大な潜水艦は黄海へ向かうだろう。これは米軍からの情報であるが、その巨大飛行戦艦---仮に「unknown1」とするが、こいつの規模は大和クラス。いや、その後継艦として考えられていた紀伊クラスであることが分かっている」
新たに写真が何枚か表示されている。ぶれてはいるが、艦首、主砲、艦橋等が写っていた。確かに、大和型戦艦に似ている。翼の生えた戦艦大和。そんな感じだ。
「この戦いで敵戦力、特に超兵器の戦力を思い切り削ろうと思っている。まずは何よりも先に敵を行動不能にすることが最優先だ。では、部隊編成を行う」
出撃命令が出たのは陸軍から輸送部隊を除く全部隊。海軍から一航戦の残り半数の戦力のうちの半分、空軍も残っている戦力の半分を投入下。そして、ブルーバード隊。
「敵艦船への攻撃は我々が行う。君たちは敵航空戦力を削ってくれ。頼んだぞ」
ブリーティングルームにいた全員が敬礼し、艦長も答礼する。そして慌ただしく駆け出していった。
2016年1月1日0900 周防大島近海
敵はやはり九州からやってきた。飛行戦艦を中心に、守るような形で戦闘機が随伴している。
「久しぶりだなブルーバード。あんたたちと俺たちで奴らを挑発してあのハリネズミを丸裸にするぞ」
近づいてきたのはシンガポールでともに戦ったシャドウシーカー隊。彼らもあの攻撃から生き残ていたのだ。
「あれはレールガンを積んでいる。当たったらひとたまりもない。気をつけろ」
「本当にハリネズミじゃねえか。あれ作った奴らジャパニーズアニメの見過ぎじゃねえか? 確かに男のロマンが疼くけどよお」
「確かに。日本人の自分が言うんだから間違いない」
「あ、そこはブラックじゃなくて隊長が言うのか」
「ゴタゴタ言ってる暇はない! 来るぞ、全機ブレイク!」
敵の主砲がこちらを向き、白く輝き始めたかと思うとすべてを焼き尽くすレールガンを放った。咄嗟にバレルロールで回避する。
「ブルーバード隊、左舷側を攻める! 自分についてくるんだ!」
『了解!』
「シャドウシーカーは右舷をやるぞ!」
『アイアイサー!』
敵はやはり大きい。護衛の戦闘機たちが豆粒のように見える。Mig-21なのでより小さく見えるのだ。
『ブルーバード、交戦!』
『シャドウシーカー、エンゲイジ!』
Mig-21は小さく、小回りが利く。大型戦闘機であるF-15やYF-23では分が悪い。だが、彼らは歴戦の傭兵で、様々な機体と過去に戦ってきたそんなことはわかりきっている。わざと失速したり急旋回することによって機体のハンデを補っていた。だが、F-15よりも機動力のあるSu-27や、JAS-39ですら追いつくのが難しい。何よりも小さいというのが彼らに距離感を狂わせ、撃墜するも破片の雨を浴びてしまうこともあった。護衛戦闘機の壁を通り抜け、戦艦の右舷にたどり着く。
「大きい……」
ホワイトは思わず呟いた。
「おい、見とれてる暇はないぞ。俺達の任務は奴をさっさとこいつらを瀬戸内海、いや、西日本から追い出す事だ」
ブラックもその巨大さに圧倒されながらも、なんとか冷静さを保つ。しかし、本当に巨大だ。と、その巨躯に動きがあった。
「なんだ?」
「熱の流れを感知したよ! あれは、排熱口かな?」
レッドが確認しようと近寄る。黒い表面に隠れるように配置された対空機銃が火を吹いた。
「レッド君、回避するんだ!」
「!? ヤベッ!」
レッドはF-15のアフターバーナーに点火、緊急回避する。だが、それを追うように敵の高角砲がイーグルを追い立てる。レッドを撃墜させまいとブラックが陽動のために機銃を放つ。
「しばらく持ちこたえろレッド! ブルーバード4、FOX3!」
「早くしてくれ!」
フランカーから放たれた四発の弾丸は巨艦の船体をまるでノックするかのような音を立てて海に落ちてゆく。だが、挑発としてはこれで十分だった。
『全戦闘部隊に攻撃及び撃墜を命じる。各艦も攻撃を開始せよ!繰り返す……』
『こちら日本海軍巡洋艦愛宕。SM-2を発射! 弾着まで十秒!』
『こちら米海軍ミサイル駆逐艦マッキャンベル! ハープーン二発発射! 弾着まで二十秒!』
海軍日章旗を掲げたイージス艦愛宕は搭載された垂直発射装置VLSからSM-2を発射する。船体を焦がすような勢いでミサイルは発射され、真っ直ぐに敵巨大航空兵器unknown1に接近する。そして米海軍所属のミサイル駆逐艦もハープーン艦対艦ミサイルを発射した。
ブラックやホワイトはミサイルを発射しようとするが、高射砲やレールガンなどの攻撃に晒されて発射が出来ない。無理にやれば、自身の機体を敵のレーザーで焼き尽くす事になる。
『こちらグリーンだ。ブルーバードとシャドウシーカー、ミサイルがunknownに弾着する。至急敵から距離を取れ!』
発射されたSM-2は真っ直ぐunknownに向かう。ミサイルの航路に入らないよう、unknownを引き付けながら敵の注意を引き付ける。SM-2艦対空ミサイルはunknownの主翼に命中し、主翼の中心に穴があく。SM-2は戦闘機を目標に作られたミサイルであるため、飛行戦艦には力不足であった。しかし、直ぐにアメリカ海軍が発射したハープーンが飛来する。
レールガンの一つが高く飛びすぎてしまった一発のミサイルを撃ち落とした。しかし、ブルーの放ったミサイルが胴体に直撃し、敵の注意が削がれた。その時、ハープーンの一発が艦底に直撃する。だが、それも突き刺さったとはいえ、分厚い装甲を突き破るほどの爆発は起こらなかった。
「クソッ、硬すぎる!」
「だが穴が開いてるぞ! あそこにぶち込め!」
「ハープーンならぶち破れるんだ! ほかのミサイルは囮に使え! 本命のハープーンをやつの赤いドテッ腹にぶち当ててやるんだ!」
「こちらミサイル巡洋艦アーティンタム! ミサイル発射!」
「こちらシャドウシーカー。全機、FOX2、FOX2!」
「こちら金剛。ミサイル発射」
何本ものミサイルがunknownに向かって飛び出す。何本も撃墜されてしまうが、それでも何度かunknownが爆発を起こした。
《屎!(くそ!)》
その頃、unknownの指揮官は衝撃に耐えながら悪態を吐いた。コントロールルームには被害はない、しかし主砲である電磁投射砲を打ち出す為に搭載したガスタービンエンジンの排熱ができなくなったようだ。通信が入る。
《受害!?(被害は!?)》
《不要紧! 是受到损伤的癞蛤蟆……( 大丈夫です! 損傷を受けましたがまだ……)》
《到西取前进的道路。撤退(進路を西に取れ。撤退する)》
《是,明白了。这里撤退(はい、判りました。ここは撤退します)》
指揮官は苦虫を噛み潰した表情で進路を変更するよう指示した。
混線していたらしい無線を聞いた中国語がわかるパイロットの一人がそれを日本語に翻訳し、それを更に英語に翻訳して全軍に伝えた。
『てことは、俺たちは、勝ったのか?』
『ああ、勝利だ。次は九州を解放するぞ!』
『おおっ!』
だが、敗戦からの勝利に浮かれていた彼らは敵が最後っ屁とばかりに主砲を放ったことに直前まで気付かなかった。直前まで気付かなかったとはいえ、大多数が避けることに成功したが、何機かはレールガンの直撃と同時に消滅してしまう。そして、避けた機体の一部、レッドのF-15とホワイトのJAS-39がさらに狙われた。二人の機体がミサイルアラートをけたたましく鳴らしたのだ。
「ミサイルロック!? 超距離!?」
二人はフレアと回避機動のテクニックを駆使して長距離から飛来するミサイルを回避を試みる。しかし、振り切れずに食いつかれると思った瞬間、咄嗟にもう一度二人は左右にバレルロールを行った。
「レッド君!」
「ホワイト! 危ねえ!」
「「!!?」」
二人の後ろにいたのはブラックとブルー。そして身代わりのようにミサイルを受けてしまう。
「くっ! ブルーバード1、イジェクト!」
「ぐあっ! 4、イジェク……、できねえ! 起動しない!」
ブラックは自分の機体を破壊した張本人を錐揉み落下して海に向かって落ちていく中、確認した。それは機体を真っ白に染め上げ、妖精のエンブレムを描いたF-22だった。
(米軍? いや、今はそれどころじゃねえ。さっさと立て直さねえと! 今俺は右に回転しているのか? クソッ)
しかし、F-22は二人の機体を破壊したあとは他の機体には目もくれず、もときた方角へアフターバーナーを吹かし飛び去っていった。ただ、機体を染め上げる紅の残像だけが呆然とする皆の目に焼き付いていた。
「レッド君、ホワイト、ブラック君を、彼を救ってやってくれ。あと、自分の予備機体を用意しておいてくれないか?」
「「了解」」
イジェクトしてパイロットのいなくなってしまったF-2はゆるゆるとした動きで海に着水、そのまま爆発を起こした。だが、イジェクトできずに未だにフラフラと満身創痍の状態で飛び続けるフランカーはそれでもなんとか体勢を持ち直してアカギに向かってほぼ滑空していると言っても過言ではない状態で飛ぶ。
操縦桿が重い。左側の発動機が壊れたらしい。うまく動かせない。赤城まではおそらくあと五キロ。もつかどうかもギリギリで、既に左主翼のあたりから燃料が霧のように吹き出している。機体を水平に保つことができない。少しでも操縦をミスすればそのまま海に真っ逆さまだ。
「ブラック! イジェクトして!」
「あー、したいところだが無理。動かねえんだ。なんとか、赤城を目指す。滑空すりゃ少しは持つはずだ。レッド、お前は先に隊長の救助をするように言ってくれ。赤城にチヌークがあるから急いで呼ぶんだ」
「ああ、待ってろよ。お前も何とかしてもらうようにするからな」
イーグルが加速して赤城へと向かう。ブラックの目に赤城かどうかまではわkらないが空母が見えてきた。味方の母艦であることを祈りつつ滑空する。
『こちら空母信濃。煙が出ているようだが大丈夫か』
「こちらブルーバード4。そろそろ燃料がなくなる。緊急着艦させてくれ。無理なら赤城の場所を教えて欲しい。機体状況は現在三百ノットで三千フィートを滑空中。おそらく機体の左がやられている」
『了解、ブルーバード4。今こちらに君の専属整備員だという女性が来ている。君の着艦を許可しよう。一緒に連れ立っている僚機の君も着艦してくれ』
「「了解」」
滑空するフランカーの横をCH-47がすれ違う。おそらくブルーを含むイジェクトしたパイロットたちの救出に行ったのだろう。エンジンを切っているので徐々に速度が下がる。現在百二十ノット。着艦のできる速度だ。だが、やり直しのきかない一回限りの着艦。無茶な着艦はするなと言われていたが、するしかなさそうだ。ギアダウン。脚を下ろしてフックも下げる。信濃の広い飛行甲板に足をつけることに成功した。甲板の士官たちが驚きの目で見つめている。
三本目のアレスティング・ワイヤーに引っ掛けた直後、そこで限界が来たのか左着陸脚が嫌な音を立てては破砕。その時に起こった火花が左主翼から漏れ出す燃料に引火、そのまま炎が青い機体を包んだ。
信濃の甲板上に、奇妙な静寂が訪れた。整備員の森井曹長がくずおれ、座り込んで呆然とし、それは一分か一時間か、一秒あったのかも分からない。時間が止まったかのようだった。だが、着艦したホワイトが叫んだ時、基地はまるで止まった時間が動きだしたかのように慌ただしくなった。
「救護隊、消火班急いで! 搭乗者の救助、機体の消火、とにかく出来る人はやって!! お願い!」
その言葉で全員が我に返り、トーイングカーに乗っていた兵士は走り出し、格納庫から消防車が飛び出して飛行甲板を突っ切る。少し遅れて救急車も発進して、それを見届けホワイトは一旦格納庫に戻って取りあえず必要ならばキャノピー破壊用の工具を準備しようとして、格納庫に座りこんで青ざめている森井曹長を見つけた。
「整備員さんしっかりして! やる事はあるんだよ、早く助けないとだめなんだよ、ブラックが死んじゃうんだよ!」
「……の……い……」
座り込んでる森井曹長をなんとか立たせようとして、しかし彼女が震え声で何か呟いているのを聞いてホワイトは一旦手を止めた。
「工具持って救助隊の手伝いに行って!」
手近に居た整備兵にそう告げると、ホワイトは彼女と向かい合う形で座り込み、肩を掴んで揺らして意識をはっきりさせようとする。
「整備員さん、しっかり! どうしたの、しっかりして!」
「……私……い」
「今は落ち着いて、救助する事が先決だよ! ほら立って、出来る事はあるんだから!」
「私の……せい……」
その一言。ホワイトはこの緊急事態のもうひとつの原因の察しがついた。だが、それを知った上でどう対処すべきか迷った。自分はパイロットで、彼女は整備員。どう声をかければいいのかわからなかった。
「整備員さん! 整備員さん!!」
今は彼女を正気にさせるのが先決だ。ホワイトはそう判断して、森井曹長に呼び掛ける。だが、反応しない。ただ、地を失ったのかというほど青ざめた顔で私のせいだと呟き続け、まるで魂だけそこにないかのようにその場に座り込み続けていた。
ホワイトは、多分何もできないと思った。そして、もしかしたら森井曹長は立ち直れなくなるかもしれないと、恐れた。
青ざめていく彼女を見つめ、原因の一端は自分にもあるので、何も言えなかった。森井曹長を突き動かす言葉が出なかった。
燃え盛るエンジンと燃料の焼ける臭い、辺りに広まる煙、そして救急車両のサイレンの音が、森井曹長に届かないホワイトの呼びかけの虚しさを引き立てるかのように鳴り響いていた。
次回は2/19更新予定です。
韓国と北朝鮮ではなく、朝鮮と一括しています。アメリカ・日本または日本・アメリカという表記は前者が主戦力ということになります。
どうしよう、とんでもなく長くなってしまった。